冬に咲く青いバラ(06)
帝都守護竜かあ、いったいどんな乗り心地なんだろうな!
からの……
無邪気にワクワクしていた頃の俺を殴りたい!
翼の一羽ばたきで浮遊した帝都守護竜が、次の瞬間には超速度で急上昇!
あっと言う間に雲の高度まで舞い上がった守護竜がマッハで空を駆け抜けるぜ!
風圧がやべえええええ! さみぃぃいぃっぃいぃぃい!
酸素も足りてねえぇぇえええぇ!
俺と騎士一同は帝都守護竜の鱗に打ち込まれた杭から伸びる鎖を掴む形でドラゴンライダーしているのである。
つまり鎖から手を離したら高度うん千メートルから即死ダイブするのである。
馬鹿なの! この乗り方考えついた奴頭悪いの!?
やべーよ、帝都守護竜やばすぎんよ!
屈強な騎士どもが必死こいて鎖に掴まる風圧の中で、閣下とハイランド候なるおっさんだけが守護竜の頭の上で余裕こいている。鎖にも掴まらず直立不動とかどんな体幹してんですかね……
唯一の救いは三分で到着したことだ。
帰りは徒歩で帰ろう……
雪原に着陸した守護竜から、吐き出されるみたいに飛び降りていった騎士どもが揃ってゲーゲー吐いている。
俺も吐いてる。これ完全に人間が乗っていい生き物じゃねえ。
酸っぱい香り漂う雪原でデブ発見。お前もいたんかいな。
「よお」
「ひ…久しぶりぃ……」
デブの顔色が土気色してるぜ。
「ちなみに、帝都からうちまでどんくらいかかった?」
「覚えてない……三回くらい意識失ったのだけ覚えてるけど……」
よく死ななかったなこいつ。
デブの背中をさすってやると泣き出した。わかるわかる、人の優しさに触れると涙が出てくるよな。
「ひぐっ、ひぐっ……お腹すいたよぅ……」
「腹ぺこで泣いてたんかーい!」
優しくして損したぜ。
ケロっとしてるお嬢様はさすがだぜ。未来で救国の女騎士マリア様と五分でかちあうだけあるわ。
「ねえリリウス、さっきからみんな気分悪そうだけど、どうしたのかしら?」
弱い人間の気持ちわからない二号発見。
お嬢様、誰もがお嬢様と閣下みたいに強靭なわけじゃないんですよ!
「変なの」
お嬢様が可愛らしく首を傾げる足元で、まるっこいおっさんが雪原を這いまわっている。
見ようによっては逃げようとしているふうにも見える。やべー魔物退治だもんな、俺だって逃げてえよ。
「ひぃ、ひぃ、ひぃ……!」
どこかで見覚えのあるおっさんだなー、と思ったらフォルセ子爵だよ。
こいつのせいで苦しんでる村人がいると思うと腹立ってきたぜ。ちょうど錯乱してるっぽい今もしかしてチャンスじゃね? とりあえずスプーン刺しとこうかな?
「おお、ここにいたか子爵……なぜ子爵のケツにスプーンが二本も?」
俺とお嬢様がやりました。
「わ…わたくしは知りませんッ!」
「閣下、俺も何も見てません!」
閣下のお察し力が火を噴くぜ。具体的にはスルーしてくれるんだ。
「うむ。では行くぞ」
「どちらへ?」
「この先にある農村だ」
閣下が気絶したフォルセ子爵をずるずる引き摺りながら雪原を歩く。
俺とロザリアお嬢様、相当な実力者らしき貴族連中も閣下に続く。満身創痍の騎士団ももぞもぞと起き上がり、重い足取りで続く。
デブ泣くな! 農村いったらメシ奢ってやるから歩け!
「なんだかピクニックみたいで楽しいね!」
「そうですね!」
俺は心にもない嘘をついた。
だってやべー魔物退治だもん、ぜってえひどい目に遭うやつだよこれ。
何だかよくわからないけど適当についていったら、夏に会ったカトル村の村長さんと再会したぜ。
「うぅぅぅ、リリウス様のご厚情には何とお礼を申し上げたらよいか……」
なんか俺が軍を率いて救援に駆けつけたみたいな勘違いしてない?
俺なにもやってないよ、状況さえ掴めてねえよ? こんな事なら閣下の説明きちんと聞いとけばよかった。村人揃って拝まれても困るぜマジで。
「カトル村の代表はお前か?」
「はい、この集落の村長を自任するラウスにてございます。誠に失礼かと存じますが、あなたさまの御名前はもしや?」
「うむ、帝国騎士団団長ガーランド・バートランドである」
村の衆が一斉にどよめく。
そりゃ国軍トップが出てきたら驚くぜ。
「森の魔物は帝国の威信に懸けて必ずや討伐すると約束しよう」
「ははぁ~~~!」
村の衆揃って土下座しちゃった。水戸黄〇みてーだな!
ちなみに凍死寸前の騎士団は村の広場を借りてお昼ご飯タイムである。守護竜に一月分の糧秣を積み込んできてるので、ついでにガリガリに痩せた村人にもお昼をごちそうしてる。
THE優しい世界。
閣下は邪悪な存在ではないんだよな、怖いけど。
「進軍は明日の朝早くとする!」
騎士団は農村内の住居に分散宿泊、今夜一晩しっかり休息を取るらしい。森の案内に村から若い衆を数名借りる約束も取り付けている。ついでに子爵のお屋敷に人をやって食料や資材の追加もさせるらしい。
俺とお嬢様とデブは村長のおうちにお泊りだ。平屋の四十畳一間はほのぼのしてるね。
気分は正に修学旅行。夜は三人で朝まで雑談し……
スパン!
ひぃぃぃいぃぃ! 閣下が押し入ってきやがった!?
「早く寝ろ」
引率の先生かな?
朝になると昨日は死にかけていた騎士団がすっかり復活していた。
広場に集った騎士団は、どいつもこいつも戦に狂った目をしながら剣の手入れをしている。
「へへへ、戦はまだか。楽しみで武者震いしてきたぜ」
お前風邪ひいてね?
「右手の封印が疼く……!」
お前は中二病じゃね?
「あー、殺してえなあ! 魔物ぶっころしてえなあ!」
お前は、ちょっと手遅れみたいですね……
「お嬢様かわいいなあ!」
今日イチやべーやつ発見! 閣下、こいつです!
遅れてやってきた閣下が神剣アキシオンを凍土に刺し、柄頭に手を置いて号令をかける。
「せいれーつ!」
ゆらりと立ち上がった騎士団からやべー威圧感が放射されるぜ。
冒険者でいうとAランク帯のレベル40超えのやべー連中だからなこいつら。昨日の醜態まだ覚えてるけど。小動物みたいにふるふる首振りながら震えてたの覚えてるけど。
「騎士団はこれよりカトル村北部の森を南側から攻撃する!」
ん? それだと森を攻撃するみたいに聴こえますよ?
「戦術は破壊戦闘団を選択、各小隊は二個分隊を形成、後備えは俺直属の精霊獣撃滅小隊とともに敵主力との戦闘をメインとすると心せよ。進軍開始、蹂躙せよ!」
「「「応ッ!」」」
騎士団が奇声を発しながら、森に向かって一斉に走り出していった。
すげえ勇ましい光景だ。コミケッ〇とかで行列無視して入場していいですよ、って言われたらこんな光景になるだろうな。
おおう、なんか爆発音が聴こえてきたぞ。
「お嬢様、俺らも行きましょう!」
「あの丘まで競争ね!」
競争はおかしいよね!?
デブが樽の中に隠れようとして詰まってやがる。黒髭危機〇発みてーだな! 樽ごと担いでお嬢様の後を追うぜ!
「うわーん、見逃してくれよ~~~~!」
やだ。お前だけ安心安全な場所に隠れてるとか絶対に許さない。
そーゆーところだぞバイアット、お前がお嬢様の身を案じて一緒に隠れてるのなら見逃したが、そーゆー自己保身モンスターっぷりを発揮するから俺も鬼になるんだ。
俺はそうした内容で懇々と諭してやった。
「お嬢様が逃げ隠れするとか想像もつかない……」
「めっちゃ勇敢だもんな」
やべー魔物に嬉々として突撃しちゃうお嬢様ぇ……
心配で目を離せない! ある意味アルドより危険人物だ。
丘上からの眺望。眼下に広がる森は―――燃え盛っていた。
轟ッ!
七つの炎の竜巻が森の南側から北上して森を蹂躙している。聞き間違いかと思ったがどうやら違いはないみたいですね、完全に森がターゲットです。
丘上では魔法の得意な騎士が整列して、炎の竜巻を制御している。お嬢様も一軒家大の大きさの火球を森に撃ち込んでいる。
そして炎に包まれた森では―――
「アキャキャキャ!」
「殺せー! 殺せぇぇぇぇええええ!」
「殺してもいい生命はどーこーだー?」
奇声を発しながら戦に狂う騎士団が逃げ惑う魔物を斬殺している。
魔物も動物も木々も、目につくすべてを殺害する気だぜこれ。帝国騎士やばすぎぃ!
「よぅし、わたくしたちもレッツゴーよ!」
「お……」
「おー……」
勇ましいお嬢様に引き連れられて俺らも森に突入する。
正直不安しかない。お嬢様のレベル三だもん。デブも三だもん。
え、俺この面子を守りながらやべー魔物と戦わなきゃいけないの!?