そして死と
「俺に刃向かうな。伝説の花の主」
レイラがレンを蹴りつけた。
「嫌だ、お前みたいに復讐するためにこの世にのさばってる奴の話なんて聴くもんか! 母さん達だって絶対にこの世に残ってないよ。私は絶対にお前に『希望歌花』を譲らない!!!」
下からレイラを見上げるレンはそこにいる誰よりも鋭い決意に満ちていた。
「いや、貴様の家族はずっと貴様のことを見守っていたらしいぞ」
ディバルが木の上からローブを翻し飛び降りてきた。雪風丸はウッドハウスの手すりから先へは出ようとはせず手すりにもたれて蹲っていた。
「魔術の…展開、っを…と、め…て、くれ」
苦しげな息づかいから、雪風丸は今闘っている“善”の魔術か“悪”の魔術かに影響されていた。その理由とは呪いにかかっていた。戦闘の場で同じ術同士が相対したとき、力の強いほうのハンデを負うという病んだ呪いだった。力が強ければ強いほど全身から痛みが溢れ出した。そして、その強い力が味方ならばもとより体が蝕まれていく。
レンはレイラに適わないと分かりながら立ち向かっていった。そのしぶとさに耐えかねたレイラはレイラにとっての最強の武器〝聖ラコジェの最初の剣“で斬りつけた。
防御壁をつくり相手の巨大な力を受け止めた。そしてそばからディバルがレイラに斬りかかっていった。
「ふんっ……二度も同じ手が使えるかよ――二重防壁」
ディバルの前と後ろに防壁が出来上がった。時に後ろの壁はレンの隣まで伸びていた。そしてレンの壁をあわせ三枚の防壁がレイラの最高の武器と化した。
ディバルの斬った波動がレイラの前の防壁に跳ね返り後ろの防壁にぶつかると、そのままレンに攻撃が当たった。レンは吹き飛ばされ、近くの木に当たり止った。レンはもう一度、立ち直ろうとしたが、自分の変化に気がついた。ディバルの攻撃は完全にレンを動けなくしていた。それを見た雪風丸がウッドハウスに戻り『希望歌花』を持ち出してきた。
「レン、ディバル願え! レンの傷が治れと。私が犠牲になる! お前の命となるから、なあ!」
雪風丸は自分を犠牲にしてもレンを助けたかった。何故そんな気持ちになるかなんて死ぬ直前と決めた雪風丸には関係がなかった。
「だめっ、です…私じゃなくて世界を。この広い世界の民を…救ってください。私が血を捧げます…ね?」
レンは痛々しく笑みを浮かべて涙を流した。
「お願いです…」
それを言うとき、レンは痛みを無言で堪えていた。
「冗談はよしてよ…」
その言葉どおりに表情を浮かべた。それでも瞳の奥にある湖は悲しみという花しか浮かばせてはくれなかった。
そして、アリスもウッドハウスから出てきた。
「こうなって貴様はこいつらからあの花を奪うのか?」
ディバルがレイラに訊いた。
だが、その瞬間にレイラの〝身体〟は音を立てて崩れていった。死んだわけではない――既に死んでいるから。消滅したわけでもない。
「逃げた……」
イルタラがやっと立ち上がった。
「ごめん、何かの術にかけられてたみたいでした」
そして、ディバルが司祭のような、いや神のような目でレンを見た。
「レンの最期に祝福を。世界の始期に祝福を!」
真夜中にディバルの声が響き渡り、世界が光に満ちた。




