scene6 日常へ
それから。
騒がしかった日々はひとまず終わりを迎え、学園には穏やかな日常が戻っていた。
昼休み。
教室の窓から差し込む柔らかな陽射しの中、相良はいつものように自分の席で本を読んでいた。
ページをめくる音だけが静かに響く。
そんな静寂を壊すように、佐々木が勢いよく近づいてきた。
「相良!本ばっか読んでねえで悪魔退治しに行こうぜ!」
相良は本から目を離さず、小さくため息をついた。
「嫌だよ」
「即答かよ!」
すると、後ろから金澤がひょいと顔を出した。
「そんなこと言って、最近悪魔食べてるって聞いてるわよ」
その言葉に佐々木の目が輝く。
「マジか!? やる気出てきてるじゃん!」
「そんなんじゃないよ」
相良はページをめくりながら淡々と答えた。
そこへ田中も会話に加わる。
「本当よ」
腕を組みながら呆れたように言う。
「相良君、その辺に浮遊しているような小物悪魔を食べてるだけで、全然やる気を感じないわ」
少し間を置き、真顔のまま続ける。
「そんなことじゃ、いざって時に私を守れないじゃない」
「だから守る気がないんだよ」
相良の返事は相変わらず素っ気ない。
金澤は首をかしげた。
「でも、なんで小物悪魔なんか食べてるのよ。」
「急に悪魔が美味しくなったか?」
佐々木まで真面目な顔で聞いてくる。
「そんなんじゃない」
相良は本を閉じた。
田中がじっと見つめる。
「じゃあ何よ」
教室が少しだけ静かになる。
相良は窓の外へ視線を向けた。
運動場では生徒たちが笑いながら走り回っている。
部活動の掛け声。
鳥の鳴き声。
どこにでもある、ごく普通の学校の風景。
その景色を見ながら、相良は静かに言った。
「平和のためだよ」
みんなが少し驚いたように相良を見る。
「学校で小さな不幸がなくなって、平和に過ごしたい」
ゆっくりと言葉を続ける。
「特に何も起きない。波風も立たない。ただ普通の学校生活……」
その言葉には、これまで数え切れないほど悪魔騒動に巻き込まれてきた少年の、本心が込められていた。
「それが俺の望みだから」
そう言って、相良は穏やかに笑った。
以前のような諦めの笑みではない。
少しだけ前を向いた、優しい笑顔だった。
田中はその笑顔を見つめ、小さく肩をすくめる。
「つまらない人ね」
相変わらず辛辣な言葉。
けれどその口元は、どこか楽しそうに緩んでいた。
窓から吹き込む風が、本のページをめくった。
悪魔はまだ、この世界のどこかにいる。
新たな事件が起こるかもしれない。
それでも今日だけは。
この何気ない日常を守れたことが、相良には何よりもうれしかった。
静かな教室に、仲間たちの笑い声が響く。
その当たり前の時間こそが、相良の一番欲しかった平和だった。




