第十四話 『絶望の果てに立つ者は』
三人が硬直している間にも、セブンはヒカルを嬲り続けていた。
しかしセブンの動作に狂いが生じたらしく、ヒカルの体は地面に放り出された。
彼の体は巨人に握りつぶされたように、正視に堪えない無残な状態となっていた。
「ああ、ちくしょう! もう少しでコンボ技の新記録だったのによお、クソがっ!」
セブンは苛立ちをぶちまけるように、ヒカルの頭を蹴り上げる。
「ったくよぉ……。おい、三田」
セブンはサンダーに声をかける。
サンダーはそれを無視し、フタバからフレームを力任せに引きはがしていた。
「おい、三田。三田。聞いてんのか、三田! 三田晴明!」
「黙れ! 私の名はサンダー=クリアライトだ! 二度とその名で呼ぶな愚か者がっ!」
「うるせぇ、ぶち殺すぞクソボケジジイが! ガキをむいてる場合じゃねえぞ。あと三人、いや、二人か。さっさと殺さねえと、オータムにどやされっぞ」
「ふん。崇高なる我が力は、奴らのごとき下等生物を殺すためにあるものではない」
「くだらねえこと言ってねえで、さっさと――」
その瞬間、サンダーの近くにある壁の上に何者かが現れ、銃声が響いた。
突然のことにサンダーは反応できず、彼の頭部は一瞬で吹き飛ばされ、その体は崩れるように倒れた。
現れたのはサツキだった。
サツキはフレームを装備し、自動小銃を構え、頭を失ったサンダーの死体に銃口を向けている。
このような状況でも彼女の顔に表情はなく、瞳は透明なままだった。
「サンダーあああああああああああああっ!」
セブンは絶叫する。しかしすぐに、彼はゲラゲラと汚い笑い声を上げた。
「ぎひっはははは、バカが、くたばった、くたばりやがった! よかったなあ、三田。バカは死ななきゃ治らねえっていうけどよ、これでようやくお前の中二病も治ったろうさ、ひゃはははは」
サツキは即座にセブンへ銃口を向け発砲する。
しかしセブンは片手で頭を守り、弾丸を弾き返した。
「おいおい姉ちゃん。いきなりそれはいけねえよ。こっちはよぉ、愛すべきバカ、じゃねえ、戦友の死を深く、ふかぁあく悼んでんだぜ……。なのに、そういうことはいけねえなぁ」
セブンのフレームが唸るような音を立てる。
「モノを知らねえ非常識な姉ちゃんによぉ、この俺がぁ、人の世の道理をよぉ、教えてやらぁ!」
バックパックのスラスターが展開し、セブンは弾け飛んだ火花のごとく俊敏に動きながらサツキに接近する。
サツキはセブンの動きを目で追いながら発砲した。しかしセブンはサツキの反応を超える速度で縦横無尽に空間を移動し、攻撃をかわしながら距離を縮めていく。
「ほれほれほれ! どうしたどうした! 後ろがガラ空きじゃねえかよ!」
セブンはサツキの背後をとり、拳を突き出す。
攻撃が当たる寸前にサツキは体をそらせて回避し、脚部のスラスターを操って全身をひねりながらセブンに蹴りをくらわせた。
セブンは体をよろめかせ、そのすきにサツキは距離をとり体勢を整える。
「痛ぇ……。痛えなぁ、おい」
セブンは怒りで歪んだ顔をサツキに向ける。
「あぁ……お前らはよぉ、いつもいつも、そうやって、俺達を、いたぶりやがってぇ……。こっちの立場が弱いのをいいことに、反抗できないのをいいことに、お前らは、お前らは、お前らはああああああああっ! 殺してやる、殺してやる、ぶっ殺してやらぁ!」
セブンの憎悪に呼応するように、彼のフレームが機動音を響かせる。サツキは自動小銃を構えた。
両者が再び激突しようとした時、一発の弾丸がセブンのバックパックにあたり、弾け飛んだ。
それを合図とするように、セブンはぴたりと動きを止める。
サツキはセブンの背後に目を向けた。
高速道路の奥に見えるゆるやかなカーブの向こうから、セブン達と同じフレームを装備した人物が現れた。その右手には、銀色に輝くリボルバー式の拳銃が握られている。
セブンはサツキを警戒しつつ、そちらに目を向けた。
「お、おお。オータムじゃねえか。やっと来なすったかい。遅かったじゃねえか」
「こいつの調整に少し手間取ってな。だがまあ、なんとか使えるようにはなったよ」
オータムと呼ばれたその老人は、頭のないサンダーの死体に目を向ける。
「そこで死んでいるのは、サンダーだな」
「おおよ。そこの姉ちゃんに頭を、ひひっ、パーンって吹っ飛ばされたのさ、はははは」
「そうか。悲しいが、祝福すべきことだ。ようやく奴も、解放されたのだから……」
「感傷に浸るほどのことでもねえよ。ボケた頭じゃ、どうせすぐ忘れちまうんだからなぁ」
セブンは笑い、オータムは短くため息を吐いた。
サツキは銃を構えながら、敵の出方をうかがっている。
ハルも、オータムと呼ばれた老人を見ていた。
そして、その老人から目を離せなくなった。
彼の姿を見て、その声を聞いた時から、ハルの頭には様々な記憶がなだれ込んできた。
短く刈り上げられた白髪。
やや角ばった顔立ち。
薄い口髭に重みと深みのある目。
静かに、そしてゆっくりと頭に響く声。
すべてが、ハルの記憶にあるものと一致した。
その老人は、ハルが先生と呼び慕っていた、彼の大叔父だった。




