第十八話 『最後の仕事』
夜がいよいよ深まった頃に宴会は終わり、老人達はそれぞれの持ち場に戻った。
ミッドナイトはオータムと同じタイプのフレームを装備して人工島の哨戒にあたり、マーサはサツキから得られた生体兵器のデータの解析作業に取り組んだ。ダイクは明朝の攻撃にむけて人工衛星の最終チェックをしていた。
クラウドの遺体は攻撃開始直後に爆破されることとなり、棺桶のまわりには第五観測所から接収した爆薬が積み上げられていた。
オータムはサツキを連れて工房の格納庫にいるシュガーをたずねた。
格納庫のドアをノックすると、入ってくれというシュガーの声が聞えた。オータムはドアを開け、中に入る。
「よう、待っていたよ。あんたの銃も調整しといたぜ。ただ、電磁パルス弾のほうはもう少し待ってくれねえかな。この通り、まだ仕上がってねえんだ」
シュガーは持っていた乾電池のような形のカプセルを机の上に置いた。そのそばにはオータムが使っていたリボルバー式の拳銃も置いてある。
「いや、それはいい。それより炸裂弾を頼む。どうせなら景気よく派手に戦いたいんだ」
はいよとシュガーは言い、机の引き出しから手ごろな大きさの小包を取り出して拳銃と一緒にオータムに渡す。
「まさかとは思うが、私の銃もダイクのフレームと同じように調整したんじゃないだろうな」
大丈夫だ、とシュガーは笑う。
「ちゃんと使える。でないと俺が困るからな。さて、頼まれてた仕事だが」
シュガーは机の隣にある作業台を見る。
その上にはサツキのフレームとインナースーツが広げられていた。
「フレームのほうは俺のフレームの部品を使って修理しておいた。だが、インナースーツのほうは俺達の装備にはないから手はつけられなかったな。一通り点検はして、異常はないと確認したが、何か不具合があるかもしれん」
「一応、使える状態ではあるんだな」
「俺の見立てでは、まあ使えるだろう。まあ、百パーセントの性能を発揮できるかはわからんし、お嬢ちゃんの体に仕込まれているパーツやシステムが正常かどうかもわからんから確証はないが、少なくともフレームに問題はないはずだ……」
シュガーはフレームのそばに置いている脳波をスキャンするための銀色の輪を持ち、サツキの頭に装着して端末をとりつけフレームとの接続設定を行う。
「しかし、あんたがにらんだ通りだったぜ。フレームに使われている部品も、システムもAIも、俺達のとそっくりだ。まるで、同じ開発者がつくったみてえにな。……よし、これでシンクロも完了した。特に問題がなければ、これで動くはずだ」
シュガーはサツキの頭から銀色の輪を取り外し、端末と共に机の上に置く。
「さてと、そろそろ仕舞いにしようか。場所は外でいいかい。どうせなら星空を見上げたまま、いきたいんだ」
ああ、とオータムはうなずいた。
シュガーは格納庫の裏口から外に出て、オータムとサツキもその後に続いた。
彼らの頭上には見事な星空が広がり、シュガーはそれを見上げてため息をついた。
そんな彼をねぎらうようにオータムは言う。
「最後まで、いろいろとすまなかったな」
「いいってことよ。俺にはこれしか能がねえからな。しかし、人生最後の仕事にしては、いろいろとおかしなことをしたもんだぜ」
「そんなことはない。君の仕事はこの世界を良い方向へ導くひとつのきっかけになるはずだ」
「はっは! そうなることを願ってるよ」
シュガーは笑い、気持ちよさそうに背筋を伸ばした。
「どうして、あなた達はこんなことをしているの?」
サツキがたずねる。彼女にとって、目覚めてから今まで見た老人達の行動は不可解なことばかりだった。どれほど考えても、彼らの意図はつかめなかった。
「どうしてかなんて、俺達にだってわからねえよ。何がしたいかもわからねえ。西日本の連中をぶっ殺してやりたいとも思うし、何もそこまでするこたねえだろとも思うし……まあ、どっちつかずの卑怯者なのさ」
シュガーが話している間にオータムは彼の背後に立つ。
彼の手には、格納庫で受け取った拳銃が握りしめられていた。
「とくに俺は卑怯者だ。直接に人殺しはできねえし、かといって自分で死ぬこともできねえ。だからこうするしかないんだよ。ほんと、すまねえなぁ、オータム」
「気にするな。それにまた、すぐに会えるのだから」
オータムはシュガーの後頭部に銃口を向ける。
「それもそうだな……。なあ、お嬢ちゃん。後のことはあんたが決めてくれ。そのフレームを使って西日本への攻撃を阻止するもよし、何も見なかったことにして東日本へ行くもよしだ。すまねえとは思うよ。ただ、俺達は、心のどっかで誰かに止めてほしいとも思ってたんだ。だからこんなわけのわからないことをした。すまねえな。すまねえな……」
サツキを見つめるシュガーの顔に、明るい笑みが浮かぶ。
「じゃあな、お嬢ちゃん。達者でな」
銃声が響き、シュガーの頭は吹き飛んだ。
星空へと銃声が消えた時、彼の体は崩れ落ちるように倒れた。
敵襲を報せるサイレンが鳴り響いたのは、その直後のことだった。




