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第1章①野球も勉強もダメだった


白球がカキーンという金属音とともに青空に消えていった。

白いユニフォームの新鮮さが薄く茶色を帯びて消えていった。

白々しい振ってませんアピールをした球児はベンチに消えていった。


 その光景をテレビで見ながら、少年はのぼせた体を冷やしていた。ちょうど高校野球甲子園大会を旅館の一室で見ている少年はだらけきっていた。白を基調に青い線が彩られている浴衣は少しはだけており、それを抑えようとする紺色の帯も不器用な団子結びでチリチリになっていた。少年の頭は2つ折りになった座布団の上に水分を垂らし、裸足から出る湯気との水分量対決は圧倒していた。その横では、緑の畳が10畳ある中、中央に四角い面の木のちゃぶ台が鎮座して、その上には急須と湯呑と数枚のパンフレットが整っていた。冷房のそよ風が少年の乾ききっていない坊主頭から少し伸びた髪の毛の先を小さく揺らしていた。

「お前、もう野球をしないのか?」

白髪まじりの角刈りでシワもある中年男性がきちんと浴衣を着ながら、なんとなくを装いながら聞いた。

「もうやらないよ、父さん。6年生が引退したけど、4年生が代わりにスタメンに入ったから、レギュラー無理だもん」

少年は打ち上げらマグロのようにほんの少しだけ体を動かして答えた。喋るために体が膨らんだだけではある。

「でも、野球が楽しいとか、友達と遊ぶのが楽しいとかはないのか?」

「そんなのないよ。全く上手くならないし周りより下手っぴだから面白くないし、周りと合わないし友達なんかいないし、野球やってて楽しいことなんか1つもないよ」

坊主頭から少し伸びた髪の毛がへたれているのを見て、父親は頭をへたれていた。

「お前がそう言うのなら父さんは何も言わない。しかし、何かやりたいことを見つけろよ」

「んー」

馬耳東風に聞き流す息子を見て、父親はテレビの中の白球を追いかけた。テレビの中では高校球児たちは汗を流しユニフォームに甲子園の土を持ち返っていた。そのひたむきな高校生を前に、上を向いて寝そべっている息子を父親は見失うふりをした。

テレビから熱が出ていた。しかし、それは冷房の涼しさから比べると取るに足らないくらいだった。

「そういえば、勉強のほうはどうだ?」

父親は急に喉の筋肉を熱くした。

「んー。ぼちぼち」

息子は相変わらず冷めた対応。

息子が持ってきたカバンの中には教科書や筆箱などの勉強道具が入っていたが、それを取り出した気配はない。

父親の頭の中では、旅行先でも右手小指を黒く汚しながら勉強していた息子の光景が蘇っていた。せっせと問題を解く小さな息子の光景を。今の息子と全く違う光景を細めた目の先に映していた。

「でも、お前、テストでいつもいい点を取っているじゃないか?中学とか、どっか行きたいところないのか?地元の公立じゃなくて」

「いやー、そこまで勉強できるわけじゃないよ。クラスの人で毎回100点とってくる人がいるし、んー、ぼりぼちでいいよー」

ゆるーいリラックスした空間が旅館の一室に用意されていた。天井から差し込む白い光は2人を反対方向の影に分けていった。

音はテレビだけからする。

「……卓球でもするか?」

父親の提案に息子はテレビから目を離した。相変わらず死んだ猫のような目をしている息子が、だるそうに唇の下だけを開けた。

「なんで?」

「せっかくの旅館やし、温泉といったら卓球やろ」

父親が無理して楽しませようと誘う姿勢を、息子はなんとも思っていなかった。親の心子知らずという光景が広がっていた。

「んー。いいよ」

「じゃあ、行こっか」

父親は鼻を荒らげて手で太ももを押して立ち上がった。

息子は息一つつかずに腹筋だけを波立たせて起き上がった。



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