表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふかしぎ真霊奇譚  作者: 猫音おる
第二章   ~生徒会怪編~
9/92

#9 風紀を正すの大変

部室と生徒会室を繋ぐ戸の鍵管理は琉嬉が半ば強引に決めた。

双方のリーダーだけが管理するという事に。

勿論担当の教師も管理するのは当然だが、生徒だけに関して言えば部長と生徒会長のまどかだけという話。

ガチャリとドアの開く音。

部室に先に入ってきたのは琉嬉だ。

まだ誰もいない。

ドカッと鞄を置いて、早速勉強道具を取り出す。

この日もまたテスト勉強のために部室を利用しに来た。

護は別のクラス。

みゆ達は学年が下の後輩となる。

 別に仲の良いクラスメイトと一緒に勉強すれば良いのだが、やっぱりこちらが落ち着く。

テストまであと二日。

なんせ、学生という身分。

進級するためには頑張ってテストでいい点取っておかないといけない。

当たり前の事だ。

「やあやあやあ~」

 明るいノリで入ってくるのはみゆ。

いつも陽気で落ち込んでるような様子は一切ない、お気楽な娘だ。

「お前だけ?」

「みこっちゃんはなんか用事あるらしいので今日は来れないみたいッス」

「そか」

「護先輩は来るんですかね~?」

「さぁねぇ。クラス違うから分からん」

「んー、残念~。あ、そうそう、最近流行ってるこの連絡アプリ使えばより迅速な情報伝達できますよ!

ホラホラ、これこれ~。琉嬉ちゃんも入ってくださいな」

「……ふむ。なるほどな。それは便利そうだな」

「やったっ」

 携帯やスマホで使える連絡アプリ。

それを使うという。

「……耿助さんも入れないとダメだよね。あとは……」

 なぜか來魅の顔を浮かべる。

「…入れといた方がいいのかな?アイツも」

「ほへ?アイツ?護先輩?」

「あ、いや、こっちの話」

「変なの~」


「しっかし……」

 チラッと、生徒会室側の扉を見る。

隣に生徒会メンバーがいるとなると気が気でない。

なんだか落ち着かないのだ。

「琉嬉先輩…どうしたんですか?ソワソワして」

「…なんでもないよっ」

「そう?」

「……ま、いっか。琉嬉先輩、ここ分からないので教えてくださぁ~い」

「なんだよ、それくらい自分でやれ」

「えー、なんでですかーっ、琉嬉先輩は先輩じゃないですか!」

「僕は転校してきたばっかりだから時間軸的にお前の方がこの学校では先輩だ」

「なんですか時間軸って意味分かりませんよ~」

「えぇいうるさいっ」

 みゆが琉嬉の後ろから覆いかぶさるようにベタベタしてる。

体の小さい琉嬉はみゆの体に完全に覆いかぶさってしまい、身動きを取りにくくしそうにしている。

「おいっすー」

 イチャイチャしてるところに護がタイミングよくやってきた。

「おっと、お取り込み中だったかな?」

 そう言ってドアを閉めようとする。

「ち、違うっ!変な誤解だ!」

「ふーん、そうかな~?琉嬉ちゃんって男に興味なさそうだし…」

「うおぃっ!なんでそんな風潮に?!」

「じゃ、彼氏欲しいの?」

「なんでそんな話になってるんだよ!欲しくねえし!」

 ドタバタうるさい部室。

大体はみゆが発端になるのだ。

「護遅かったな。掃除当番でもしてたの?」

「いんや、面倒な事に風紀係に関わっちゃってね…」

「風紀係?風紀委員じゃなくって?」

「あ、いや、正式には生徒会の中直属の役職で風紀係委員ってのがあるみたいなんだよね。どっから係って出てきてるのか分からないけど」

「ふーん、そうなの?生徒会とか委員会とかそういうのよく知らないんだよねぇ」

「琉嬉先輩は生徒会とか委員に興味なさそうだもんね~あだっ」

 言った瞬間琉嬉チョップがみゆに命中していた。


 まどかを中心に活動している鞍光高校生徒会。

その中の風紀係。

別段他の学校と変わりにはないが、生徒会として同じ役職なので行事などは直で動く。

その風紀係に護はひっかかったらしい。

「制服姿が乱れてる!って言われちゃってね」

 護はタイリボンをつけてないし制服の前は開けっぱなし。

下のシャツも出してる。

そして金髪。

誰がどう見てもギャルやヤンキーに見える。

だがそれ以上の事を言われていた。

「その頭はオッケー貰ってるの?」

「自毛だからねぇ~。許可をもらってるよきちんと。そこを知ってるみたいでさすがに風紀係も髪の色には何も言わないけど」

「ていうかさ、外人だよね外人。いわゆるパツ金の外国人女だね」

「やめて。よく間違えられるんだから…」

「あ、やっぱり~?護先輩、スタイルいいですからねっ。背も高くてスラっとしてておっぱいも大きくて」

「おっぱいは余計だよ!」

「うーん、たしかに。最初に会った時、どこぞの留学生だよ!って思ったもん」

「あ、あのね…、日本人ですって返すのもなんか恥ずかしいんだよ」

 案の定、外人に間違えられるらしい。

よくよく考えたら、なぜか英語で話しかけられたりある…とふと思う護。

その度に否定するのが恥ずかしいらしい。


ガールズトーク?を終え、しばらく勉強会が始まる。

時刻は19時近く。

6月が一番日の明るさが長い。

なので、外はまだまだ明るさがある。

「あー疲れたー。今日はこの辺で切り上げるかな」

 先陣を切って言いだしたのは琉嬉。

「そだねー。お菓子も尽きちゃったし」

「ほとんどみゆが食べてたじゃん…」

「え?そうだっけ?えへへ」

「えへへじゃないよ…(しかしこの子可愛いな)」

 同性でも可愛いと思うくらい、みゆは憎めなくて可愛いようだ。

明るく、家柄もいい所出身なのに見栄もはるような事もしない陽気でハキハキしている。

それもそのはず。

一年生に明るく可愛い子がいる、と噂が上級生の方にも流れてくる。

護や琉嬉は大した気にはしてなかったが、時折港咲がどうのこうのと名前を聞くようになった。

みゆの事か~、程度にしか思ってなかったが。

「………じーっ…」

「…あの、なんですか?護先輩?しかもなんか声に出てますけど…」

 変な目線に気づくみゆ。

「あいや、別になんでもないぞなんでも。あははははー」

 乾いた笑いでごまかす。

「変な護先輩~」

「変とはなんだね変とは。こう見えても先輩なんだぞ」

 トントンッと机を叩く音が聞こえる。

琉嬉が教科書をまとめていた。

「いいから今日はもう帰るよ」

「はーい」

 二人は声を揃えて返事をする。

「僕は鍵を返してから行くから、先に帰ってていーよ」

「…えー、つれないな~」

「駅まで一緒に帰ろうよぉ」

「うんにゃ、ちょいと帰り用事もあるから、明日ね」

「へーい。残念ー」


「……テスト期間中はどうしようかな部活…、やっぱ休みにするべきかな」

 二人が先に部室を出て行ったあと、独り言のように呟く。

テスト期間に入ると大抵の部活は休部する所が多い。

「てか、部活らしい事してないじゃん!ずっとお菓子食べながら会話したり勉強してるだけじゃんか!」

 段々声が大きくなる。

「これじゃまるでどっかの部活みたいじゃん!」

「こら!そこ!あまり大声出さないでください!」

「!!」

 ビクンッと琉嬉の小さな体が飛び跳ねるように驚く。

廊下は自分だけだと思ってたら、自分とは違う声が同じくらいのボリュームで聞こえた。

「…え?」

 生徒会室側へ振り向いてみると、一人の女子生徒がいた。

当然、琉嬉よりは背は高いがそこまで背は高くない。

みゆと同じくらいだろうか?

髪は横に広がったようなみゆよりも少し長めなボブカットというか…おかっぱといったような表現が近い。

頬の両サイドだけ長め。

そして、白色の縁の眼鏡。

眼鏡姿であるが、その奥の顔は整った、綺麗な顔つきをしているのが分かる。

特徴ある眉毛に少し細い目。

何より目を引くのが光の加減で銀色にも見えるような、くらい銀髪と大きな胸。

「………誰?」

「誰?じゃないです。大声出されるとびっくりします!」

「いや、こっちもびっくりしたんだけど…」

「言い訳無用。あなたは彼方琉嬉さんですね?いろいろ問題を起こしてるという…」

「……否定は出来ないけど、なんすか?」

 ケンカを売られてるように思えて短気な琉嬉もすぐに口調が強くなる。

「新しく作られた部活…隣のふかしぎ部ですね?まったく…会長もよく許可したもんだ…」

「会長が許可……?アンタ、生徒会の人?」

「そうですが?」

 この眼鏡の女子生徒は生徒会のメンバーのようだ。

よくよく見ると腕に腕章をしている。

「えー、と。その腕章ってもしかして」

「生徒会風紀係委員・委員長の夜栄守静寧やさがみ しづねです」

「……や…さが…み?ヤサガミって、あの夜栄守…?」

「どの夜栄守かは知りませんが、おそらく彼方さんが思ってる夜栄守で間違いないとは思いますが」


「…………なるほど。話が早いね」

 夜栄守。

たしかにそう言った。

彼方家や港咲家と並ぶ…五大家のひとつ。

その夜栄守なのだろうか。

「テスト間近です。浮かれてていいのでしょうかね?こんな時期に部活などと…」

「部活というか…勉強会ですけどね」

「勉強…会?」

「そそ」

 しばらくこめかみを両手人差し指で押さえ込み何かを考える。

「それは失礼しました」

 ぺこりと謝る。

「ですが、私はあなたの事を認める訳にはいきません。学校の風紀を乱す者として」

「…ちょっと待ってもらおうかな?風紀を乱す?僕はね…」

「それは建前。私は知っています。あなたが裏で何をしてたのか…」

「………へぇ」

 異様な空気が流れ込む。

「まぁ、所詮学生の身。自警団みたいな事はしてますがそこまでの権力なんぞありません。生徒会そのものも…そうですけどね」

「何が言いたいの?」

「場合によれば…力ずくってのも……ありだと思いますよ?私達の世界ならではの……」

 不敵な笑みがそこにはあった。

琉嬉は少し緊張する。

「ズルイねあんた」

「会長達にはよく言われます」

「………で、僕をどうする気?」

「とりあえずですね、その服装をどうにかしてください」

「服装?」

 琉嬉は下のYシャツを下に出してる少しだらしない着こなしをしている。

「先ほども芹沢さんも同じような格好してましたね…。まったくふかしぎ部の人達は…ブツブツ」

 護が風紀係にひっかかったと言っていた。

連続でふかしぎ部のメンバーが風紀係ひっかかったようだ。

とやかく、ブツブツ小さく何か喋っている。

「んー、別に先生は何も言わないけどな」

「先生達はいいんです。そのための風紀係委員なのですから」

「ふむ…。でも、アンタこそその髪の色はどうかと思うけどなー」

 棒気味に喋る。

「こ、この頭は仕方ないんです!生まれつきです!」

「……またまたー、護と同じで自毛だって言うの?」

「自毛です!」

 声を張り上げて主張する。

「自毛…なの?ハーフか何か?」

「ハーフではありません…祖先が、いえ、何でもないです」

「ふーん…(怪しー)」

「いいですね!速やかに下校してください!」

 そう言い合いしてるうちに、生徒会の方の戸が開く。

出てきたのは叉羅沙と加賀龍翔だ。


「よっ、琉嬉ちゃん」

「あら琉嬉ちゃん」

「…やあ」

 よそよそしい挨拶。

以前二人と戦っている。

変に意識をしてしまうのは仕方ない。

なのに生徒会の二人は何もなかったかのような雰囲気を出している。

「どうしたん?寧音?」

「あ、いや、何でもないです。ただ彼方さんに口頭注意をしてただけです」

「へぇー、どうせまた何かやらかしたんだろ?琉嬉ちゃん」

「してません」

 きっぱり否定。

どうしてみんなして決めるのか。

小中とも、琉嬉はさんざん言われてきた。

正直うんざりしている。

自分が悪いのもあるのも理解しているのだが。

「…生徒会も帰る時間なの?」

「んー、そやな。さっさと帰って勉強せないけんし」

「…寧音は帰らないのか?」

「私も後ですぐ帰ります」

 ぷいっと向こう振り向いてそそくさと生徒会室へ入っていく。

どうも、機嫌を扱うのが難しそうな性格だ。

「僕はお先に帰るよ。じゃね」

「おー」

「また明日よろしゅう」

 琉嬉の姿がなくなる。

生徒会の二人も足を動かす。

「……なあ、この先どうなるんだろうな?」

「どうかなあ、あとはうちの問題児次第やない?」

「お前さんにとっては問題児扱いなのかよ…」

「あ、これ、内緒にしといてな」

 人差し指を口元に置いてしーっというしぐさ。

それをみて苦笑する龍翔だった。




 下校していく生徒も少ない。

もうほとんどいないというくらいだ。

外はようやく日が大分沈んだくらいだった。

琉嬉は学校の敷地から外へ出て行く。

駅前に通る道筋。

近くには來魅が居た神社がある。

もうほとんど用はないし、今は立ち入り禁止になっている。

おそらく管理している参堂家の者が立ち入り禁止にしたのだろう。

耿助は特に深い理由などは言ってなかった。

神社というものは、いろんな者が助けを求めて集まってくる場合がある。

余計な悪霊などが寄り付いて面倒な事にならないために、また結界を張り巡らせて封じたのだろう。

次の封印が解けるのは100年後なのかどうか、そこは琉嬉にはさすがに分からない。

特に大きく気にしもしないで進んでいく。

「……さすがに暗くなっちゃったな…さっさと帰るか」

 少し足早に歩く。

(……こっち行けば近道か)

 実はまだ転校したてなので、あまり土地勘が無く、駅までの間の地域が全部把握していない。

スマホの地図を確認しながら進む。

駅に向かう途中、気になるお店を発見する。

「…ん?あれ、ここって…」

 一見普通の個人経営のゲームショップ。

新品から中古を取り扱っているレトロメインの中古ショップっぽい。

筋金入りのゲーマーである琉嬉はテンションが上がりそうなのを抑えていた。

寄りたいがそろそろ帰らないと家族がうるさい。

それでなくっても帰りが遅い日が続いてるので、腕っ節が強い琉嬉でも心配される。

(ダメダメダメ…でも………)

 変な葛藤が続く。

一人頭を抱えてくねりながら動いてる少女はシュールな光景だ。

「何をやってるんですか………?」

「はいぃっ?!」

 ビクンッとまたもや驚く。

聞き覚えのある声がする。

「…先に帰ったと思ったら…こんな所で何をしてるんですか?」

 またもや夜栄守寧音だった。

「あ、いや。なんでもない…よ」

「なんでもない訳なさそうですけどね」

「うるせいっ」

 琉嬉は走って逃げるように駅に向かった。

「………」

 寧音は無言のまま、首を傾げながら見送った形になった。




「なぬっ?!夜栄守のヤツがいただと?!」

 驚愕する來魅。

さすがに自分を封印した術者の名前を聞くと驚くらしい。

「……そうだね。なんでみゆのやつも知らないのかな?」

「姉ちゃん…学校始まってまだ一ヶ月だし、知らない事は沢山あるんじゃないの?」

「そうかもしれないけどさ…」

 夜中の琉嬉の部屋。

少しだけテスト勉強をしている間の小休憩中。

來魅や悠飛が琉嬉の部屋に集まっていた。

「ふむ……やはり、鞍光におったのか…夜栄守が」

「なんで?封印したんならこの土地に住んでてもおかしくないんじゃないの?」

「夜栄守は元々ここにはいない術者だったらしいぞ。100年前の話だけどな」

「へぇ…。ってなんで來魅がそんな話知ってるのさ」

「100年前に本人が言ってた」

「……あ、そう…」

 五大家の中でも夜栄守家だけは、別の地域に居たという。

五大家と言っても日本中から集まった高位な術者なので、この地に元からいる家系ではないようだ。

彼方家と参堂家と港咲家だけが残ったようである。

他の名家も、來魅以外にも大量にいる魑魅魍魎達を倒すために発展してきた家系ためこの地に沢山いる。

「ちょっと会ってみたい気もするのう」

「…ダメだよ。会ってどうするの?」

「なぁに、軽く挨拶だよ」

(……本気に会いかねないな來魅なら…)



 

 ついに、テストの日がやってくる。

琉嬉達は思う存分、勉強の成果を出すために頑張る。

良き点を取るために。

それぞれの思惑を胸に、戦場と赴く学生達。

己の力を試しに、いざゆかん。


 テスト一日目。

無事に終わる。

琉嬉らが通っている学校はテスト期間は午前中で終わるため、早めに帰宅出来る。

その分テスト勉強にぶつけろ、という意味にも捉える。


 テスト二日目。

特に何も問題なく、終わる。


テスト三日目。

琉嬉に取ってまた面倒事が舞い込んだ。

「終わった終わった~。あと明日頑張れば…」

 ぐぐーっと体を伸ばす。

みんなが速やかに帰る中、琉嬉はふと部室に寄る事にした。

特に用事があるって訳でもなく。

勿論、誰もいない。

隣の生徒会室も人の気配が流石にない。

少しだけぽけ~っと窓の風景を見ていたらいつも見てるような霊物質が視界に入ってくる。

面倒なので、取り敢えず放っておく。


 正面玄関から出て、数分。

ある霊気に気づく。

いつも感じてるのとは違う、大きめの。

(……はて、これはさすがに…。ふかしぎ部出動かな)

 時間が勿体無い……と思ってながらも霊気の感じる方向へ向かってしまう。

校舎裏からさらに奥へ進んでいく。

少し開けた空間。

レンガ調に建てられた、大きな建物。

窓や扉は板張りされていて入れないようになっている。

よく見ると建物の周りは柵がで囲まれてるようになっていて立ち入り禁止と書かれた看板が。

「なになに…?学生の皆さん、こちら旧校舎は危険です。立ち入ってはいけません。校長。ふぅん…」

 琉嬉は転校したてでよく知らなかったが、旧校舎の存在はなんとなく聞いていた。

肝試しとかに使われそうな、明らかに危ない感じの建物。

「おい」

 琉嬉の背後から聞こえる声。

少しビクッとなりがながらも誰の声かはすぐ理解した。

「……大きな霊力の正体はお前かっ」

「やおー、琉嬉。暇だから迎えに来てやったぞ」

「お前なぁ…暇だからって学校までくる事ないだろ?てかどうやって来た?」

「んむ?勿論歩いて」

「…そうだよな。お前人間じゃなくて妖怪だもんな…」

「おう」

 どうも、暇過ぎて琉嬉を迎えに来たようだ。

それにこれくらいの距離なんて事ないようで、疲れた様子もない。

「それにしても…この建物はなんだ?入ろうとも開いてる箇所がないではないか」

「立ち入り禁止なんだってさ。なんで取り壊されてないのか不明だけどね」

「ほへ~。そうなのか」

 ぽかんとした表情で建物をみつめる來魅。

こうして見るとただの子供だ。

「てか、なんで來魅もこっちに?」

「んー?いや、なんか妙な霊力を感じてな」

「霊力…?あれ?じゃあさっきのは來魅の霊気じゃなかったのか?」

「何を言うか。私の妖力ようりきはお前様に封じられておろう」

「あ、そっか」

 自分でやっといて忘れていた。

來魅は普段は自力では完全に解除は出来ない。

そんな來魅が大きな霊気を発する事はあまりない。

あっても、すぐに分かるはずだ。

「…んー。じゃあなんだ?旧校舎から感じたのかな?」

「何かと居そうな建物なのは確かだの。どうする?入るか?」

「いや、入れないっしょ。入れない事はないけど。無理矢理入っても得にならないよ」

「そうかあ?楽しそうなのにのう」

「んなわけあるか」


 結局霊気の正体は掴めないまま、引き返す二人。

旧校舎の敷地辺りから出ようとした時だった。

ザザザッと、音が聞こえる。

草むらを駆け抜けるような音だ。

「琉嬉…」

「うん。大丈夫」

 すぐに警戒する。

両手に御札を持つ。

來魅も何かを念じるように、手の平を広げている。

何か来る。

そう二人は感じていた。

影らしき物が木の枝を飛び移る。

「…こっちか!」

 琉嬉が超反応で動きを捉える。

御札を投げつけようとする。

「…ん?」

 しかし、影の正体に気づいたようだ。

影の方は來魅を狙って突撃してくる。

「むっ?!」

 來魅はなんなく避ける。

ズザッという音と共に着地する。

その着地した人物は夜栄守寧音だった。



「夜栄守…?なんでお前」

「彼方さん、離れて下さい。そこにいる少女は妖怪です」

「ふむ…。お主……夜栄守の末裔か」

「…なぜ私の事を?」

「なぁに、琉嬉から聞いておる」

「……彼方さんに?それは一体どういう…」

 琉嬉は変な顔していた。

なんか、面倒だなという顔。

目を開けて見てるのも辛いくらい、面倒だと。

「あ、あのさ、ちょっと…いろいろ説明すると面倒なんだけどさ」

「…どういう事です?まさか、加賀さんと同じような使役妖怪とでも…?」

「それに近いかもしれないな。はははっ」

 笑い飛ばす來魅。

「いや、使役じゃなくって…」

「問答無用です。彼方さん。ともかく、妖怪はこの学校へ侵入させては行けません」

「だからちょっと待てって…」

 寧音は構え出す。

何かの格闘技なのか。

武器は持っておらず、素手だけのようだが。

「妖狐・來魅…人間をたぶらかすとは…許しません!」

「…マジかよ!てか知ってたのかよ!」

 凄まじい動きで來魅を攻撃しだす。

「うおっと…、危ないのう」

 得意の身動きで避ける。

避けた後も食いつくように動く寧音。

人間離れしたような動きだ。

手刀を何度も繰り出す。

手にはうっすらと黄金色に光る霊気が見える。

その威力は半端なく、命中した地面や木が鋭く破壊されている。

「やめろ!夜栄守!お前はなんか勘違いしてる!」

「あなたは騙されてるんです!操られてるんです!」

「…な、何言ってるんだよ…?」

 まったく聞いてくれない。

「くっ!」

 仕方なく琉嬉は両手に持っていた御札を放つ。

動きをどうにか止めようと寧音に向かって飛ばす。

「無駄ですよ!」

 寧音は両手を見えないくらいの動きでどんどん御札を弾いていく。

ボクサーなんて目じゃないくらい、早い。

「な、なんだ…マジか……素手で御札ぶっ飛ばしていく人間なんて見た事ないぞ?!」

 超人的な動きに驚く。

「さあ、観念しなさい!」

「うおっ!」

 ドカンッと一撃。

何かの霊気弾だろうか。

大きな一撃が琉嬉と來魅の目の前で爆散した。

土煙が起きる中、間合いを詰めていた寧音が琉嬉を正拳突きのようなパンチで吹き飛ばす。

琉嬉は間一髪、防御壁で防いだが遠くへ吹っ飛ばされた。

「あたた、なんて威力…來魅は?」

「フフン。やるのうお主。さすがは夜栄守。楽しませてもらおうか?」

 來魅は耐えていた。

力を封じてるのに。

「…來魅?もしかして」

「フフフフフ、久々に全力といくかのう!」

「おいおい…」

 來魅はわずかな間だけ、妖力を全力で出して戦える。

その短い時間をこの一瞬に賭けるようだ。

「……望むところです」

 ニヤッと寧音が笑顔を見せる。



「なんて眼鏡っ子だい。あの來魅の動きについていってるよ」

 琉嬉も関心する、夜栄守の力。

寧音は來魅と物理的に戦っている。

互角…には見えるが、少しずつ寧音の方が押され始める。

「くぅ……さすが大妖怪…!強いですね!」

「はっ、お主もな!体術は琉嬉以上かもな!」

「むー」

 少しカチンとくる。

実は体術にも自信がある…のだが、どうしても体格差が出てしまい術に頼ってしまう。

「もっと鍛えた方がいいのかな…」

 などとボヤく。

そうしてる間にも目の前は凄まじい戦いが繰り広げている。

來魅も琉嬉に見せた黒い炎を放ったりする。

寧音はそれを手で弾いたりして、特攻する。

「護といいアイツといい…バケモンだな。どうなってんだこの学校の生徒は…?」

 あまりにも強大な力を持つ人間ばっかりで自分の影が薄いんじゃないかと思ってくる。

「…強いですね。ならば……これで」

 寧音の手に高威力の霊気が集まってくる。

「む?超必殺技とやらか?」

「…ゲーム用語すっかり使いこなしちゃって…」

「そうですね。いわゆる超必殺技ですよ」

 寧音はノリノリだ。

(……あの眼鏡っ子…冗談じゃないぞ?なんだあの霊力…?あれが夜栄守の力なのか…)

「…くらえ!!我が夜栄守神天流奥義…魔神壊滅!!」

 手から強烈な霊気の塊が放たれた。

(む?これは…人間が使うような霊気じゃないのう…妖術か?)

リーチは短そう…だが、來魅は両腕をクロスさせガードする。

バチンッと大きな音を立てて來魅は旧校舎の方へ吹き飛ばされた。

まるで燃えたかのように火花を散らしながら。

「來魅!」

 來魅の方へ向かう。


「おい!來魅!大丈夫か?」

「おーいちちち…まったくやりおるなあの眼鏡娘…しかし残念な事に私の方は時間切れかのう」

 右手の数珠が大きく反応している。

元の封印状態に陥ったようだ。

「しかしなんちゅー封印術だ。霊力がすっからかんだ」

「…まだ生きてるとは…ならばこれで…」

 寧音はさらに攻撃仕掛けてくる。

大きな一撃が來魅を狙う。

しかし……。

「おっと、ここまで。この先は僕が相手してあげるよ」

「む?!邪魔をしやがるなです!」

「おぅ…口調が変な丁寧語になった…」

「邪魔をすると彼方さんごと倒す!!」

「おいおい…本気ですね」

 間を開けずにどんどん攻撃してくる。

迷いがない。

「…まったく…見境ないな…バーサーカーかよ…」

 なんとか逃げながら術を練る。

來魅も一緒になって逃げる。

「はっはっは、逃げる側も楽しいな」

「遊びじゃないんだぞ!ったく…」

 逃げながら御札を放っていく。

勿論、さっきと同じように弾かれていく。

何より凄いのが遠隔操作してる御札なのに、動きについていっている。

「目が後ろにあるっていうのはああいう事言うんだろうな」

「お前様も似たようなもんだったろ」

「知らん!」

 傍から見れば自分もあんな風に見えるのだろうか?

などと考えてる暇はなかった。

遠距離もバッチリのようで、霊撃弾を放ってくる。

「ああんもう!小賢しいし面倒っ!」

「お、なんか今の声色っぽかったぞ」

「……(こっちはこっちでうるさいし…)こうなったらね…」

「む?」

 來魅は琉嬉が左腕の数珠を外すのを見た。

そう、あの力を使うようだ。

「待ちなさい!」

「待つなって言われて待つ奴がいますか…って言いたいけど、こっちが待てって言いたいけどね」

「何をゴチャゴチャ言っとるんだ?」

「いーから、來魅は離れてて」

「うむ」

 さっきから來魅がツッコミ役。

そして大人しく琉嬉から離れていく。


「何をする気か知らんが…邪魔するなら容赦しないですよ!」

「いいや、容赦しないのはこっちだね」

 左手を寧音の方へ向け、そしてあの時と同じような「真霊気」を使った。

「…何をする気……え?」

「力は抑えておくよ」

 左手から巨大な光が解き放たれた。

「当たるわけがない!」

 そう言うと、急激に体を反転させて、波状の光を避ける。

「そう思いまして…こうだ!」

「なにっ?!」

 琉嬉は左手の向きを寧音を追いかけるようにして動かす。

すると「真霊気」もそれに伴い、寧音の方へ向かう。

「んなっ…なんでぇ~~~?!」

 案外あっさりと命中した。

寧音は何処かへぶっ飛んでいった。



「おーい、大丈夫か?」

「………あわわ、眼鏡、眼鏡知りませんか?私眼鏡ないと何も見えなくて…」

「やれやれ…ここにあるよ」

 近くに落ちてた眼鏡を拾って渡す。

辺りは滅茶苦茶になってる。

琉嬉も足元が弱々しい。

真霊気を使用した後の副作用みたいなもんで、体力霊力が一気に失われる。

「あ、ありがとうございます…」

「ねぇ、なんで眼鏡かけてるの…?かけないほうが可愛いよ?」

「…可愛い……くはありません!私は一族の中でも…地味だし…」

「ほーう、この大きな胸して…地味とはな!」

「ひゃうっ?!」

 來魅が後ろから寧音の胸を鷲掴みしてる。

「なーにしてるんだエロ妖怪!」

 ぽきゃっと軽く頭をグーで殴る。

「痛いのう…」

「ごめんよ。お前さんがあまりにも強くて、真霊気使っちゃった」

「なんなんですかその力…。しん…れいき?」

「お?知らんのか?私も食らった時は死んだかと思ったぞ。おっそろしい術よのう」

 ケラケラ笑う。

本当は笑いこっちゃじゃない技なのだが。

「…うぅ…私…負けたんですね?夜栄守家として…恥です」

 目にはうっすら涙が。

「あわわ、泣かないでよ…もう」

「なーにが恥だ。夜栄守の者よ。お主…人間でありながらこの私と対等れべるに戦えるのはそうおらんぞ?」

「そうそう。なんせ真霊気を使わせたのは…何人目だ?」

 琉嬉もフォローしようとしたができなかった。

「しかしですね…敗北したのは変わりない事実。うう、情けないです」

「あ、あのねぇ…」

 どうも真面目一直線。

そしてあの力づくの行動力。

けっこう滅茶苦茶だ。

そして一気に変わるテンション。

今なんて泣き崩れてる。

「女の涙とはこうも強いものか…」

「男のような発言だな琉嬉よ」

「うるせい」



 なんとか寧音も落ち着きを取り戻し、事情を説明する。

最初は聞き入れてくれなかったが、來魅の口からも説明してようやく納得させる。

生真面目さがこじれたような性格なようだ。

それに腕っ節も、ふかしぎ部のメンバーや今まで手合わせした生徒会のメンバーとも負けないくらい。

むしろ手加減して来なかったおかげで危うく大怪我ものだった。

「あの、じゃあこの妖怪は彼方さんの力で…」

「そうだね…」

「余計な事をしてくれるよの。お前様」

「…ね、念のためだよ。念のため」

「ふふん♪」

 分かってるの分かってないのか。

「大体だな、來魅。お前も泣いてたじゃないか。これからどうすればいいんだ~ってな」

「あ、あれは…ちょっとな…」

 來魅の顔が真っ赤になり、焦った表情する。

さすがに恥ずかしいようだ。


「…なんで僕らを…というか來魅を襲ったの?」

「いや…妙な妖怪の気配を感じたもので…そしたら來魅がいて…」

「てか、來魅の顔知ってたの?」

「それはもう、文献に残ってますから。似顔絵も」

「ほほぅ似顔絵のう。私も人気者だの」

「人気の意味の捉え方間違ってる」

 琉嬉と同じ、五大家のひとつの夜栄守家だ。

それくらい知っててもおかしくないだろう。

「んー、おかしいな。僕が感じた霊気は來魅じゃなかったのかな」

「どういう意味です?」

「あ、いや、強い霊気を感じたもんだからさ。こっち来てみたら來魅がいたんだけど…、

力封じてるんだから來魅の霊気なんて大きく感じないはずなんだけど」

「でも一時的なら全力出せるぞ?」

「常時霊力放出してる訳じゃないだろ?」

「ほむ。それもそうか」

「という事は…?」

 ひとつの結論に辿り着く。

それは……この場に大きな力を持つ者が他にいるという事だ。

「人間的な霊気じゃないんだよな~これが。多分妖怪」

「じゃあ他に誰かいるんですかね?」

 寧音は立ち上がって警戒モードに。

琉嬉と來魅も同じだ。

「しゃあないねぇ。放っておくのはやばそうだし」

「そうです。学校の風紀は乱してはいけません。例え外部だろうと」

 キリッと表情が変わる。

物凄く、テンションの入り方が特殊なようだ。

「ほうほう、楽しそうだの。私も付き合うぞ」

「裏風紀係、罰を決行します」

(…な、なんだよ裏風紀って…怖えー)

 なんだか分からないが、寧音が変わった子だというのが理解出来た。

そして、学校の敷地に紛れ込んだ妖怪が可哀想だなと、心の底で思った。

なんせ、五大家の二人と最強の妖狐の來魅が相手となるんだから。



 結局、それなりの強さを持つ妖怪が居たが、3人が対峙すると同時に逃げてしまった。

力の差が歴然し過ぎていたからだ。

せっかく午前中で終わりなのに帰り時間も遅くなってしまう。

琉嬉と來魅は無言の寧音を別れてその場から去る。

かなり凹んだ様子の寧音を見てなんだか少し悪い気がしていた。


 そして翌日。



 テスト四日目。

全てのテストが無事終わり、琉嬉の転校して初めてのテストが終わった。

前日思わぬ障害(?)があり、少し危ないと思われた。

だが結局はなんとか凌いだ。

夜栄守寧音―――。

紛れもなくあの強さは夜栄守家の力だろうと確信した。

來魅とも互角な格闘術。

おかしなくらい動ける身体能力。

そしてギャップある性格。

驚きの連続だった。

そしてテストが終わり、早速部室へ向かう。


「あぅあぅ…だめかもしんない~」

 護が頭を抱えながら呻いてる。

「琉嬉先輩はどうでした?」

「…そこそこかな。転校したてだし、そこは頑張らないと…」

 意外や意外に真面目発言。

学生としての身分なだけあってしっかりしている。

「みこっちゃんは?」

「僕もなんとか…」

「部室で勉強したかいあったのかもね~。よっしゃよっしゃ」

 シュシュシュッとシャドウボクシングでもやってるかのように拳を突き出すみゆ。

手応えがあったようだ。

「みゆは元気だね」

「元気だけが取り柄でっさ~」

「お前ほど陽気過ぎるヤツ男女合わせても見た事ないよ…」

 二年生チームは元気がなかった。


 テストが終わり元の日常に戻る。

琉嬉は部活を終え、足早に例のゲームショップへ向かう。

(今度から帰り道に加えよう)

 高ぶる気持ちを抑えきれずついつい走ってしまう。

そう、なんせ学校から近い位置になる。

さらに駅も近い。

一石二鳥だ。

大体週一で通おう。

毎日行くと楽しみが減ってしまう。

(……よし、着いた!)

 ガーッと自動扉が開く。

その音もなんだかテンションを上げる高揚剤だ。

「いらっしゃいませ~」

 店員らしき男性。

30代後半から40代くらいだろうか。

おじさん…と言える風貌ではあるが、その辺にいるおじさんよりは若い。

店主と思われる。

店舗の中は、ゲームがズラっと並んでいる。

漫画も少しあったり、攻略本も沢山ある。

今は出ていない古い機種のゲームソフトも沢山あるようだ。

なかなかのマニアックさ。

「……天国だ」

 早速奥へと進んでいく。

すると、見た事あるオレンジ色の制服が目に飛び込んだ。

鞍光高校の女子制服だ。

(ん?僕以外の女子生徒がいるのか?)

 少し気になり、失礼ながらも顔を見る。

するとどうだ。

見覚えのある銀色っぽいおかっぱ頭と眼鏡姿。

「な、なんで寧音がいるの…?」

「………なななな、な、彼方…琉嬉さん…?なんであなたが?」

「それはこっちの台詞です」

「………ああぁ……なんてこった」

「…?」


 ばったり、寧音と出会った。

偶然…と言いたい。

しかし理由を聞けば納得した。

それも、この前も同じ店前で会ったの理由もだ。

「わ、私は……こういうのが好きで…、その………いわゆる…オタクってやつ…で…ああぁ何言ってるんだろ私…」

 段々声が小さくなる。

顔を真っ赤にしてる姿がとても可愛い。

「…ゲーム好きなの?」

「はい…。ゲームやアニメが……」

「もしや…BLってやつも?」

 無言で頷く寧音。

顔が赤すぎてやばいくらいだ。

「へぇー、真面目な感じするのにねぇ。あ、ちなみに僕はゲームオンリー。人並み程度にはアニメとかは見るけどネ」

「………あの、あまり言わないで、ください!お願いします…」

 そういう彼女はあの時とはえらい違いの態度で小動物みたいだった。

手に持ってるソフトは乙女ゲーのようだ。

恋愛シミュレーション系が好きなようでもある。

「いいんじゃない?廃墟マニアよりは健全だと思うけど?」

 誰の事とかはその場では言わないが、おそらくみゆの事だろうと思われる。

「…でも彼方さん」

「あ、ダメ。僕の事は下の名前で呼んで。僕も「寧音」って呼ぶから」

「琉嬉さん…私は広く知りつくしたいのです。このサブカルチャーというのを…男性向きでも女性向きでも私は好きです」

「へぇ~……(人は見かけ性格に寄らずだな…)」

「あの………琉嬉さん。琉嬉さんって…アレですよね?」

「アレ?」

「アニメのキャラクターみたいに、可愛らしいです」

「へ?」

 赤面してた顔が次第に笑顔になる。

眼鏡がキラっと光ったように見えた。

その瞬間。

「お持ち帰りしたいですっ」

「おおぉいい」

 寧音は琉嬉に抱きついていた。

「ちょっと、こんな場所で抱きつかないでよ!じゃなくって、そもそも抱きつくな!苦しいぃ」

 護にも劣らないような、豊満なバストに挟まれる琉嬉。

男であれば夢のようなシチュエーションだが琉嬉は同じ女の子。

そこまで嬉しくない訳で。

「あ、ごめんなさい」

「えほっえほっ……、窒息死するかと思った…。女同士で巨乳に挟まれて死ぬのはごめんだ…」

「大丈夫…ですか?」

「なんとかね…。寧音は女同士でもいいのかよ…」

「私、可愛いのであれば、同性でも問題ないと思います!多分」

「……ようするに可愛いもの好きってヤツか…夜栄守寧音という人物がどういうのか理解出来たよ……」



「琉嬉さん小さくて可愛いですよね」

「ちっさい言うな」

「えー、なんでですか」

「……小さいと不憫なんだよ。いろいろと」

「そうなんですか?小さいと可愛らしいのに」

 随分と最初に会った時と態度が違う。

これが実際の寧音の姿なのだろう。

「私…琉嬉さんとは話が合いそうですし、昨日はどうもすみませんでした。これからもよろしくお願いしますね」

 ニコッと微笑んでくる。

その笑顔は今までに見せなかった。

銀髪がなびいてどこか幻想的で可愛らしい笑顔だった。

「……ふかしぎ部…入部してくれるなら考えてもいい」

「ふかしぎ部ですか…いいですよ。生徒会の仕事が忙しい時は参加出来ないかもしれませんが、隣ですもんね。それに…」

「それに?」

「琉嬉さんに会えるのなら勿論オッケーですっ」

「…なるほどね……」

 初めて生徒会のメンバーの中で承諾をもらえた。

(はあ~。なんで僕を好意的にみてくれる人は女が多いのかね…)

 それはそれで、どこか納得いかない琉嬉なのであった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ