第九話 『戦友』
ヒカルとサツキの実戦訓練も、ハルと同じような結果となった。
制服に着替え、訓練の様子を見学していたハルは、自分もさっきまであんなふうにやられていたのかと思った。
実際にその通りだったので、ハルと同じく見学していたリオは「ハルと同じだね」と言い、フタバはうんうんとうなずいた。
「なんだよ二人して。見てろよ。僕だっていつか、サツキさんと互角に戦ってみせるから」
「はいはい。まあ、無茶はしないでよ。フレームのメンテナンスができるのは私達の中じゃこの私しかいないんだから……、ところでハル、今教官さんのこと、サツキさんって言った?」
「え? ああ。前に二人で話をした時に、そう呼んでいいって言ってたから」
するとフタバは興奮気味にこの話題に飛びついてきた。
「おいおいマジかよ。意外とハルも積極的じゃないか」
「いや、そういうのじゃないから」
「またまた。なるほどねえ。さっきの訓練で根性みせたのも、つまりはそういうことか」
「ハルは年上の女の人が好きだもんね」
「だからちがうって。色々と聞きたいことがあって、それで話してただけだから」
フタバはにやにやとした笑みを浮かべ、リオは「ふうん」と胡散くさそうな目を向ける。
「まあいいよ。信じてあげる。それで、どんなことを話してたの?」
「この戦争のことや、どうして戦っているのかとか、あと、いなくなった僕の家族のことも」
「……その、ハルの家族について、教官は何て言ったの?」
「会えるといいねって、言ってくれた。お互いに生きていれば、いつかきっと会えるって」
「そう……。私も、その意見には賛成だよ。うん。生きていれば、いつかきっと会える」
リオはハルに笑いかける。
ハルはリオに感謝しつつも、その笑顔をなんの気兼ねもなく受け取ることはできなかった。
訓練は夕方頃に終わった。
フタバは明日にサツキとの実戦訓練を行うことになり、リオと共に整備室へ行ってフレームの調整にとりかかった。そのためハルとヒカルは先に本部へ戻ることになった。
帰り道を歩きながら、二人は今回の訓練について振り返る。
話が一通りすんだところで、ヒカルは昨日のことと、ハルがここにいる理由について触れた。
「正直なところ、ハルが俺達の味方でいてくれるなら、お前がどんな理由でここにいてもかまわないと思っている。俺だって、けっこう独りよがりな理由でここにいるからな」
「そうなんだ。その、聞いてもいい? ヒカルがここにいる理由」
「それほど面白いものじゃないけどな。俺はさ、将来、政治家になりたいんだ」
「政治家に……?」
「ああ。でもそのためには被選挙権が必要になるし、議員資格だって必要になる。一通りそろえるとなれば、最低でも七年間は軍に在籍しなくちゃいけない。だから俺はここにいるのさ」
「でも、どうしてそこまでして、政治家になりたいの?」
「俺にとって政治家は、この世で最も軽蔑する職業だ。なにしろ、この国を無茶苦茶にしたのは過去の政治家達の失政によるところが大きいからな。でも、この国を再建するなら、政治家になるしかない。世の中を破壊したのが政治家なら、建て直せるのも政治家だと俺は思う」
そう語るヒカルの目は、理想を語るリオと同じく、とてもまっすぐだった。
「俺はこの国を本当の意味でよみがえらせたいんだ。同盟政府が進める日本再生計画が目指す国なんかじゃなくて、近代に生きた先人達が血を流しながらつくり上げた日本を、俺はつくりたい。他国に屈せず、国民を守り、国民も排斥しあうことなく互いに助け合って生きていく。かつてあったこの国をとりもどすんだ。それが俺の、人生の目標なんだ」
「なんか、すごいな。そこまで大きなことを、考えているなんてさ」
「男として生まれたからには、何か一つ大きな事を成し遂げろって親父がよく言ってたんだ。まあ、そういう親父はしがないただの労働者だけどさ。もちろん、いいかげんな気持ちでこんな目標を持ってるわけじゃないし、どれだけ困難なものかもわかっている。政治家になるまでが大変だし、もしなれても思い通りの政治ができるとは限らない。官僚層は高等学術院を卒業したエリート達が独占しているし、実業学校を卒業した企業家達とも協調しなくちゃいけないし。しかも連中には参政権がないからな。うまく折り合いをつけてコントロールするのは至難の業だ。でも、俺はやりたいし、やってみたい」
「大丈夫。きっとヒカルならできるよ。僕らの中じゃ一番頭良いし、勉強も得意だし」
「そう言ってくれると、心強いな。まあ、そんなわけでだ。俺は俺の目標を目指しているし、信念に基づいてここにいる。だからハルも、自分の信念や目標を大切にすればいい。それぞれの目標や信念にちがいがあっても、良し悪しはないと俺は思っている。だから、助け合えることがあれば助け合えばいいし、協力できることがあれば協力すればいい」
「そうだね。でも、僕にはあるのかな。みんなのために協力できることが」
「あるに決まってるだろ。今はこの研修期間を無事にやりきることだ。この前みたいに敵襲があったら、互いに背中を預けあって戦えばいい」
ヒカルはハルの肩を軽くたたく。
「頼りにしてるぜ、戦友」
僕も、とハルはうなずいた。




