第二話 『ごくありふれた人生のひとつ』
まるで世界中の人間が、自分一人だけを置き去りにしているように感じられた。
それでも彼は、誰かに必要とされたいと思った。
認められたいと思ったし、一緒にいてくれる誰かに巡り合いたいと願った。
そこにいることをゆるされる、自分の居場所がほしかった。
そのために彼は努力した。
学校の勉強もがんばったし、中学に入ってからは体を鍛えるために運動部に入部した。
努力を続ける限り、いつか必ず報われる。
理想を実現できる。
誰からも脅かされず、疎まれず、平穏で満ち足りた日々を手に入れることができるはずだ。
それはささやかなではあるけれど、彼にとってはなんとしても叶えたい願いだった。
しかし、彼の努力は報われなかった。
成績は思うように上がらず、部活は上級生によるいじめが原因で早々に退部に追いこまれてしまった。
結局のところ、自分はどんなにがんばっても報われないのではないだろうか。
いつからかそうした不安が彼の頭をよぎるようになった。
それを振り払うように彼は努力を続けた。
しかしそれが報われることはなかった。
高校受験で、彼は第一志望の学校を受験できなかった。学力はいちおう合格ラインに達していたが、入学後のことを考えると一つ下のランクの学校に進学したほうがいいと彼の両親は判断した。
これ以上面倒ごとを抱えたくなかったのだろう。
彼の兄弟は全員、彼が第一志望とした学校に進学したため、彼が劣った存在であることは決定的となった。
高校受験の失敗をばねに大学受験こそはと彼は努力した。しかしそれも失敗に終わった。
努力もむなしく学力はなかなか上がらず、国公立はもちろん中堅の私大からもはじかれた。兄弟の中には浪人して国公立を目指す者もいたが、彼は浪人することをゆるされなかった。
これ以上お前に金をかけて何になるという両親の言葉を前に、彼は沈黙せざるをえなかった。
どんなにがんばっても、自分は報われない運命にある。
その思いは呪われた影のように、彼の心から離れなくなっていた。
大学生になった彼は、自分が何をすればいいのかわからなくなってしまった。
学校では今までずっといじめられていたため、どうやって人間関係をつくればいいかわからない。サークルに入っても今までと同じように排斥されるだけだ。
何をしても裏目に出るに決まっている。
振り返れば、報われないことばかりだった。
それでも彼は、いつかは幸せになれるだろうと思い続けていた。
今まで散々つらく苦しい思いをしてきたんだ。
友達はいない。
恋人もいない。
家族からも見放された。
どんなにがんばっても望んだものは手にできなかった。
このまま人生が終わるなんて、あまりにもむごすぎるじゃないか。
せめてどこかで救われるべきだ。
どこかで報われるべきだ。
大丈夫だ。心配するな。
俺は幸せになれる。
幸せになれる。幸せになれる……。
確かな根拠などない。それでも彼は信じたかった。
信じずにはいられなかったのだ。
信じていなければ、生きてはいられなかったからだ。




