第四話 『午睡のまどろみから』
人工島の南部にある廃校に第五観測所は設置されている。
オータムは、校舎の二階にある休憩室のベッドで目を覚ました。
まだ夕方前らしく、窓からは気持ちよく晴れた青空が見えた。
そばには黒いフレームが置いてある。哨戒から戻った後、そのまま眠ってしまったらしい。
俺はなぜここにいるのだろう、とオータムは考える。
そうだ。たしか、今年のはずだ。
そうだった。そうだった……。
中途半端に仮眠をとったためか、オータムは頭に重くて鈍い痛みを感じていた。
それを振り払うように頭を軽く振りながら起き上がり、着古されたカッターシャツのボタンを留め、よれよれになった背広を羽織る。窓ガラスにぼんやりと映る自分の姿を頼りに身だしなみを整えると、オータムは一階にある治療室へ向かった。
治療室の中央には手術台のようなベッドが置かれていて、そのそばにはオータムと同じくらいの年齢の老婦人が立っていた。長い白髪を丁寧にまとめ上げ、灰色の婦人用スーツを身に着けている。
彼女はベッドの近くにある机に向かいパソコンで作業をしていたが、オータムが入ってくると立ち上がり、気迫のある鋭い目を向けた。
「なんだ、オータムかい。またあのろくでもない童貞ジジイ共かと思ったよ」
彫りの深い岩石のような老婦人の顔に、どこかやわらかな笑みが浮かんだ。
「その表現はよしてくれないか。私自身もそうなのだから。それよりマーサ。彼女の様子はどうだね」
「見てのとおりさ。気持ちよさそうに眠っているよ」
マーサはベッドに目を向ける。
そこには手術着らしき服を着て横になっているサツキの姿があった。
彼女の言う通り、サツキは安らかな寝顔を浮かべ、静かに寝息を立てている。
「オータムが考えた通りだったよ。その娘は普通の人間じゃない。神経とフレームの機能を直結する手術が施されている。つまりは国防軍が開発した生体兵器さ」
マーサはサツキの腕を取り、袖をめくって肌を見せる。
サツキの腕には装飾品のようにも見える小さな金属の部品がいくつも埋め込まれていた。
「なるほど。考えることは西も東も同じか。我々が使用しているものとよく似ている」
「似てるなんてもんじゃないよ。連合のものと比べれば性能は劣ってるみたいだが、基本的なシステムはまるっきり同じものだ」
マーサはパソコンを操作し、ディスプレイに次々と生体兵器に関する画像を表示する。
「この娘に施された手術と、あんた達に施された手術も同じものだろうね。ここの設備じゃ詳しい分析はできないが、そう考えて間違いないだろう」
マーサは深くため息をつき、頭を振る。
「まったく。これは一体、どういうことなんだろうねぇ……」
「考えても仕方ないさ。それにもはや、我々にはどうすることもできないのだから」
オータムは日に焼けた固い手を、サツキのやわらかな頬に触れさせる。
その時、サツキの口からかすかな吐息が漏れ、彼女はうすく目を開けた。




