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落日の国  作者: 青山 樹
第四章 『昭和・平成連合』
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第六話 『壊れた国』

 幸せに生きることはできない。

 サツキは特に感情のない口調でそう言った。

 マーサはため息をつき、嫌悪感をむき出しにするように言った。


「クソみたいな話だ。日本政府は……、同盟政府は本当にクソのかたまりだ。あたしらだけじゃなく、こんな子どもからも人間としての権利を奪うなんて」


 オータムは考えをめぐらせるように腕を組み、サツキに問う。


「十年前か。それは日本再生計画が実施される前のことだろう。おそらく君の祖父は、君の両親を殺したはずだ。ちがうか」


「どうして、わかったの?」


「その当時は同じような事件が全国で起こっていたからさ。日本再生計画の実施をめぐる社会的な対立が、血縁者同士の殺し合いを招いた。君達との戦いで死んだサンダーという男もそうだ。彼は同居していた娘夫婦を殺し、その後逃走して昭和・平成連合に参加したのさ」


「あたしらはね、自分達が生きるために必死だったんだよ」


 吐き捨てるようにマーサは言う。


「日本再生計画が実施されれば、あたしらは完全に社会から切り捨てられちまう。そしてそのまま見殺しにされちまうんだ。だから国民投票が実施される前に、一人でも多くの若い有権者を殺さなくちゃならなかったのさ」


「バカみたい」


 サツキはマーサの顔をまっすぐに見る。

 マーサの顔が、ぴくりとひきつった。


「この国が破綻することは、ずっと前からわかっていたはずだよ。だからそうなる前に、そうならないよう努力すればよかっただけなんじゃないかな。なのに何もせず、問題を先延ばしにしてどんどん悪化させていったのはあなた達――」


「黙りな! ガキのくせに、知ったふうな口をきくんじゃないよ!」


 怒りに満ちたマーサの声が、治療室に響く。


「遠からずこの国が破綻することは、あたしらが生まれる前からわかってたことさ。このままのシステムじゃ社会を維持できない、そのしわ寄せは必ず未来の世代に重くのしかかる、全部わかってたんだ! でも、誰も何もしなかった。未来のために自分達の身を切ろうとか、既得権益を手放そうとか、そんなことを考える奴は一人もいなかった。みんな自分のことしか考えちゃいなかった。その結果がこれだ!」


 目玉が転げ落ちんばかりにマーサは両目を大きく見開いていた。

 その眼球には真っ赤な血管が幾筋も浮かび、目じりには涙がにじんでいた。


「あたしらがガキの頃にはもう運命は決まっていた。あたしらが大人になる頃には、あたしらがまともな大人になれないくらいにこの国は壊れていた。そんなことになる前に責任をもってこの国を何とかしなくちゃいけない連中は、みんな責任をほっぽり出して目先の利益だけを追いかけて、もっともっとこの国を壊していった。あたしらの先代はそんな連中ばかりだった。この国が壊れる頃には自分達はとっくにくたばってる。うまく逃げ切れるからあとのことなんか知ったこっちゃない、そんな連中にあたしらは壊れた社会を、国を押し付けられた。そんな連中を生かすために、あたしらは政府に金を搾り取られ、まともに生きることすらできなかった。未来へのたくわえなんか持てやしなかった。あたしらは、あたしらは、どうしようもない未来を過去の連中から押し付けられたんだ。あたしらは悪くない。あたしらだって被害者だ。あたしらに責任はない。あたしらを非難するな!」


 憎悪をぶちまけるようにマーサが怒声をとどろかせる中、サツキはやはり無表情だった。


「彼女に怒りをぶつけても仕方ないさ」


 マーサをなだめるようにオータムは言う。

 マーサは背を向け、ドアへと歩き始めた。


「クラウドの様子を見てくるよ。あんたはどうするのさ。その娘を連れて司令部へ戻るかい?」


「いや、私は君達と共にここにいるよ。彼女の扱いについては、少し考えさせてもらうさ」


「……そうかい。まあ扱いには注意しなよ。子どもといえど、敵であり軍人であることにかわりはないんだ」


「わかっているさ。おかしなことはさせない。もちろん、おかしなこともしない」


 マーサはオータムの顔を見て小さくうなずくと、治療室から出ていった。


「さて。君と一緒に行きたい場所がいくつかあるんだが、体のほうは動けそうかな」


 サツキはベッドに寝転んだまま首を横に振る。

 オータムは治療室のすみに置いてある車いすを見つけ、サツキを抱きかかえて車いすに座らせた。


「意外と力があるんだね」


「私も君と同じ生体兵器だからな」


「あなたは自分の意思でそうなったの?」


「どうでもいいことだよ、そんなことは」


 オータムは車いすを押して治療室を出ると、昇降口へ向かい廊下を進んだ。


「いちおう言っておくが、逃げようなどとは思わないでくれ」


「逃げられないよ。私はこんな状態だし、あなたは手ごわそうだから」


「自分と相手の力の差を正しく理解するのはいいことだ。それに今は焦らなくてもいい。じっと我慢して耐えていれば、チャンスは必ずめぐってくる」


 自分に言い聞かせるように、オータムはそう言った。

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