表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落日の国  作者: 青山 樹
第二章 『国防軍』
22/91

第三話 『互いに生きていれば』

 しばらくの沈黙のあと、ハルはひとり言をつぶやくように小さな声で言う。


「夢を、見ていたんです」


「だから君は、泣いていたの?」


 夕陽が沈んでいく空を眺めながらサツキは言う。

 はい、とハルはうなずいた。


「僕がまだ小さかった頃のことです。仕事で忙しかった両親のかわりに、祖父の兄弟にあたる人が……、前に話した先生という人が、僕の世話をしてくれていました」


「そう」


「先生は僕にとって大切な家族でした。遊び相手になってくれるだけじゃなく、学校に通い始めてからは勉強もみてくれましたし、家の仕事や食事の用意もしてくれました。僕が何か悪さをしても怒鳴ったりせず、ゆっくりと時間をかけて反省をうながしてくれました。両親との思い出より、先生との思い出のほうが多いくらいなんです」


 当時も、そして現在も、ハルにとって先生が大切な家族であることはかわらなかった。


「でも両親は、先生とは意図的に距離をとっていました。先生について僕が家の外で話をすることも固く禁じていました。両親は先生をいないものとして扱っていたんです。どうしてそんなことをしたのか、その頃の僕にはわかりませんでした」


 その理由がわかったのは、ハルが防衛学校に入学してからしばらくたってからのことだった。

 しかし、それがわかっても、なぜ両親にそんなことができたのかはハルにはわからなかった。


「私の祖父も、その先生って人と同じようなことをしていたし、同じような立場にいたよ」


 サツキは窓の外に目を向けたまま、淡々とした口調で言う。


「でも、日本再生計画が始まって、祖父の存在が負担でしかなくなると、祖父も私の両親もどんどんおかしくなっていった。それで最後には、私以外みんな死んじゃった。祖父は私達家族を邪魔者としか見なくなったし、両親も祖父を邪魔者としか見なくなった」


 邪魔者、という言葉がハルの頭に不気味に響く。


「結局、世の中は邪魔者を排除しあいながら回っていくんだよ。だから日本再生計画は支持されたし、計画を邪魔だと思う人たちは『連合』を結成してこの戦いを始めた」


「僕は、そういう考え方は、間違っていると思います」


「そう」


「そんなことをくり返しても、結局それは目先の問題を片づけているだけで、問題の根本を解決することにはつながらないはずです。互いを排除しあうのではなく、受け入れ合う道を求めるべきだと僕は思います」


「そのために君は、東日本へ行った家族に会いたいの?」


 わかりません、とハルは首を振った。


「僕が先生に会いたいのは、ただ話をしたいだけなんです。どうして僕達のもとからいなくなったのか、僕と一緒にいた時に何を思っていたのか、僕や僕の両親のことをどう思っていたのか、そういうことを話したい。そうすることで、何かが変わるかもしれないと思うんです」


 そう、とサツキは言う。

 部屋の中はその暗さを増し、色彩をほとんど失っていた。

 しかしハルの目はすでに暗闇に慣れていて、まったく気にはならなかった。


「会えるといいね」


 サツキはベッドから立ち上がると、ハルのほうに目を向ける。


「大丈夫だよ。お互いに生きていれば、いつかきっと会えるから」


 そう言うと、サツキは医務室から出ていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ