第十話 『生き残ること』
翌日も今までと同じ日程通りに進んだ。
連合による無人機の襲撃があったり、自爆攻撃の未遂があったりと数日のうちに不穏な動きがあったものの、今ではそんなことなど無かったかのような雰囲気が守備部隊全体に漂っていた。
それが緊張感の無さによるものなのか、それとも今までのことはそれほど気にするようなものではないからかは、ハルには判断できなかった。
昨日に予定していた通り、昼になるとフタバはサツキを相手にして実戦訓練に取り組んだ。彼女もやはりハルやヒカルと同じく、手も足も出ないまま一方的にやられる結果となった。にもかかわらずフタバは意気揚々とサツキに挑んでいく。フタバがサツキの攻撃を受けるたび、リオは「壊れないで、壊れないで」と祈るように口にしていたが、その祈りもむなしく、訓練開始から三十分とたたないうちにフタバのフレームは故障のため動かなくなり、訓練は中止となった。
サツキはフタバをフレームごとかついで整備室へ行き、リオは不機嫌そうに文句をつぶやきながら二人のあとに続いた。ヒカルはフタバの訓練が済んだ後にサツキと訓練をすることになっていたので、三人に同行する。
ハルもついていこうかと思ったが、校舎の手前にあるジャングルジムのそばにシュウの姿を見つけ、残ることにした。
ハルはなるべく自然な態度を装いつつ、シュウに近づく。
「せっかくだしさ、シュウもサツキさんに訓練の相手をしてもらったら?」
「べつにいい。どうせ小一時間殴られるだけさ。それに何の意味があるんだよ」
「まあ、そうかもしれないけどさ。実際に戦闘になった場合に備えて、今のうちに経験を」
「実際に戦闘になったら、俺はすぐに逃げる。誰を見殺しにしてでも絶対に逃げる」
「……それ、本気で言ってるの?」
「なら聞くが、俺が殺されそうになった時、お前は死を覚悟して俺を助けてくれるのか?」
ハルは何も言えず、シュウは薄い笑みを浮かべる。
「結局のところ、自分の命を守れるのは自分だけなんだ。他の連中なんか俺は信じないよ」
吐き捨てるようにシュウは言う。
すると、校舎のほうから声が聞えてきた。
「それは間違ってるよ」
サツキの声だった。白と水色を基調としたインナースーツだけを身にまとった彼女は二人のそばへ歩み寄る。
シュウは彼女の姿を見ると、不快さをごまかすように視線をそらした。
ハルも少し目をそらす。インナースーツの生地は首元から足の先まで全身を包み込んでおり、サツキの体型は裸同然というほどに露わになっていた。ほどよいふくらみのある胸や、ほっそりとした腰回り、華奢な手足がちらちらとハルの視界に映り、顔を赤くさせる。
もっとも、サツキ自身はそういうことなどまったく気にしていないらしく、普段通りの平然とした態度で二人の前に立った。
「君達も私も、軍人であることに変わりはない。そして軍人の役目は生きて戦場から帰ることじゃなくて、命令に従って戦うこと。生きるも死ぬも、二の次の三の次」
「俺は……、俺は好きで、ここにいるわけじゃない」
「なら、やめればいいよ」
サツキは不思議な透明感のある二つの瞳をシュウに向ける。
「やめようと思えば、やめられる。でも君は、誓約書に署名しているから、それに違反することになる。そしたら軍法会議にかけられて、たぶん処刑されることになっちゃうよ」
「くそがっ!」
シュウは言葉を吐き、サツキをにらみつける。
サツキは特に動じることなくシュウを見ていた。
どうにかしてこの場をおさめないととハルが思った時、グラウンドのほうからこちらに近づいてくる足音が聞こえた。




