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悪役令嬢の手下Aだけど何か質問ある?  作者: 松島 雄二郎
大森林の都ベルサーク
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野良犬 VS ハゲ犬 九式竜王流もいるよ!

 イデじいさんはベルサークを出て渓谷の途中まで送ってくれた。


 渓谷に漂う霧の結界は、道順を覚えているいない程度の認識で出入りができるような場所ではないらしい。つまり特殊なアイテムを持っていない物は絶対にたどり着けない仕組みらしい。


 幻の都の正体見たり、霧の結界。

 ステルスコートの作られた神代の魔法では現代の人間が近づけないのもよくわかるぜ。


「レテ君には霧の結界を無効化する聖印を授けておこう」

「……どうしてあたしに?」

「全てを知った君には次代の長老の資格がある。幾数十年か後、彼らが再びベルサークを訪れる日が来たなら君が案内しなさい」


 全てを知ったの全てが、全てではないと邪推している俺とフェイは、レテの小さな胸に不思議な聖印が刻まれる光景を嫌な気分で見ていた。世の中には知らなくていいこともたくさんある。


 レテもまた何百年後に、おばばさまと同じように何も知らずに若い娘をベルサークまで連れてくるのだろうか?


「ありがとうございます!」


 イデ=オルクがいなくなるとレテは俺達に頭を下げてお礼を言った。


 お礼を言われたのに非常に居心地が悪い。なにしろ彼女を襲った不幸の源泉は俺だ、普段の軽口も出てこねえレベルで俺が悪いんだぜ。


「礼はやめてくれよ、悪いのは全部こいつだ」

「な ぜ 僕を指差すのか? お前だお前、全部お前のせいだ!」

「責任の押し付け合いはよそうぜ、強いて言えば俺とお前の両方が悪かったんだ」

「お前しか悪くない!」


 と漫才をしているとレテがようやく笑ってくれた。

 里ではあれほど元気一杯だったレテが笑顔を失っていたのはけっこう辛かったんだ。俺のすべり芸もまぁまぁ意味はあったらしい。


「たしかに悪いのはリリウスかもしれません」


 おっしゃる通りです。


「でも助けてくれたのだから、お礼はするべきだと思ったんです」


 レテええ子やな。こんな良い子を騙すなんて絶対に許せねえよ!

 ベルサークを出て二日、ようやく渓谷を抜けて森に入ったらへんからフェイの様子がおかしくなった。変なタイミングでキョロキョロし出したり、何もないところをじっと見つめたりと妖精でも見えてるのかこいつ。


 可愛い可愛い目つきの悪い妖精さんならお前の目の前にいるぞ。俺な!


「くそっ、ついてきてやがるな……」

「まさかアクセルか?」


 名前を言ってはいけないあの人みたいに、レテの顔が青ざめる。

 そりゃレイプ魔が追って来ていればそんな顔にもなる。


「一旦撒くか」


 二人の手を握って透明化。

 すると上の方からアクセルの巨体が降ってきた。


 ずしん!


 重い着地音を想像したのに猫のように音もなく着地したハゲ人狼はかな~りイラっときてるらしい。ハゲ尻尾がピーンと張ってやがる。


「僅かな気配さえもないとはな。こんな得体の知れないガキどもを逃がすなどイデ=オルク様は血迷われたか……くそ!」


 怒声とともに近くの大樹の外皮がはじけ飛ぶ。


 あかんあかんあかん! 腕の振りが早すぎて見えねえし威力もやべえ。ガーランド閣下とやりあってもどっちが勝つかわからないレベルだ。

 こんな怪物とまともにやりあえるかボケぇ! こんなんチートやチーターや、イヌ科のハゲだけど。


「ガキどもは骨を一本ずつ折りながらゆっくり殺してやる。娘っこは孕み袋にして愉しんでやる……」


 フル勃起したハゲに追われるとか何のAVだよ。


 アクセルが無音で跳躍してまた大樹の枝葉に隠れてしまった。一番近そうな枝まででも数十メートルはあるんすけどね。


 イヌ科の嗅覚と身体能力を併せ持つあいつにとってここは絶好の狩場となる。ステルスコートを使って逃げる他に手はない。戦えば万が一どころか憶に一つも勝ち目はない。勝ち目はないが一応多数決はとっておくべきだ。


「逃げるか死ぬかどっちにする?」

「あんな危険なやつを放置できるか、最悪レテの里を襲い出すぞ!」


 わかっている。あれは本当の意味で何でもするハゲだ。レテをおびき寄せるために里を襲うくらい平気でするはずだ。くそーあんな危険なやつ首輪も付けずに放し飼いにすんじゃねえよ。


「念のために聞いておくがフェイ、あいつに勝てるか?」

「む……」


 フェイが難しい顔で何やら考え込み始めた。

 勝ち目があるなら即答してる。どうせ世界一の武術家になるとか公言してる手前言いにくいのだろう。


「見栄の張りどころを間違えると死ぬぞ」

「あと十年修行させてくれ」


 本当に何の見栄も張らずに十年なら流石という他にない。


 レテに視線を向けるとものすごい勢いで首をブンブン振り出した。うん、わかってた。


「仕方ねえ……」


 隠れるのにちょうどいい大樹の虚に一旦飛び込む。

 久しぶりに封印ってやつを解くか。


「こいつを預かっててくれ」


 金属製の手甲を放り渡すとフェイがそのずっしりした重さに顔をしかめる。ただの防具だと思っていたものが一個当たり五十キロもする鉄塊だとわかればそんな顔にもなる。俺は次々と放っていく。計二百キロもの装具を持たされたフェイの顔相は驚愕に青ざめていた。


「まさかこれを付けて走り回っていたのか……」

「わわっ、これすごく重いですよ!」


 俺を見る二人の目に驚愕と尊敬が混ざり始める。危機状況で怪物を倒してくれそうなやつがいれば英雄にも見えるだろう。


 透明化を解除し、虚を出る。


 すぐさまアクセルが降ってきた。音のない流星のように苔生した大樹の根に降り立ち、発達した牙を剥き出しに笑う。


「ようやく観念したか。その殊勝な態度に免じたっぷり遊んでやるぞ」

「俺と遊びたいのかいハゲ犬さん。いいぜ、その生意気な態度が治るまでたっぷり調教してやんよ」


 閣下のしごきに耐えぬいた俺のちからを見るがいい。


 必殺のシャイニングウィザードじゃああああああああああ!


 …………………

 ……………

 ………は?


 ダッシュからの飛び膝蹴りを噛ましたはずの俺がどうしてぶっ倒れてんだッ!?


 くぅぅぅ、顎がくそ痛え。

 俺からだいぶ離れたところではアクセルがニヤニヤしながら手振りで掛かってこいをしている。


「……俺、いまちょっと気を失ってた?」

「少しだけな。さあ来いよ、たっぷり遊んでくれるんだろう?」

「お…おう」


 透明化する。素早くアクセルの背後に回ってど頭にミスリルソード! 安心しろ、みね打ちではないから安心して死ね!


 ガキー………ン!


「ってミスリルソード折れるのん!?」


 甲高い音色を奏でながら折れた刃が空に舞い上がるよ。

 瞬時に振り返ったアクセルが透明化しているはずの俺の腹部を正確に殴りつけた……


 …………………

 ……………

 ………はっ!


 やべえ、また気を失ってたぞ! こいつやばすぎる! てゆーか意識を失うと透明化も強制解除されるんだな初めて知ったわ。


「どうした、まだまだ遊んでくれるんだろう?」

「う、うーん……ちょっとタイム」


 リリウス軍一回の表、チャージドタイムアウトを申請。


「いいぞ」


 タイム承認! 本気で舐めくさってやがるぜちくしょう。


 大樹の虚に戻った俺を待っていたのは罵倒でした。


「あんだけ! 自信満々で出ていっておいて五分もたないのはどういうわけか!?」

「あなたってばあんなに格好よくたたかいにいったのにぃ!?」


 言いたいことはよぉくわかるけど無理ゲーすぎんよ。

 そこらへんの魔物なんか問題ない程度には俺も強いはずなんだがな。


「選手交代、リリウス選手に代わりフェイ選手」

「……やるしかないのは理解している」


 フェイが出ていくと激しい戦闘音が聴こえてきた。


 ちょいと休憩を挟んでから俺とレテが虚からひょいっと顔を出すとフェイが弾丸のような速度で大樹の幹に頭から突き刺さるシーンだった。これ死んでるよねえ!?


「ええい、くそ!」


 フェイが涙混じりのヤケクソで幹から埋まってた上半身を引き抜き、手招きするアクセルへと跳躍で襲い掛かる。


「九式空の章ッ、翼竜爪斬!」


 ザザゥ!


 ライダーキックかと思えば両足を挟みのようにしてアクセルの首を打つがダメージなし、耐久力どうなってんすかね。

 フェイは瞬時に切り替え、ゴキブリみたいな気持ち悪い動きでカサカサとアクセルの肉体を這いまわって膝に絡みつき、掌底を打つ。


「浸透勁! 可変連撃―――」


 フェイの両手がアクセルの膝を挟む。


「勁爆!」


 ガカァン!


 人体を打ったとは思えない金属を金属のハンマーでぶっ叩いた音が森に響き渡る。殺ったか!? むしろ殺れ!


「ふふん、少しは痛かったかな?」

「化け物め! 化け物めぇえええええええええええええ!」


 フェイが飛び退って一旦距離を取り、阿波踊りのような奇妙な構えで襲い掛かる。

 くそぅ、シリアスな戦いのはずなのに九式竜王流の技がカッコ悪すぎて激しく気になるぞ!


「九式蛇骨九連!」


 目にも留まらぬ九連撃がアクセルを打ち据える―――おい四連目からスカしてんぞ!


「馬鹿な、人体の構造上絶対に避けられない必中の九連撃が!?」

「そいつは面白い。本当に避けられないかどうか試してやるか、模倣拳『蛇骨九連』!」


 アクセルの動きが加速し、先ほどフェイの放った九連撃を完璧に返しやがった。しかもきっちり全部当ててやがる。足を浮かされたフェイへと、黄金のオーラを纏ったやばそうなフィニッシュブローが迫る。


「模倣拳『勁爆』!」

「九式―――金剛勁!」


 ガァァン!


 空中での衝突は互いの手を打つに留まり、フェイがクルリと宙返りして着地……膝を着いた。

 おいおいフェイの右腕全体がズタズタになってやがる防いだんじゃないの!?


「本来右と左の勁力を挟むことで威力を増大させる勁爆を片手で打つとは……」

「仕組みがわかれば再現は容易いものだ」

「んなわけあるか! 我が祖父ロゥ・リンの興した九式竜王流の絶技を一見で再現するなど不可能だ!」

「極めたる武は全てに通ずるものだよ小僧。敵を打ち倒すその目的のためのみに練り上げた闘法は総じて似てくるものだ」


 こりゃダメだ。なんか師匠VS弟子みたいになってんだもん勝ち目ねえよ。素早く透明化してフェイを回収、この場を立ち去る。


「離せっ、僕はまだやれる!」

「無理無理やめとけ。技を全部盗まれるのがオチだ」


 というかそのために手加減されてた節がある。九式竜王流はアクセルの目から見ても習得の意義ありと判断されたわけか。


「逃げるか! だがお前らの行き先はわかっているぞ!」


 森にやつの雄たけびが殷々とこだまする。


「滾々と湧き出る泉の里。お前らがとめねば里を破壊する! さあ出てこい、俺と戦え!」


 無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ!


 あんなやべーやつ絶対敵うわけねーだろ!


 もうダメだ逃げるしかない。自分の生命以上に大切なものがあるわけねーだろ!

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