第九話 『人間として』
老人のフレームは、エネルギーが切れたように突然停止した。
同時に、老人は身構えたまま動きを止めた。
「おぉ? おいおい、なんだこりゃあ。どうしたってんだよ、おい!」
やがてフレームは老人を放り出すように展開し、老人はフレームから地面に転げ落ちた。ランニングシャツに短パンという老人の姿が露わになる。
「ちくしょう……さてはシュガーの奴、やりやがったな」
老人はあぐらをかき、ため息をつく。
「降参、というわけではなさそうだな」
「もちろんだ。だが、もう戦う手段がねえ。整備不良だな。エネルギーが少ししか残っていなかったうえに、それがわからないようプログラムをいじられていた。まさか、死んだ仲間にはめられるとはな……」
「裏切られたか」
ちがう、と老人は断言する。
「たぶんあいつは……、シュガーは、俺に人殺しになってほしくなかったんだろうよ。連合の中じゃ一番古い付き合いだし、俺もあいつもまだ一人も殺しちゃいねえからなぁ。まあ、あんたは信じちゃくれねえだろうが」
「当然だ。お前達は、西日本への核攻撃を実行しようとしているのだから」
「それが連合の方針だからな。そもそもお互い様だ。あんたらだって、俺達を殺す政治を強行した同盟政府のもとで戦ってるじゃねえか。同じなんだよ。俺達も、あんたらもな」
老人は空を見上げる。
夜の暗闇は果てしなく深いくせに、月や星々は妙に明るかった。
そして、夜明けはまだ、遠いらしい。
「…………死なばもろとも道連れだ、か。まったく、いい死に方だとは思わねえかい?」
老人は笑う。
キョウカはフレームを外し、インナースーツの腰のポケットから護身用の拳銃を取り出して、老人の頭に銃口を向けた。
「よぉ、姉ちゃん。最後に教えてくれ。ミッドナイトを殺したのは誰だ。ひょっとして、あんたかい?」
そうだ、とキョウカはうなずく。
「はは、そいつはよかった。あいつは女にまったく縁のない人生を送ってきたからな。あんたみたいなエロい身体のきれいな姉ちゃんに殺してもらえたんなら、あいつも救われたことだろうよ」
「私は救われないな。人を殺すのは何度やっても慣れないし、気持ちのいいものじゃない。できれば人を殺すのは、お前で最後にしたい」
そうかい、そうかい、と老人はうなずき、満面の笑みをキョウカに向ける。
「ありがとうよ。この人殺し」
銃声が響く。
老人の頭は撃ち抜かれ、崩れ落ちるように倒れた。
キョウカはほんの少しだけ祈るように目を閉じた後、フレームを装着し、整備場へ向かった。




