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グランナイツ出陣!

「あ、リリウス君!」


 熟睡しているカトリたんを置いて夕方のギルドに顔を出すと、シシリーという美しい受付嬢に呼び止められたが、どうしてかハラハラした顔だぞ。


「……そのぅ、あのね、変なこと聞くようだけどカトリーエイルに何かに変なことされなかった?」


 答え方に困る聞き方だな。つかギルド内の冒険者のお姉さん方まで緊張した様子で盗み聞きしてるじゃねーか。どうも有名な変態みたいですね……


「彼女は無害な変態ですよ」

「違うわ、彼女は慎重な変態なの」


 変態は変態なりに順序を踏んで今後は行為がエスカレートしていくわけか、最高に聞きたくなかった情報だぜ、他のお姉さん冒険者も揃って頷いてるし。俺もしかして危機的状態?


「俺としては問題ないですよ、綺麗なお姉さんは好きですからね」

「それならいいんだけど……」


 それはいいとしてシシリーが抱えている紙束が気になる。

 張り出す前の依頼かな?


「それ見てもいいです?」

「これ?」


 王都地下迷宮深部五十七層以降のマップ提供依頼……一フロアに付き金貨四百枚!?


 超高額依頼じゃねーか。つか王都の地下にダンジョンあるんですね……


「その顔は知らないの、王都地下迷宮といえば世界でも屈指の高難度ダンジョンで有名なんだけど?」


 ラタトナと同じクラスなんですね……

 絶対に入りたくないダンジョン不動の一位の下にもう一個加わったぜ。やっぱり二層からドラゴンいたりすんのかな?


「つかパレードとか起きたら王都滅亡しませんかね……」

「実際に五百年位前に滅亡寸前までいったらしいわよ。ほら、上層街が空飛んでる理由それらしいし」


 空中都市の理由がそれとは……

 そんな危ない場所になんでまだ住んでるんですかねえ……


「それから騎士団が年に一度定期遠征をしてモンスターの間引きをしているんだけど、まだ五十七層より下には行けていないの。今回遠征軍を任された副団長のジル様は本気で攻略する気らしくて、この依頼も副団長様の懐から出てるわ」


 ミスリル銀の装備一式が買える金額に本気度が出てますよね。


「興味あるの?」

「ないといえば嘘になります。金欠でして」


 シシリーが笑ってくれた。明るくて美人なお姉さんってやっぱりステキ。


 冒険者として正道の冒険を重ねていこうと思い直した矢先に、こんな儲け話を目にするとはな。決意が揺らぐぜ。ステルスコートさん使えば簡単に稼げそうなんだよね。


「カトリに頼めば低層までなら連れてってくれるわよ。あの子変態だけど斥候としてはかなりの実力者だから。よし、その辺も含めて色々教えちゃおう。これ張ったら休憩にするから、そこらへんでごはんでも食べながら待っててよ」


 シシリーが入荷したてほやほやの依頼を最新の依頼の場所に張り出しに行ったので適当な席について軽食を注文する。できる男はシシリーの紅茶も注文しておくぜ!


 本日の夕食はどれも伝統イルスローゼ家庭料理。夏野菜の浅漬けにピザを巻いたやつにドローレという謎の肉を使った黄金色のスープ。これ全部で銅貨四十枚だからうーん安くはねえ。


 異世界メシにはとっくに慣れたが、たまに醤油やみそが恋しくなる。


 現代知識で料理革命できねーかなーって日頃思ってるけど、作り方なんてさっぱりわからん。

 俺にできるのは精々マクローエンにホットドックを流行らすくらいで、絶対に人気出るからって作らせたはいいけどそこまで人気出なかったんだよね。やはりケチャップとマスタードが必要なんだ。


 ちなみにこの世界でトマトを見たことがない。マスタードは代用品があるんだけど高くて庶民じゃ手が出せないんだよなー。そんなもんマクローエンで売っても庶民どころか領主でさえ買えねえぜ。庶子の俺が言うんだから間違いねえ。


 だがさすが超大国の王都メシだぜ、胡椒的なスパイスも使われてて普通にうめえ。特に夏野菜の漬物がうめえ。からしが利いてて酒のツマミにしたらいくらでも食えるはず。


「お姉さーん、漬物お代わり、それと麦酒もってきてー!」

「はいはいちょっと待ってなさい! あーもう忙しいなあ!」


 ギルドはこの時間から急に人が増えてきた。依頼を終えて戻ってきた冒険者が酒やらメシやら頼み始めるので、ウエイトレスはバタバタ走り回っている。


「お待たせ」


 二杯目に突入した頃シシリーがやってきた。

 ものすごくお疲れみたいで紅茶を一気して酒を頼み出した。ルチカートという梅酒に似た発酵酒を分けてもらったら中々いける。


「お疲れさま」

「ほんとねー……どうして休憩行く前に限って混み出すかなぁ?」


 世の中には不思議な事がある。

 トイレに入っている時に限って宅急便がやってくるのと同じで、それはなぜか必然的なまでに確実に起きるのだ。ピンポン押したならせめて三分くらいは待っててほしいものだ。


「そういえば何の話するんだっけ?」

「まさかのお答え。まぁ飲みながらのんびり思い出そうか」


 俺はとりあえず定番のギャグであるところの君の瞳に乾杯から始めた。


 何も焦ることはない、口説くわけでも情報収集でもないのだ。とりとめもない仕事の愚痴を聞いてあげる時間くらい大したものじゃない。


「ぼくはなんていうか、ちょっと落ち着きすぎだよね。本当に十二歳? おじさまの相手してる気分なんだけどぉ?」


「そりゃ親父殿の影響だね。領地に愛人三人と隠し子五人もいるロクデナシでねぇ……」

「うわー、聞きたくないけど気になるー!」


 何かしらを教えてもらうはずが馬鹿話を披露するはめになった。


 でも美人のお姉さんの笑顔のためなら俺は悪にでもなる! 家族の赤裸々な秘密をもりもりバラすぜ。


 特に次兄ファウストの話はどこにいっても好評だ。薄幸の美青年が文通で密かに恋心を募らせていたご令嬢の前でケツにスプーンねじこまれながらママの名前を叫んだ挙句、いいお友達でいましょうと宣告された話は可哀想だけど面白いらしい。実際に目の当たりにした俺は五日くらい笑いが止まらなかった。


 悲劇は泣くためにあるのではない、悲惨であればあるほど笑えるのである。特に美形の悲劇はな!


 バトラの話は意図的に避けた。躊躇なく殺しに来るストーカー男の話はどん引きどころか悪夢の領域だ。


 そういえば国外追放されたはずだが今頃どこでどうしてんだか……


 馬鹿話の合間に腹違いの弟妹と遊んでやったほっこりエピソードを挟んで好感度上げも忘れない。末の妹が誕生した雪降る夜にお包みをプレゼントした話なんて、ハンカチなしには聴けない感動のタイトルだぜ。


「うぅぅぅ、こんな良い子が変態の毒牙に……」


 泣くポイントそこですか?


 そうこうと話し込んでいる内にギルド内の冒険者もかなり増えていた。

 ギルドの両開きの押戸を勢いよく開いて精悍な顔つきをした若者チームが到着した。


 ちょっと目を引く面子だ。知的そうな魔法使いのメガネ男子、サムライふうの着流し姿の二刀使い、エルフの美少女弓兵、大人しそうな治癒神官の少女、自信満々な太々しい面構えのオールバックの重装甲騎士とバランスの取れた五人チームだ……んんぅ!?


「よっしゃダンジョン前の景気づけだ。麦酒を六つくれ!」

「一杯だけよ?」

「きょ…今日はどこまで行きます!?」

「我々もチームとしてだいぶ仕上がってきた、そろそろ十階層に挑戦してもいいかもしれんませんね」

「じゅ、十階層ですかぁ~~~~!」

「なぁに心配はいらねえ。俺らにはバトラが付いてるからな、任せたぜリーダー!」


 見覚えのありすぎる目つきの悪いオールバックの重装甲騎士が重々しく頷く。


「ふっ、皆のちからを合わせればどこまでだっていけるさ」


 誰ですかねこの自信満々のリーダーキャラ?


 ちょっとキャラ違いすぎるけどバトラ兄貴だよな? え、国外追放されたとしか聞いてなかったけどサン・イルスローゼで冒険者やってるの? え、なんで此処!?


「目指すは十階層! 我らグランナイツの旗を打ち立て、三大クランに我らありと知らしめてやろうではないか!」


 あ、この自分の酔いしれてる感やっぱバトラだわ。目つきの悪いナルシストとかどこに需要あるんですかね……


「バトラさん……」

「ふっ、私に言いたいことはすべてバトラが言ってくれましたか。貴方はやはり……」

「バトラ、やっぱりお前についていこうと決めた俺の勘は正しかったな。お前はいつだって流れ者の俺に夢を魅せてくれる」

「ほーんと一々恰好いいんだからさっ」


 ええぇ……

 みなさんマジのトーンじゃないですか。ちょっと俺の知らない間にバトラに何が起きたんですかねぇ……


「グランナイツ出陣!」

「「「「出陣!」」」」


 それを掛け声にしてジョッキを飲み干したバトラチームが出ていく。


 くそー、バトラのくせに青春してやがるな。

 信頼する仲間達と恋あり涙あり冒険ありの成り上がりを目指す冒険の日々って感じかくそー羨ましい。俺なんか変態淑女の飼い犬だぞ!?


 これはストーキングせねば。絶対面白いやつだぞ!


「リリウスくぅ~ん。お姉さんさ、ちょっと酔っちゃったみたい?」


 ってシシリーが面倒くさいこと言い出した!?


「もー、お仕事はへいてーん。ねぇおうちまで送ってってくれないかな~?」


 このタイミングでそんなラッキーイベント起こしちゃいます!?

 くそー激しくバトラの様子を見守りたいけど! けど!


 シシリーについていきたいぞ!?


 うがぁぁぁぁぁああ! 悩ましいY!


「シシリー、今夜は寝かさないよ?」

「寝るんだけどね?」


 ほんとこのタイミングでトントン拍子とか間が悪すぎやしませんかねえ。


 ちどり足のシシリーに肩を貸して彼女の家だという花吹雪通りのマンションへ。三階の五号室だという。シシリーがカギを使って玄関を開ける。


「お帰りなさい」

「今日は早かったなあ」


 ご両親がおりました……

 実家暮らしとかちょっと聞いてないです……


「たらいま~~~~~~」

「まったく若い娘がこんなに酔っぱらって。おーい母さん水もってきてくれ」

「はいよ。あら、そちらの子は?」


「新人のリリウス君れ~す!」


「うちの娘を送ってくれたのね。ありがとう坊や」

「腹具合はどうだね、うちで食っていきなさい」


 超いいご両親ですねシシリーさん。


 強面なお父さんからの夕飯の誘いを固辞して扉を締めた俺は立ち尽くすしかなかった。

 この心に吹き荒れる空しさはどうすればいいの?

 完全に年上のお姉さんに弄ばれた感じなんですけど……?


「いや、まだ追いつけるはずだ!」


 俺はダッシュでギルドに戻る。

 そもそも王都地下ダンジョンまでの行き方知らないっつーの!

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