第七話 『ミッドナイト』
オータムは昇降口を出て、校庭を進み校門へ向かう。
その途中で、校門のほうから一人の老人が現れた。うす汚れたジャージを着て、裸足のままぺたぺたとした足音を立てながら二人のもとへ近づいてくる。頭頂部はきれいに剥げていたが、側頭部には白髪まじりの黒髪がだらしなく伸びていた。
「これはこれはオータム殿。お散歩ですか? 今日の戦利品とご一緒に、ひひっ! きひひひひひっ!」
老人はわざとらしく腰を曲げ、へこへこと頭を下げる。
「これから工房へ行って、明日の作戦の準備具合を見てくるのさ」
「工房へ行くんですか。工房にはダイク殿とシュガー殿がおりますが、奴らと一緒に戦利品を堪能するつもりですか? この私は仲間外れですか? またですか、またですか?」
「落ち着けミッドナイト。そんなくだらないことをするつもりは」
「くだらない! くだらないとはなんですかぁっ!」
ミッドナイトは腹の底から叫ぶように声を張り上げ、目をぎょろぎょろさせる。
「私にとって、私達にとって! 女に触れることはとてもとても大切なことなんですよぉ!」
オータムは無視して先へ進む。
しかしミッドナイトはサツキの顔をにらんだまま、後ろ歩きで二人の正面を進んだ。
「ああ、お嬢さん。あなた、とてもきれいな目をしてますねぇ。少しばかり舐めさせちゃくれませんかぁ、ひひっ、げひひひ」
ミッドナイトは車いすの車輪を両手で押さえ、口を開いて舌をべろんと出し、サツキの顔に近づける。
サツキは微動だにしなかったが、オータムはミッドナイトを引きはがすように彼の顔面を勢いよく殴りつけた。ミッドナイトは小さく悲鳴を上げながら、地面を転げまわる。
「あの人、大丈夫なの? すごい音がしたけど」
「いつものことだよ。しかし君はすごいな。さっきのマーサの時もそうだったが、まるで動揺していない」
「そう、なのかな。私には私の顔が見えないから、よくわからないんだけど」
サツキの言葉の意味が、オータムには判断できなかった。
こういう反応が、生体兵器としての特性と何か関係しているのだろうか。
「工房へ行くのなら、私もご一緒させてくださいよ」
ミッドナイトは何事もなかったかのように立ち上がり、二人の周りをうろうろと動く。
「なにしろ明日の作戦は人生最後の大仕事ですからねぇ。準備が万全かどうか、確認しておきませんと」
「来るのはかまわないが、この娘にはもう手を出さないでくれ」
「承知いたしました」
ミッドナイトは軽やかな足取りでサツキの前に立つと、自分の鼻に指を突っ込んだ。
「お嬢さん。おひとついかが?」
ミッドナイトは鼻くそがこびりついた指をサツキに突き出す。
間髪入れずオータムはミッドナイトの顔面に拳をたたき込んだ。




