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落日の国  作者: 青山 樹
第四章 『昭和・平成連合』
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第八話 『生まれたことが罪なのだ』

 工房は廃校の近くにあるモノレールの車庫兼整備場に設けられている。オータム達が占領する前、第五観測所の資材置き場やフレームなどの兵器の整備室として使われていた。

 車庫を改装してつくられた整備室には複数の偵察用無人機と一基の簡易式人工衛星が配備されている。衛星のそばではランニングシャツ姿の小太りの老人が作業に励んでいた。白いひげをたくわえた赤ら顔の小男で、遠目で見ると働き者の妖精に見えなくもない。

 彼はオータム達が工房に入るとそちらに顔を向け、陽気な声を出した。


「ようオータム、ミッドナイト。んん? その娘さんはオータムがとっ捕まえてきたっていう戦利品だな。うんうん、起きてるところを見ると、なかなかの上モノじゃねえか」


「ダイク殿も私と同じ意見でしたか。ではさっそく、この娘を我々のオモチャとして調教しようじゃありませんか。現場は即戦力を求めているのです。私達は年長者として、知識と技能を次の世代にしっかりと教えていかなければなりません」


「だっはっは! バカ言うなよミッドナイト。お前さんが残したいのは知識だの技術だのじゃなくて種汁だろうが。それも野良犬の小便より汚えやつだ」


 ダイクは腹を抱えて笑い転げる。

 オータムは人工衛星に近づき、ダイクに尋ねた。


「改修作業は終わったのか?」


「おうよ。まあ、こいつを見てくれや。我らが同志が命がけで手に入れたってブツだぜ」


 ダイクはズボンのポケットから野球ボール程度の大きさの白い球体を取り出す。


「ほう。これが戦術核か。思っていたよりも、小さいな」


「こいつは一つだけじゃ使えねえよ。あと赤、青、黄、黒と五つセットで戦術核として使えるのさ。人工衛星にはこいつを十セット積んでやったよ。ひひひ、こいつがよぉ、西日本にいるリア充共の子孫の頭上で大爆発すると思うとよぉ、笑いが止まらねえぜ。陽動作戦でくたばったチェリーウッド達も、浮かばれるだろうなぁ、はっはっは」


「ダイク殿、いくらなんでも笑い過ぎですよ。考えてもごらんなさい。我々がこれから焼き滅ぼそうとしている者達も、時代や社会によってその人生を踏みにじられていると言っても過言ではないような者達なのです。彼らはただ、この時代にリア充達の子どもとして生まれただけなのですよ。それなのに、そのことを思うと、私は、私は……、ははは! 笑いが止まりませんよ! はっはっはっはっは! あひゃうわっははははは!」


「だっはっは! 今日もいい具合にイカれてるぜ、このジジイはよぉ」


「生まれたことが罪なんですよ! 奴らは生まれたことが、生きていることが罪なんです!」


 ミッドナイトが叫ぶ。

 そんな彼にかまわず、オータムはダイクにたずねた。


「攻撃の射程範囲はどのくらいなんだ」


「日本列島のどこでも狙えるさ。着地点は西日本の首都福岡に設定している」


「もう発射できる状態なのか」


「ああ。だが作戦の決行は明朝だろ。それまでは動かせねえよ」


「わかっているさ。ところで、シュガーはどこにいる」


「隣の格納庫で俺達の武装の最終調整をしているはずだ。だが、今は会わねえほうがいい。あいつは自分が仕事をしている時に他人にからまれるのをヤバいくらいに嫌ってるからな。むこうから出てくるのを気長に待ちな」


「そうか。ならもうしばらく、よそで時間を潰すとしよう」


「私はここに残りますよ」


 口のまわりをよだれで濡らし、鼻水をたらしながらミッドナイトが言う。


「ダイク殿と一緒に、そのお嬢さんをどうやって調教するか、話し合いたいので」


「好きにすればいいさ」


 オータムはサツキを連れて工房から出ていく。


 そういう過ごし方をしてもかまわないだろう。

 どうせ明日の今頃は、そんなバカなこともできなくなっているのだから。

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