悪魔、否、旅人
聖なる者は其処に来た。
村人達はその者に、最高かつ最悪の歓迎をした。
「悪魔が来たぞ!!」
一番最初にその者を見た一人の村人が叫んだ。
剣を担いだその者は不機嫌に顔を上げた。
「ダーレが悪魔ってんだ……」
村人達が家々から斧ら矛やら危険な刃物を多数持ち出してきた。中には猟銃などを構える者もいた。
聖なる者は、
「……」
無言であった。
そして、聖なる者に向かって村人達が突進を始めた。
その距離わずか十メートル。すぐに「悪魔」に狂気した村人達が襲ってくる。
聖なる者は身の丈ほどもある剣を前にいる村人に振るった。
六人程度がバタリと倒れ、身体が真っ二つになった。
それから順調に斬り開いていく。
その向かう末には、教会に似た形の建物があった。その建物の屋根には十字架の代わり
に蛇が二匹、反対の形に絡まったような、他の意味でクロスしたもの乗っていた。
そしてその隣には白い女性がいた。
「ディバルゥ〜! 早くおいでよぉ〜」
聖なる者――ディバルの悪魔あるいは死神のような格好と反対に、その女性は天使ある
いは女神のように白い。その上、美しい。
ディバルは、
「ん……」
うなずくだけだった。
それが見えたからか、女性は屋根の上に美しく座った。
その間にも、小さい子供から老人――老若男女問わず関係なく襲ってくるので、その村人達を容赦なく斬って行く。
そして、教会が近くなりひときわ背が高く美しい青年が立ちはだかった。
「どけ」
ディバルは言った。
「……退かないなら着いて来い」
「何処へ、だ」
青年は問うた。
「教会へ、だ……」
「聖ラコジェのナイフを取りに行くのか?」
「……あぁ」
村人からざわめきが起こった。
そして、ディバルと青年の周りは開け人々がスペースを造った。
「イルタラ、闘え!」
ひとりの村人が言うと、
「闘え!」「殺せ!」「消せ!」
村人達が叫ぶ。そして、次第にその声たちは、
「タタカエ! コロセ! ケセ――!」
まとまっていった。
青年――イルタラはその様子を面白くもなさそうに横目で見て、目前の「悪魔」の瞳に己の瞳を合わせた。
そして、
「地獄に行くとき、僕の名前憶えていってよ」
にっこり笑って言った。
「僕は好む他の用心棒・イルタラ。イルタラ・マチスだ。これから、手合わせ宜しくお願いします」
と言って、礼儀正しくお辞儀などをしているイルタラの眼は、刃物のような灰色で鋭く痛かった。
しかし、
「違うな。貴様は俺達の仲間だ」
突如、とんでもない発言を行った。
一瞬、村人達の間にどよめきが起こり、混乱を招くことになった。
「イルタラ! お前も悪魔だったのか!」
「イルタラ! 信じていたのよ!」
村中の者から嘆きの声が出た。
ある村人が言った。
「悪魔とイルタラを殺すんだぁっ!」
イルタラは、その村人達の態度の急変に少々戸惑っていた。
ディバルは、ふと思いついた。




