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希望歌花

「……でかい」と、雪風丸とイルタラの言葉。

「……豪華」と、アリスの言葉。

「……こんなところに、か」と、ディバルの言葉。

「まあ、屋敷にはたくさんの本があるので僕は図書館って呼んでるんですけどね。実際家族が生きてるときは居住のための家だったんですけど、一人じゃ広すぎて今は倉庫に住んでるんです。少し朽ちかけですけど広いよりも住みやすいんですよ」

 「こっちです」とレンが手で招いている先は樹と樹の間に引っ掛けられたようなログハウス的な家屋だった。そして、そのウッドハウスに入っていった。

「さあ、お茶を。認めの葉を使ったお茶です。客人をもてなすとき一番最初に淹れるんです」

 深緑の茶は煎り立てだった。

「あの、僕達って本当にこんなところにいてよかったんですか? レイラさんを――」

 イルタラは座ってお茶を飲んでいる二人に言う。雪風丸は一つの植木鉢に目を向けていた。

「このつぼみ、埃が被っている様子だが造花なのか、レン?」

 雪風丸の後ろに歩み寄ってきたレンに問うた。

「いえ、本物の花です。私のつけた名前は『希望歌花』。歌うと気持ちよさそうに揺れるんです。それも希望を持つ歌ならとっても機嫌良くって、悲しみを語るものなら寂しそうにしょんぼりするんです。でも、今のままだと花は咲きません」

 レンは花を越えてその先を見透かしたような表情をした。

「何故だ? 特殊な育て方か?」

「いえ、違います。『希望歌花』は誰かの夢、希望と誰かの血が必要なんです。それにそれは勇敢な人で量は大量でそれが条件として適ったとき、花は真っ赤な花弁をつけて、その夢、希望を叶えるということです」

 レンは自分の手の中にある血潮たちを尊く思いながら言った。

「私には闘う力さえないんです。これは万能でなきゃできないことなんですよ」

 希望に望み、絶望に堕ちたような瞳。

「単純だな。私らが血をお前に捧げればいいんだろ?」

「いや、私には夢も希望もないですよ……絶望の果てまで堕ちたんだ」

 ふとレンは視線に気がついた。一つは明らかにディバルが睨んだ感覚ともう一つ、何処からかの視線だった。

「……どこでその絶望ってのを見たんだよ」

 目を離してはいけないと思うほど素直にレンの目を射ていた。

「えっ……私の家族が死んだときです」

 束縛の状態を逃れるために必死で目を閉じた。

「絶望の意味さえ判らずに術者って名乗ってんのか、このエセ術者」

「ディバル! 何てこと言ってるんだ、駄目じゃないか。レンの哀しみが君には分かるんですか? 家族が死んだら誰だっ――」

「貴様は分かるのか? 絶望と哀しみが」

 ディバルがいきなりナイフをイルタラの喉元に当てた。

 他の三人は呆然とその光景を見ている。

「絶望ってのは、この世だけじゃなくあの世までも希望のカケラを見つけることのできないことだ。生きていても意味がなく、死のうとしてもあの世に逝けない。逝けたとしてもまた引き戻される。それから、あとのことだ」

 ディバルはとても幼い十四歳の頃、平和な世界が崩れる元凶を見てしまった。そのときに自害もをしたのにディバルは死ねなかった。周りの者は全て消え、徒、孤独に彷徨った。自分が世界を変えることの出来る聖人だと気づかないまま。

 そのとき、ディバルはこれが『絶望の一歩前』ということを知った。

 だが、そのときに過去――前世の記憶が蘇った。そして、前世が死ぬ直前に『希望へ堕ちる』とふいに思ったことがはっきりと伝わった。

 人は二つの死が待っているのだろうか。

――希望の名の下、絶望の名の下。

 ディバルはこれだけの死に方にこだわり殺す者として殺してきた。

 来世のその人が白く潔い心で明るい生活を送れるように。来世の人々が明るい平和な世界で暮らせるように。

 それは産まれるずっと前から願ってきた。

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