第三話 『死にたくない』
ハルとトウイチが敵を誘い出している頃、リオはビルの屋上に到着し、ライフルを構えスコープをのぞきながら狙撃のタイミングをうかがっていた。
できるなら殺したくない、とリオは思う。
あの巨大なフレームが自分達を殺そうとしている敵だということはわかっている。
ハルや隊長、そして自分自身も生死の境に立たされているということも。
それでも敵を殺すという確固たる意志を持つことができなかった。
いかなる理由や大義があっても、彼女は自分の中で殺人を正当化することができなかった。
それでも、撃たなくちゃいけないんだ。
私達は、戦争をしているのだから。
ハルとトウイチの攻撃により、敵機は交差点の中央に誘い出された。
リオは覚悟を決めなければならなかった。
撃つなら今しかない。
フレームの機動系統の中枢であるバックパックに狙いを定め、操縦者がいるカプセルに当たらないよう祈りながら、リオは引き金を引いた。
発射された弾丸は、リオの狙い通りに敵機のバックパックに命中した。
リオは続けて二発目、三発目と撃つ。
やがて敵機は、力尽きるように動きを止めた。
ハルとトウイチは後退し、武器を構えたまま相手の様子をうかがう。
リオは緊張が切れたように息を吐き、ライフルを持ったまま立ち上がった。
敵の様子をしっかり見ようと屋上から少しだけ身を乗り出す。
それを待っていたかのように敵機は突然起動し、リオの方へ向いた。
彼女が立っているビルめがけて走り出し、左右のアームを壁に打ち込みながらビルを上っていく。
ハルとトウイチは即座に攻撃を再開したが、敵の動きを止めることはできなかった。
敵は確実にリオを狙っていた。
カプセルの中に固定された操縦者の様子はリオにはわからない。それでもリオは、自分に向けられた圧倒的な敵意と殺意を全身に感じとった。
リオは恐怖にかられたようにライフルを乱射する。弾丸のうちの何発かが腕の関節にあたったらしく、敵機は片腕をビルの壁に打ち込んだままぶら下がった。
リオはすぐにもう片方の腕の関節も狙撃した。発射された弾丸は正確に命中し、敵機は落下して地面に激突すると、そのまま動かなくなった。
それでもリオは弾が切れるまで敵機めがけてライフルを撃ち続けた。
殺さなければ殺される。
その言葉が、彼女の頭に何度も何度も響いていた。
死にたくない。殺されたくない。生きていたい。
そうした切実な思いが、自分を脅かす他者を殺してでも排除すべきという意志を、彼女の心に生み出していた。
弾が尽きてからも、リオは動かなくなった敵に照準を合わせ、引き金を引き続けていた。
彼女のフレームは、彼女の意識にある恐怖を認識し、攻撃の行動をとり続け、彼女の体を動かし続けていた。
リオにはそれを止められなかった。
それと同じように、リオはとめどなくあふれる涙も止められなかった。




