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(45)災厄を屠る剣

 災厄を屠る剣。

 サイは、自身の額から流れ出た血で濡れるその柄を、指の骨が白く浮き出るほど力強く握りしめていた。頭蓋を割った激痛も、周囲を圧し潰す桁外れの重圧も、彼から前へ進む意志を奪うことはできない。


 真っ直ぐに見据えた視線の先には、エリンに押さえられた暴竜魔王と、その周囲で彼女の放つ紅蓮の業火の中でもがく、(おぞま)しい黒い霧だけがあった。


「こいつで、黒い霧を消す」


 掠れながらも、地の底から響くような静かな声。

 その確かな殺意に呼応するように、簡素な刀身が微かに脈打つ。

 一歩を踏み出そうと脚に力を込めた――そのとき。


「……待って、サイ」


 荒れ狂う風の音に混じって、小さな声が届いた。セラだ。

 サイが振り返るより早く、凛とした魔法の詠唱が響く。


「……風歩軽翔(エアリアル・ステップ)!」


 一陣の強風が、サイの足元に力強く巻き起こる。


「セラ! 戻れたのか!?」


「……うん。戻ったのは、たった今。でも……間に合ったみたいだね。後は、お願い」


 精神を限界まですり減らしたであろう、疲労困憊の声。だが、そこには彼にすべてを託す確かな信頼が宿っていた。

 その直後、もう一つの声が重なる。


「サイ……お願い……!」


 死の重圧の中で結界を維持し続け、耳から血を流して倒れ伏すリディアの、掠れた、けれど祈るような叫び。


「……ああ、任せろ」


 満身創痍の仲間たちの姿を視界の端に焼き付け、サイは短く答えた。

 多くを語る余裕はない。だが、血に塗れたその背中と、迷いなく剣を構えた立ち姿が、どんな誓いの言葉よりも確実な希望を放っていた。


 サイは力強く、虚空へと足を踏み出す。

 直後、セラの風が弾かれたように彼の身体を空高く持ち上げた。

 暴竜魔王の放つ絶望的な重圧を蹴り破り、重力から解き放たれていく。

 急激に高くなる視界。サイは業火の底で黒い霧を吹き上げる巨大な魔王の頭上へと、一直線に跳躍した。


 暴竜魔王の全身を覆う黒い霧が生物のようにうねり、狩人を威嚇するように巨大な鎌首をもたげる。

 だが――その凶悪な(もや)は、サイの構える刃に触れた端から凄まじい勢いで削り取られていった。剣身から放たれる圧倒的な浄化の波動に巻き込まれ、分厚い呪いの塊が音を立てて強制的に崩壊していく。


「無駄だ」


 サイは剣の切っ先を、暴竜魔王へと真っ直ぐに据える。


 ――ブオォォォッ!!


 暴竜魔王の巨体から、底なしの泥水のような黒い霧が爆発的に噴き出した。今度は一本ではない。幾重にも重なった呪いの濁流が、巨大な多頭の蛇となって空を覆い尽くし、サイを丸呑みにしようと巨大な顎を開く。


「全部出てこい。――残さず断ち切る」


 凄まじい風圧を受けながらさらに高度を上げるサイを、無数の黒い蛇が空気を引き裂きながら執拗に追いすがってくる。


 そのとき――暴竜魔王の放った余波で、分厚く閉ざされていた王都の暗雲が大きく割れた。

 雲の切れ間から、眩い黄金の光が真っ直ぐに差し込んでくる。かつて『天より降る剣』が現れたときの無機質で冷徹な白銀の光とは全く異なる、世界を暖かく照らす生命の黄金色だった。


 三百年もの間、どれだけ足掻いても人類は『災厄』から逃れることができなかった。

 だが今、この黄金の空の下、理不尽な呪いを終わらせる者が確かにその高みへと手を伸ばしている。


 サイは上空で身体を鋭く反転させた。

 眼前には世界を喰らわんとする黒い蛇の巨大な顎が迫っている。彼はその深淵へ向けて、真っ直ぐに剣先を突き下ろした。


「――消えろ、『災厄』!」


 一瞬の躊躇もなく、サイは自ら死地へと飛び込む。

 剣を構えたまま重力に身を任せ、迫り来る蛇の頭部から胴体に至るまでを真っ二つに引き裂きながら、一直線に地上へと落下していく。

 呪いの濁流を両断して進むその切っ先の先に狙い定めるのは、地を這う暴竜魔王。

 ――その額に生える、忌まわしき角。


 ズバァァァンッ!!


 凄まじい衝撃音と共に、サイの全体重と意志を乗せた刃が、暴竜魔王の角を根元から完全に叩き割った。


 直後、主と核を同時に失った黒い霧が、断末魔のような叫びを上げて狂ったように暴れ出す。

 だが、災厄を屠る剣がそれを許さない。ひときわ大きく脈打った呪いの塊は、次の瞬間、内側から爆発するように四散し、眩い光に呑み込まれて跡形もなく消滅した。


 業火と剣に貫かれた暴竜魔王の巨体から、完全にすべての力が抜け落ちる。

 瓦礫の中に横たわったまま、ただの物言わぬ巨大な骸へと還り、ズズン……と、大地を微かに揺らして完全に沈黙した。


 今度こそ完全に機能を停止したその身体は、もう二度とピクリとも動くことはなかった。


 その直後、暴竜の角を叩き割ったサイの剣から、まばゆい白銀の光が溢れ出した。

 役目を終えたその清廉な霊力は、幾千もの光の粒子となって王都の空を舞い、吸い込まれるようにしてエリンの胸元――あの白い鱗へと真っ直ぐに還っていく。


(……もしかして……『災厄』に勝ったの……?)


 自身の胸の奥に、あたたかな霊力が満ちていくのを確かに感じながら、エリンは呆然と、たった今まですさまじい力で抗っていたはずの、動かない巨体を見つめていた。


 地鳴りも、風鳴りも止んでいる。王都を蹂躙していた嵐は完全に吹き払われ、空に立ちこめていた黒い煙も、陽光に焼かれるように静かに晴れていく。世界に、耳が痛くなるほどの静寂が戻っていた。


《……これで、ひとまずの危機は回避したかのう》


 胸の奥で、声が響く。あたたかく、少しだけ寂しげなシロの声だった。


《おい、クロよ。いつまでエリンの身体にいるつもりじゃ。もう、元の姿に戻してもよかろう》


《……まさか、シロよ。お前は、初めから“こうなる”と分かっていて、我を吸ったのか?》


《はて? 何のことじゃ?》


 間の抜けた返事だった。けれど、妙に優しい。


《ほれほれ。あのサイとかいう小僧の角でも、あそこにいる依り代(レイ)でも、お主の行き先はいくらでもあるじゃろうて。おすすめは、ほれ、“あそこ”じゃ》


《……はぁ。我ら竜神の並列思考が束になっても、白き竜どころか、その鱗ひとつにも敵わん、ということか……》


《はよ行け》


《……まあよい。世話になったな、エリンよ。そして――逆鱗(エリン)もな》


(うん……ありがとう、クロ)

(クロとシロがいたから、怖くなかった……ただ、それだけで、本当に心強かった)


《いずれ、また会おう》


 その気配が、すっと遠ざかっていく。

 同時に、エリンの身体を覆っていた濃密な黒が、静かに剥がれ落ちていく。背中の巨大な翼が霧散し、膨大な魔力に満ちていた身体に、人間の少女としての確かな体温と、鉛のような疲労感がドッと押し寄せてきた。


 瓦礫の上に、ひとりの少女が立ち尽くしている。


「……エリン」


 声がした。振り向くと、そこにいたのは、血と泥にまみれ、今にも泣き出しそうな顔をした青年。


「サイ……!」


 言葉を交わす猶予すら惜しかった。

 次の瞬間、エリンとサイは同時に地面を蹴り、お互いのもとへ走り出していた。


「サイ! サイ!」


「エリン!」


 勢いのまま、骨が軋むほど強く、ぶつかり合うように抱きしめ合う。互いの確かな体温と、痛いほどの腕の力が、何よりも雄弁に生きていることを証明していた。

 エリンの大きな瞳から、堰を切ったように大粒の涙がこぼれ落ちる。だが、再会の喜びに浸っている時間はなかった。


「ヴェラが…!」


「ああ、ヴェラの元に行こう」


 * * *


 ――暗い。そこは、泥のように重く、冷たい闇の底だった。

 足元には何もなく、自分が立っているのか、沈んでいるのかさえ分からない。

 ただ、どこまでも続く黒が、視界を完全に塗りつぶしていた。


「ここは……」


 呟いた声は反響することなく、濡れた綿に吸われるように消えていく。

 そのとき、闇の奥から、低く、湿った声が響いた。


「やあ、皇女殿下」


 ヴェラは弾かれたように振り返る。そこには、黒い霧をまとった少年が立っていた。

 顔は見えない。けれど、その小さな輪郭から放たれる呪いのような憎悪だけが、肌を刺すように伝わってくる。


「あなたは……誰?」


「災厄の子だよ。お前ら皇族が、俺を切り刻むように命令したんだろう?」


「……!」


 呼吸が止まる。知らないはずの記憶が、鋭い刃となって脳髄を直接かき回した。

 むせ返るような血の匂い。断末魔。そして、幼い少年が冷たい鎧の兵士たちに引きずられていく光景。


「僕の復讐はどうだった? 皇都どころか、帝国全土が壊滅したとき、どんな気持ちだった?」


「………」


「君、僕に国を滅ぼされたというのに、まだのうのうと生きているんだね」


 少年が一歩近づく。その足元から、どろりとした闇が滲み出し、ヴェラの足首に冷たく絡みつく。


「わたくしは……」


 否定しようとした言葉は、別の“声”に無惨に掻き消された。

 闇の底から、無数の囁きが湧き上がってくる。それは、かつて、ある女が――“姫”として生きた時間の、残酷な残響。


 隣国の貴族たちのささやき声が、耳元でねっとりと這い回る。


『あれが、フェルゼン帝国の生き残りか』

『何とも、みすぼらしい姫君じゃないか。あんなものをあてがわれる王太子も気の毒に』

『フェルゼン帝国は既に崩壊。この婚姻に何の意味があるのやら』

『血筋だけは確かだ。世継ぎさえ生んでくれれば、ということなんだろう』


 場面が強制的に切り替わる。冷たい石造りの回廊。

 王宮の使用人たちの嘲笑が、針のように突き刺さる。


『ついてないわ。あんな女のメイドなんて』

『なんて陰気くさいのかしら。いつまでもおどおどして、ちっとも慣れやしない』

『災厄の子を生んだ国から来たんでしょう? こっちまで呪いが移らないかしら。怖いわ』

『この城から追い出してやりましょうよ。きっと王太子もお喜びになるわ』


 そして――怒号。

 王侯貴族の冷酷な声が、頭を直接殴りつけるように響く。


『まさか、お前が、災厄の子を切り刻めと命令していたとはな』

『メイドたちにも酷い虐めを行っていたそうだな。とても高貴な身分の者の行いとは思えん』

『お前がいることでこの国に次の災厄の子が生まれるのではと、全国民が心配しているのだ』

『お前との婚姻は破棄だ。亡き前国王が勝手に決めたこと』

『王国を出ていくがいい。王子と会うことは一生許さん。母とも名乗るな』


(違う……わたくしは命令なんて……虐めなんて……)

(濡れ衣だと言っても、誰も信じてくれなかった……!)


 記憶の暴力は止まらない。

 最後に来たのは、腐臭と薬品の混じった、あの地下室の記憶。

 緑のローブを着た怪しい錬金術師の声が、鼓膜を這いずり回る。


『帝国の貴族を使った実験は無意味だったが、やはり皇族。お前は器にふさわしい』

『おっと、気を失うんじゃあない。霊力を取り込むまで眠ることは許さん』

『痛い? 苦しい? そんな些細なことで、私の崇高な実験の邪魔をするんじゃない』

『役立たずが…少しも霊力に馴染めぬとは。まあいい、お前は次のホムンクルス実験の素材にでも使ってやる。光栄に思え』


「あ……あぁ……」


 ヴェラは耳を塞ぎ、その場にうずくまった。

 生きたまま身体を溶かされる感覚。自我が砕かれる恐怖。絶望の中で産み落とした、顔も見られなかった我が子。

 そのすべてが、今の自分を構成する“核”なのだと容赦なく突きつけられる。


 災厄の子の声が、冷たく降り注ぐ。


「それで? 少しは亡き帝国の役に立ったのかい? 災厄に呪われた世界の役に立ったのかい?」


 ヴェラは震えた。

 “姫”と呼ばれた女の人生は、無力で、悲惨で、理不尽に奪われるだけで、誰も救えなかった。


 けれど――。


「わたくしは……」


 ヴェラは、ゆっくりと顔を上げた。

 震える膝に力を込め、泥のような闇を踏みしめて立ち上がる。耳を塞いでいた手を離し、真っ直ぐに少年を見据えた。

 そして、はっきりと頭を振る。


「わたくしは、ヴェラ。皇女殿下なんて、知らないわ」


 少年の眉がピクリと動く。


「責任を逃れるというのか。僕をあんな目にあわせて……国民をあんな目にあわせておいて……!」


「逃げるつもりはないわ。わたくしが……わたくしたちが、二度と誰も『災厄の子』に選ばれない世界にしてみせる」


 迷いのない声だった。

 彼女の背中を支えているのは、かつての悲惨な記憶ではない。サイやエリンたちと共に泥臭く歩んできた、確かな仲間の体温だった。


「ははっ! そんなこと、本当にできると思っているのかよ?」


 少年が怒りと共に嘲笑う。その背後で、黒い霧が山のように膨れ上がり、ヴェラを飲み込もうと巨大な波となって襲いかかってきた。

 だが――ヴェラは一歩も引かなかった。


「見て。ほら」


 彼女が指差した、真っ暗な天空。

 直後、鼓膜を破るような凄まじい轟音と共に、絶対的だった闇の世界に巨大な亀裂が走った。

 そこから暴力的なまでに眩い光が差し込み、少年の身体を強烈に照らし出す。

 それは、外の世界で――サイの放った“災厄を屠る剣”が、魔王の角を根元から粉砕した圧倒的な一撃の余波だった。


 強烈な光の奔流に呑まれ、災厄の子が纏う黒い霧が、悲鳴を上げる間もなく跡形もなく消し飛んでいく。


「信じて。わたくしたちの世界は、きっと救われるわ」


「……そんなの!」


 光に飲まれる直前、少年が何かを叫ぼうとした、その時だった。


《ならば、見届けるがいい》


 尊大で、しかし不思議と聞き馴染みのある声が、崩壊ゆく闇の頭上から響き渡った。


「……!」


「誰? ……あなたは……」


 光の亀裂から、高密度の黒い霊力が渦を巻きながら降り注ぎ、ひとつの形を成していく。

 それは、エリンの中にいたはずの“声”の主だった。


《我の名は“クロ”》

《災厄の子よ。この者たちの成すことを、ここで見届けよ》


「何をする気だ……?」


 少年が警戒して身構える。

 クロと名乗った存在はフンと鼻を鳴らし、少年の背後に力なく浮かぶ“もうひとつの影”を真っ直ぐに見据えた。

 それは――かつて世界を救いながらも女神の嘘に裏切られ、長きにわたり冷たい封印の塔で死ぬことすら許されなかった、哀れな勇者の魂だった。


《ちょうど、この身体に巣食っていたお前の霊力(のろい)が消滅したところだ》

《そこの“勇者”よ。お前の身体を借りるぞ。拒否権はないがな》


「ま、待て……!」


 少年が止めようとするが、クロは意に介さない。

 魔王に心身を凌辱され尽くし、ただの抜け殻と化していた勇者の魂が、泥のように揺らめく。

 彼にはもう、戦う意志も、抵抗する気力すらも残されてはいなかった。


「……好きにするがいい……」


 それは、長すぎる責め苦からの解放を喜ぶような、安堵の吐息だった。

 クロの黒い霊力が、勇者の影へと一気に吸い込まれていく。

 それと同時に、この精神世界――暴竜魔王の領域であった闇が、音を立てて急速に崩壊を始めた。


《勇者よ。お前も、そこで見ていろ》


 クロは消えゆく勇者の魂に向けて、短くそう告げた。

 圧倒的な存在の介入に、災厄の子――少年は、もはや何も言い返すことができなかった。

 ただ、光に焼かれて消えゆく霧の中で、呆然と立ち尽くすのみ。


「……」


 ヴェラの視界が、真っ白に染まり始める。

 肉体が、凄まじい痛覚と共に現実に引き戻されていく。

 骨の軋み、焼けつくような熱、そして――誰かの、しゃくり上げるような泣き声。


《さぁ、ヴェラよ。そろそろ目を覚ますがいい》


 クロの声が、優しく背中を押した。


《エリンが、待っている》


 その名を聞いた瞬間、ヴェラの心臓が大きく跳ねた。


「……! エリンが!?」


《エリンに、よろしくな》


 その言葉を最後に、ヴェラの意識は眩い光の奔流へと吸い上げられた。


 * * *


「……っ、あ……」


 まぶたが、鉛のように重い。

 全身の骨が砕けたように痛み、傷口が焼けつくように熱い。

 けれど、それ以上に――ひどく、あたたかい。


 誰かが、わたくしを力強く抱きしめてくれている。

 大粒の涙で濡れた柔らかな頬が、わたくしの泥だらけの頬に押し当てられている。

 その感触に、匂いに、魂の奥底に刻まれた記憶が激しく揺さぶられる。

 ずっと、ずっと、会いたかった。


「……ヴェラ……ヴェラぁ……!」


 しゃくり上げるような、嗚咽交じりの声。

 ああ、間違いない。

 この不器用で真っ直ぐな声を聞くために、わたくしは死の淵から戻ってきたのだ。


 ヴェラは、重いまぶたをゆっくりと持ち上げた。

 ぼやけた視界の先に、鮮やかな色彩が飛び込んでくる。

 金色の髪。泣き腫らした大きな瞳。そして、誰よりも愛おしい笑顔。


「……エリン……」


 血の味がする掠れた声で名を呼ぶと、止まっていた世界が鮮やかに色を取り戻した。

 焦げた瓦礫の山。どこまでも高く晴れ渡る空。そして――


「ヴェラ!! ヴェラぁぁぁ!!」


 エリンが、ヴェラの胸に顔を埋めて、小さな子供のように声を上げて泣きじゃくった。

 その震える背中を、ボロボロになったサイが優しく、しっかりと支えている。

 小さな精霊たちが、祝福するように二人の周りを飛び回り、キラキラと光の粉をまき散らしている。


 ヴェラは、動かないはずの腕を――精霊たちが必死に繋ぎ止めてくれた土の義肢を、そっと持ち上げた。

 そして、泣きじゃくるエリンの頭を、優しく、何度も撫でた。


「……おかえり、エリン」


 錬金術師に作られたホムンクルスの身体。

 けれど、胸に抱きとめたこの重みと、伝わってくる痛いほどの熱は、紛れもなく“本物”だった。


 完全に崩壊した王都の片隅で、わたくしたちはようやく――

 三人揃って、本当の再会を果たしたのだった。

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