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落日の国  作者: 青山 樹
第四章 『昭和・平成連合』
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第一話 『たかが七十億分の一の命』

 これまでの人生を振り返るたびに、彼はいつも思う。


 どうして自分は、生きてしまったのだろうと。


もう何十年も前のことになるが、彼はごく普通の一般的な家庭に生まれ、どこにでもありそうな街で育った。

 彼自身も、子供の頃はこれといった特徴のない平凡な人間だった。

 正確に言えば、平均よりやや劣っていた。勉強はあまり得意ではなく、運動はどちらかというと苦手で、芸術方面に何か才能を示せたというわけでもない。

 また、人間的に魅力があるというわけでもなく、内向的で人としゃべるのが苦手で自己主張がうまくできなかった。


 つまり、いてもいなくてもどちらでもいいという類の人間だった。


 そのような人間の常として、彼はいつからかいじめの標的になった。

 特にはっきりとした理由があるわけではない。なんとなく力を持て余した連中が、なんとなく彼に目をつけ、なんとなくいじめが始まった。

 その結果、かろうじて何人かいた友人も離れていき、彼は完全に孤立して、理不尽な暴力と悪意の中に取り残された。


 理由もなく仲間外れにされ、無視され、バカにされ、笑いものにされ、暴力を振るわれた。


 そんな状況から抜け出すために、彼は必死に抵抗した。暴力には暴力で対抗し、自身の窮状を包み隠さず教師に訴え助けを求めた。

 しかしいずれも効果はなかった。彼一人では集団の暴力に敵うはずもなく、教師は彼のほうにも問題があると考え、彼が伸ばした救いを求める手を払いのけた。


 彼の味方になる者は、一人もいなかった。


 血のつながりを持つ家族ですら、彼の味方にはならなかった。

 彼の兄弟達は彼とはちがい順調に学校生活を送っていた。成績はほどほどによく、交友関係も広く、いじめにあうこともなかった。様々な面において兄弟達は彼より優秀だった。

 両親はいつしか彼の存在を疎ましく思うようになった。

 他の兄弟達と同じように育てているはずなのに、なぜこんなダメな人間になってしまったのだろう。

 何をやらせてもうまくいかず、面倒ごとばかり起こしてくる。

 こいつさえいなければ、自分達の家庭はもっと幸せなものになっただろうに。

 彼に向けられる両親の目は、たしかにそう語っていた。


 兄弟達も彼を避けていた。

 彼のことを自分達とはちがいまともなものじゃないと、不吉な存在であると感じていたのだ。


 いつでも、どこでも、彼は一人だった。

 その命に価値を認める者は、誰もいなかった。

 ただ偶然、その時代に、この国に、その家族の一員として生まれ落ちただけだった。

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