冬に咲く青いバラ(01)
本編の登場人物
リリウス・マクローエン
本編の主人公。マクローエン家五男。ケツにスプーンねじ込む悪魔と恐れられている変態。番外編では8~9歳。
ファウスト・マクローエン
マクローエン家次男の病弱なメガネ男子。絶世の美貌と風雅な佇まいから最果ての貴公子と呼ばれる。妾の子であるリリウスに対しては厳格に無視を貫く。
季節は夏の真っ盛り。北極圏に位置するマクローエンも七月ともなれば気温二十度を超えるいい感じ。でも九月の終わりには雪が降り始めちまうんだよね、夏ガンバレもっと長生きしろ!
「正座ぁぁぁああ!」
青々とした深緑の山中に俺の怒声が響き渡る。
相手は山賊、舐められたら負けだから気合い入れてくぜ!
「正座しろやああああああああ!」
地面に倒れ伏しながらスプーンの刺さったケツを押さえている六人の山賊どもは各々うめきながら初めての痛みに戸惑っているが知ったことかボケェ! 右回りして順にケツを蹴り上げてやるぜ!
「ひぎぃ!」
「あんぎゃああああああああああ!」
「ひぃっ、ひぃぃぃぃいいいいい!」
「ひぐぅぅぅ!?」
「やめっ、やめてええええええぎゃああああああああああああああ!」
「悪魔め! 悪魔めぇぇええええええあああああああああああああああああ!」
泣け、喚け、俺はお怒りだよ!
「馬鹿者どもが、正座しろォ!」
「う…うす」
山賊どものリーダーらしき熊みたいに大柄な巨漢がおそるおそる正座……しようとしてケツを浮かせる。そんなものが正座と認められるか!
「そんなものが正座と認められるかボケェ!」
「しかしだなケツが痛くて……」
「誠意が! あるなら正座できるはずだ! 例えケツにスプーンが刺さっていようができるはずだ!」
「た…例えもクソも実際にケツにスプーン刺さってんだぞ無茶言うな!」
「うるせえ山賊がァ、ド頭にソードぶっ刺してやってもいいんだぞ!」
山賊が泣きながら見事な正座をする。嬉し泣きとはドMの素質あるなこいつ。
山賊のリーダーが目配せすると下っ端山賊どもも正座を始めたがケツが浮いてやがる。まぁいいだろう、そもそもケツスプーン正座できる根性のあるやつが山賊なんてやるかよ。
「そもそもだ、領主家に断りもなく山賊稼業とは、てめえらいい度胸だなあ!」
「……いやでも」
「なあ?」
「やっぱりそう思うか?」
「うーん」
山賊どもが何やらひそひそ内緒話してやがる。
相談の後、山賊リーダーが意見をまとめておそるおそる上申してきた。
「領主に許可貰ってからやる山賊って山賊とはちがう何かでは?」
「そーゆーこと言ってんじゃねえんだよ、うちの領内で山賊やるなって話だよ!? 山一つ下ってフォルセでやれフォルセで、うちの三倍は栄えんだろ!」
まったくロクデモナイ話だ。貧乏人しかいない土地で山賊やって何が楽しいんだよ、元々貧乏なのに山賊が出ると商人の足が遠ざかるからこっちは大迷惑なんだよ!
こちとら食料自給率34パーセントの超ド貧困領地だぞ、主産業の陶器や織物を仕入れに来る商人が金落とさねえと冬越せねえんだよ馬鹿野郎!
マジで北極圏は人の住める土地じゃねえぜ……
「いや、それが……俺ら元々フォルセにいたんだ。つか元々フォルセの農村の生まれなんだ」
「あそこも大概枯れ切っててなあ……」
「山賊なのに盗る物もないんじゃ商売お手上げで……」
「それでどこか新しい土地に行こうってみんなで相談してな……」
さらに貧しいマクローエンに北上するんじゃないよ。
さらに南側のランダーギアとか東のコリントとか西のバイエルとかあるじゃん、マクローエンはねえよ。
「ランダーギアは冒険者が多くてな……」
あー、ダンジョンあるからなあ。
レベルの上がった冒険者が多い土地で山賊稼業なんて完全に冒険者の餌だよな。
「コリントは騎士が多いし」
あそこは領内に貴族家が八つもあるせいか領主お抱えの騎士団の質が高い。無理すぎる。
「バイエル辺境伯領は……考えもしなかった」
国境付近の最前線で山賊っつーのもおかしな話だな。
山賊稼業も色々大変らしい。でもやっぱりマクローエンはねえよ、帝国有数の貧困地帯じゃん。
「最近マクローエンはイケてるって噂で聞いたんだ、なー?」
「おう、開拓村を作るために資材と人を集めてるって聞いたな」
「マクローエンに資材を運び込む馬車列見たけどかなりの量だったしな」
なんだと初耳だぞ?
人口増加による経済活動の活発化なんて頭の良さそうな計画だな、ファウストかな?
「マクローエンはいい噂を聞いたことなかったが、景気がいいなら行ってみるかって思ってな」
山賊一同が頷く。
なるほど、話はわかった。
「景気のいい土地に仕事探しに来るならともかく、山賊やりに来るとかざけんじゃねー! だいたい! 真面目に働きもしねえで、なんでまた山賊にこだわるんだよ!」
山賊リーダーが黙る。
おい、ここは涙ながらに病気の妻や子供の存在を示唆して同情を買うべきシーンだぞ?
俺も悪魔ではない、最初の一回目の気の迷いくらい許してやるぞ?
「働いたら負けだと思っている……!」
よし、同情の余地なし!
労働意欲皆無の山賊どもは縄で縛って町まで連行。この世界の犯罪者は奴隷行きだぜ!
鉱山労働かな? 闘技場で魔物とステゴロかな? それとも特殊な変態の玩具かな? 悪党の末路ってのは大概悲惨なもんだ。
「おう、おう、お~れ~はリリウース! ガキ大将~~~!」
オッスおらリリウス、帝国生まれの帝国育ち、チャキチャキのマクローエンっ子さ。
俺マクローエンっつークソ田舎のクソ貧乏な男爵家の庶子の五男とかいう夢も希望もないクソッタレな生い立ちなんだ。
そんな俺には一つだけ秘密があって、実は心は日本人の広島男児の転生者なんだ。
マジで特に大した理由はないけどみんなには内緒だぜ、正直に打ち明けても二度と出てこれない精神病棟に放り込まれるだけだしね。
「てーんーかむーそうーのおーとこだぜー!」
そんな俺はステルスコートさんとかいうチートアイテム使って剣と魔法のファンタジーを満喫してるんだ。朝から晩まで魔物狩りでレベル上げ。ついでに山賊退治もしているから領民からは慕われているんだ!
「ひっ、ひぃやああああああああああああああ! リリウス様だー!?」
「なっ、なにぃ!?」
「悪魔だー、マクローエンの悪魔が来たぞー!」
「野郎どもは逃がしな、ケツを掘られるよ!」
「みなさん早く教会に避難して! 急いで!」
強面の山賊六人を連行しているせいか、領民が蜘蛛の子散らしたみたいに逃げていくぜ。だがみんな安心してくれ、俺がみんなを守るから!
「ぼっちゃん、ぼっちゃん」
縄で縛った山賊引き連れて街中練り歩いていると山賊顔負けの厳つい冒険者が声をかけてきたぜ。
この髭面の厳つい冒険者はバーンズ、弟とコンビで活躍するバーンズ兄弟といえばマクローエンでも一番の冒険者なのに強い魔物が出ると泣きついてくる困ったやつだ。
「なんだい?」
「言っちゃアレなんですが町の連中がビビってるのは山賊じゃなくてぼっちゃんでは?」
「………………マジで?」
「えっっ、自覚なかったんスか!?」
自覚て……え、昼夜を問わず領内の治安維持や流通に腐心する俺のどこに怖い要素あるの?
俺マクローエン・ジャパンで言えばゴールキーパーくらいの守護神してるよ?
「ぼっちゃんの刃が悪党と魔物だけに向いてるわけじゃないのが原因ですぜ」
「えー、他にはイケメンくらいにしか向いてねえけどなー」
「それがいけねえんでやすよ。もちろんあっしらは応援しやすが」
町の連中を見渡せば女子供にイケメンは逃げ回ってるのに、ブサイクな男子と厳めしい冒険者だけが俺に向けて、心温かなサムズアップをしている。
もしかして俺ブサメンとコワメンからしか支持されてない女性票ゼロ男なの?
ちょっとショック。
お、ファウスト兄貴発見! 教会の門前で町長さんと雑談してやがるな。さてはトイレでも借りにきたのか?
「少額ではあるが御寄進する。収穫祭の費えにでもしてくれ」
「何ともったいない。ですがこれで民も喜ぶでしょう、せっかくの収穫祭も酒が足らぬでは盛り上がりに欠けますからな」
「この地での生活が苦しいことは我ら領主家とて理解している。これで民の心が一時でも安らげばと思うが……」
「その御心遣いだけで、皆も喜びましょう」
身銭を切って寄付とはえらいなこいつ……
「キャー! ファウスト様、お仕事はおしまいですか、ぜひお茶でもしていってくださいまし!」
なっ、どこからか女子が押し寄せてきやがったぞ!?
「ファウスト様、ケーキを焼きました!」
「うちへ、どうぞうちへお寄りください!」
「しかし私にはまだ仕事が……御免」
「「「キャー、ストイックなファウスト様もステキィ~~!」」」
パコン!
俺はなぜか発作的にファウストの光り輝く美貌を殴っていた。なぜだろうか、なぜか涙が止まらねえんだ……
「…………」
無言で立ち上がったファウストはジロリと俺を睨むなり、
「フン……!」
鼻を鳴らして去っていった。
女子の集団もぞろぞろあいつについていくぜ。ナニあいつダイソ〇なの? 年々吸引力の性能向上してんだけど? あの、女子のみなさん俺に向かってツバ吐くのやめてください……
「そうそう、そういえばぼっちゃんに伝言があるんでさ」
「やだ、もう帰ってふて寝する」
「どんだけ傷ついてんスか。いやね、アルムの小僧が注文の品が届いたって言ってやした。何か取り寄せしてたんですかい?」
マジか!?
ソッコーで職人街の鍛冶屋を訪ねる。見た目なよっちい鍛冶屋の二代目、アルム君(30歳童貞)がニヤリと笑いながら、一振りの短剣を鞘から引き抜いた。青い銀光を放つ刀身は美しいを通り越して神々しい……
「こいつは一級品ですよ」
「おおう、ふつくしい……」
念願のミスリルソードゲットだぜ!
毎月コツコツ兄弟からお小遣いパクり続けたルドバト貯金が金貨二十枚に達したので、遠方のミスリル採掘地から本場のミスリルの短剣をお取り寄せしたのだ。
「ほほう、ぼっちゃんもこれでミスリル持ちですかい。もう立派な戦士ですな! ……ちょいと失礼」
バーンズがミスリルの短剣を手に取り、炉の明かりにかざしてじぃっと眺める。
「こいつは相当な業物だな。おいアルム、ほんとに金貨二十枚で仕入れたのか? お前の方でちょこっと色つけてねえよな?」
「仕入れられても精々二級品だと思ってたから僕も驚いてるよ」
「剣の出来なんかよくわかんないんだけど、そんなに良い出来なのかい?」
「ええ、こいつは町工房の職人が打ったようなチンケな物じゃない。ミスリルの大採掘地セルジリア領ご領主様お抱えの名工が打った逸品のような……」
アルムが柄頭の仕掛けを外して刃を外す。
「ああやっぱりだ、名工ライナックのサインが刻まれてる! 市場に出回れば金貨二百枚は下らない名剣ですよこれ!」
「お前のとこの出入り商人ナニモノだよ……俺のも仕入れてくれ」
「お金あるんですか?」
「すぐ貯めるわい。ええい、信用しろ、俺だってミスリル欲しいんじゃ!」
「バーンズさんすぐに飲んじゃうからなあ……前金ならいいですけど」
「ぼっちゃんお金貸してくだせえ!」
「やめろ、野郎に抱き着かれる趣味はねえ! 離せ!」
俺が鼻水垂らしながら半泣きする髭もじゃ野郎に抱き着かれた時、鍛冶屋の扉を叩く者がいた。
背の曲がった老人だ。風が吹けば倒れそうな痩身だが、そう簡単には倒れたりはしないだろうと確信させるだけの強かさも兼ね備えた老人がペコリと頭を下げてきた。ええい俺から離れろバーンズ!
「マクローエン家ご子息リリウス様でございますか?」
「どなたですかね?」
何だかわからないけど厄介事のにおいがするぜ、不思議だな!




