表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第5章 ライバル再び
58/165

第55話 マインドブレイカー


『第13試合、決着! 勝者はウェルネ選手!』


 ブロール・リーグは熾烈を極めていた。ラオルドの敗退により、出場者の心に火が付いたのだ。

 誰もが第2のミスターを狙って……気迫と気迫がぶつかっている。


「そろそろ、俺も準備しないと……!」

 そして迎えたレイジの出番。レイジは、アザミからもらった半袖のジャンパーに袖を通した。


『さぁ一回戦第14試合! 本戦出場者32名のうち、ルーキーは4名! これは今大会始まって最多! いずれも超実力者だった!』


 そのルーキーの二人が決勝の開幕に華を添え、もう一人が大金星を挙げたのだ。

 ひょっとすれば、ルーキーの中から優勝者が現れるかもしれない。そんな期待を寄せて、観客たちは闘技場を見下ろす。


『その大トリを務めるのは、青コーナー……フォードの一味・黒飛レイジ選手!』


 スモークがたかれ、堂々の登場……だったはずのレイジだが、明らかに表情がこわばっている。いざ自分が舞台に立ってみれば、思った以上に人が多くて恐怖したらしい。

 それもそのはず、ラオルドが敗退してもなお、このシバレーアリーナには6万人近い観客がいるのだ。日本シリーズや球宴でも、これほどの規模は見たこともないのだ。

 レイジの実兄も、これほどの歓声の中で甲子園決勝のマウンドに立ったのだろう。そう考えると、初めて自分の兄姉のことをすごいと思えてきた。

 レイジは、せわしなく周りを見渡した。レイジに向けられた声援半分、シンバートに向けられた声援半分、といったところだろうか。


「あいつ……めちゃくちゃ緊張してやがる」

 客席から見ていたフォードは、レイジの落ち着きのなさに呆れていた。


『赤コーナー、心理戦の申し子! シンバート選手!』


 スモークの中から堂々とシンバート選手が登場。黒の背広をパリッと決めた甘いマスクの男には、黄色い声援が飛び交う。

 シンバートは、これほどの歓声にも、しっかりと手を振ってこたえている。しかし、レイジは、手足が震える一方。


『それでは、両者見合って……試合開始!』


 午後6時、銅鑼が鳴り響いた。レイジは、緊張のあまり、動けずにいた。

 それを見たシンバート、早くも勝利を確信した笑みを浮かべる。


「対戦相手の事を調べたのですが、このシンバート選手……心をへし折るテクニックが得意だそうで」

 ギュトーは、対戦相手のことを調べ上げていたようだ。


「天敵やないの! それに、この緊張状態や……まともにレイジはんが戦えるとは思われへん」


 精神力を爆発させて戦うスタイルのレイジにとっては、まさに天敵。

 心をへし折られてしまえば、なすすべはない。完封負けもあり得るだろう。


「君は、どうしてこの大会に出ているんだい? なぜ決勝まで来られたと思う?」

「この大会に優勝して、ある人物を説得することだ。そして、この中に負けられない相手がいるんだ!」

「そりゃ、優勝するって決めたからには、誰にも負けられないのは当たり前じゃないか。分かり切った事を言われても困るよ」


 一言二言かわしただけだが、すでにレイジの顔が青ざめている。嫌な汗もかいている。

 物腰柔らかそうな言い方ではあったが、逆にそれが威圧されているように感じたのだろう。


「君は、ある人物と言ったね。まだ会ったこともない人のようだね」

「それがどうした?」

「この大会で優勝したとして、その人は……君を認めてくれるのかな? そもそも会ってくれるのかな?」


 シンバートの口撃が止まらない。どこまでもレイジを煽ってくる。

 低音ハスキーから繰り出されるドギツい言葉の数々。言葉通り、レイジに突き刺さる。

 シンバートは、手のひらを上向きにして手招きした。かかってこい、と無言で挑発してきた。


「……“ファイア”!」

 レイジは、右手のひらをシンバートにかざした。しかし、何も起こらない。


『先に仕掛けたのはレイジ選手。しかし、どうしたことか! 基本の炎魔法が不発だぞ!』


 ペースを掴まれ、心を折りにくる相手。レイジにとっては、このうえなく戦いにくい相手である。

 言葉に耳を貸さなければいい。それだけの話なのだが、相手の術中にハマってしまえば最後。

 何度も“ファイア”を試みても、動揺してしまっているレイジには撃てない。


『どういうことだ、レイジ選手! 今までの魔術はインチキだったというのか!?』

 とうとう実況からも、心無い言葉が飛んでくるようになった。

 客席からは、レイジに対するブーイングが響き始めた。ほとんどがシンバートの味方にすら思えてきた。


「誰に教わったんだい、その魔法。あまりにも脆弱と言わざるを得ないね」


 今度は、レイジに関係のある人物まで否定し始めた。

 ファウストやエマ、フォードたちと完成させた炎。苦心しながらも完成させた千本ファイアも、脆く崩れ去る音がした。

 自分は、弱い。何もできない。あの日、特急にダイブしたことを思い出した。

 カルミナに来て最初の村が焼かれたときに、何もできなかった自分を思い出した。


「俺は、無力……」

「そうさ、無力さ。君のような人間に、このステージは無謀過ぎたんだ。高い金を払ってのヤラセ、本当にご苦労様でした」


「それだけは違う……」

 もはや、レイジの声は蚊の鳴くようなものだった。


「何が違うのかな? 一味違うのならば、その手で証明すればいい」


 炎も電撃も使えないなら、拳で。そう思ったレイジだったが、シンバートにアッサリと受け止められてしまった。

 シンバートは、そのままレイジの腹に膝蹴りを浴びせた。レイジは、胃液を吐いて膝をついた。


『レイジ選手、やはり手も足も出ない。アレはインチキだったという、衝撃の事実! あんな外道を二次予選スタートにした事を後悔するぞ!』


 本来ならば、実況は公平であるべきだ。しかし、昨日のマスクドレッドよりの実況には不可能なこと。

 緊張と心無いヤジで、まったく本調子の出ないレイジ。シンバートに、一方的に痛めつけられている。

 試合時間も、あっという間に20分が過ぎていた。レイジは決定打を与えられず、ボロボロ。何とか立っているという状態。

 しかし、耐え抜いているだけ。時間切れで判定に持ち込んだとしても、不利なのは明確。


「おい、レイジ! 何やってんだ! お前の炎は、悪口一つでダメになっちまうモンなのかよ!」


 レイジに向けられたブーイングのなか、はっきりとフォードのヤジが聞こえてきた。

 フォードは、耐えかねていたのだ。ずっと耐え抜いているレイジのその背中に、心を折られて本来の実力が出せない彼に。


「シンバートとか言ったか! コイツはヤワな鍛え方しちゃいねぇぞ!」

「アニキ……」


「では、そこの黒ジャケットのお兄さん。それは、本当ですか?」

「ああ、元レイゾンであるこの俺が鍛えたんだ。間違いはねぇ! それに……コイツは、火事場の馬鹿力の持ち主だ。好きなだけ追いつめてみやがれ!」


 フォードは、自信に満ち溢れた顔で言った。誰よりも横にいて、その頑張りを見てきた漢がいる。

 シンバートは、歯ぎしりしながら、フォードのいる方向を見つめている。


「分が悪そうな顔じゃねぇか!」

「それもそうでしょう。レイゾンの元副将軍がアニキとは、恐れ入りましたよ」


 シンバートは、お手上げ。まさか、レイゾンの副将軍だった男が後ろ盾とは思わなかったのだ。

 どれだけ言葉を重ねてレイジを惑わせようと、


「おい、レイジ……聞こえてるだろ! そんな奴の言葉に惑わされんな!」


「もっと、お前の頑張りに自信を持て! お前は、もう無力なんかじゃねぇ!」


 フォードの叫びが、レイジに光明をもたらした。ひざまずいていたレイジは、拳を地面に強く叩きつけ、その反動で立ち上がった。

 目の色が変わった。今にも死にそうな目は、烈火のごとく燃えている。

 追い込まれて、追い込まれて……最後にはアニキの言葉を背にして。


「はあああああ!!」

 レイジは、渾身のコークスクリューをシンバートに食らわせた。

 拳が当たる瞬間、燻っていた炎が燦然と輝いた。


『じょ、場外! アニキの叫びを耳にして、鉄拳がこだましたッ! 一発K・O!』


 一発逆転。どよめきが起こった。

 レイジも手ごたえを感じていない。気が付けば、シンバートは闘技場の外で泡を吹いて倒れている。

 あまりにも呆気ない結末。フォードの一味を除いて、これを確信できた人物は、客席にはいない。


『今まで“ファイア”すら撃てずに苦しんでいたかと思えば、急に灼熱の拳! さらに元レイゾンのフォード副将の弟分! この男、一体何者なんだ!』


 この大会に現れたルーキーは4人共とんでもない人物だ。

 新進気鋭の勇者の仲間。それに打ち勝った特撮ヒーローみたいな男。ミスターさえも打ち破った天才。そしてアニキの叫びで奮起して一発逆転に成功した男。

 今年のブロール・リーグは嵐が巻き起こる。レイジの勝利により、それを確信したファンも多いことだろう。





「二回戦進出おめでとう。あなたも恐ろしい人物かもね」

「あ……」


 控室に向かう途中、レイジは黒装束の女に声を掛けられた。彼女は、カトルーア。

 そのたわわに実った果実に、レイジは頬を赤らめた。

 しかし、カトルーアは、その視線をかわして話を続ける。


「私は、オルアース所属のカトルーア。あなたの戦いぶりを見ていたわ」

「昨日負けたから、用はないんじゃ……?」

 レイジのドキドキは止まらない。裏返った声で、カトルーアに訊く。


「……引き抜きよ。私たちは、魔王を倒すために強い仲間を集めているわ。だから、今日も試合を見る必要があった」

 彼女は、これまでにも一回戦の勝者には声をかけてきたらしい。しかし、断られたり、保留にされたりと収穫はゼロ。


「それって、俺を誘って……?」

 レイジは、二重の意味をこめた。


「まさか、あなたみたいな人を。魔術師の私に言わせれば、今のあなたは未熟すぎるわ」


 カトルーアは、横目でレイジを見ながら言った。

 レイジは、拳を震わせた。連日のように新聞をにぎわせている冒険団の美女に言われて、純粋に悔しかったのだ。


「オルアースなんて、こっちから願い下げだってんだ!」

 レイジは、負け惜しみを言った。


「そういえば、あの人の弟分だもんね。勧誘しようとした私が愚かだったわ」

「ああ、そうだよ! それと、もういっちょ……俺たちは、絶対オルアースを超えてやる!」


 超えられるものならどうぞ、と言わんばかりにカトルーアは笑った。

 レイジは、鼻息荒く控室に戻っていくのであった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ