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安心院さん

納豆と卵でご飯を掻き込み、

一人で将棋を指す。


ここまではいつもの日課である。


しかし、

今日は

頭を抱えることはない。


最後のキーワード、

「安心院さん。」


これは、

これだけは、

すぐに見当がついた。


彼女が通院するときに

仲良くなった安心院あじむさんだ。


入院中は同室になり、


彼女と安心院さん、

そして、

安心院さんのお姉さんの

3人で良く話をしていた。


彼女の様態が急変してから、

お見舞いにはいっていなかった。

そして、

彼女が亡くなってから、

その病院にすら行っていない。


久し振りに顔を出してみるか。


なんとなく、

腰が重く感じたが、


久し振りに、

お世話になった看護師さんや

スタッフの皆さんに会ってみたかった。


そして、

安心院さんと彼女の思い出話をしてみたかった。


彼女を思ってくれる人の一人が、

安心院さんだから。



私は彼女のいた大きな病院に行くことにした。


大きな待合室を抜け、

懐かしい入院患者のための病棟へと向かう。


とても、大きな病院なので待合室には人がたくさんいる。

小さな街なので、

ここが一番活気のある場所というのが、

悲しくなる。


苦笑いしながら、

病棟へと急ぐ。


一年前だから、

おそらく、

安心院さんもいないだろう。

でも、

連絡をもし取ってもらえたら、

彼女の話ができる。



私が彼女の話が出来る共通の友人は

安心院さんくらいだ。

看護師さんたちも入るのか。


そして、

ここが最後の場所だ。


きっとわかる。

あの、虹の書かれたメモの意味が。

彼女の生きた証が。

何故、彼女は私の元に戻ってきたのかが。


不思議と心を弾ませながら、

看護師さんのいる、

ナースステーションに顔を出した。



しかし、

私の考えは甘かった。



顔馴染みの看護師さんから聞いた。



彼女が亡くなってからほどなく、

安心院さんも亡くなっていたということを。


膵臓の病気だそうで、

彼女と同じ病室になったときには、

余命いくばくだったそうだ。


あんなに、

あんなに彼女と楽しそうに話していたのに・・・

彼女と同じように、

しししと笑っていたのに。



私は

どうしていいかわからず、

そのまま家に帰ってきた。


車を運転していたはずなのに、

いつの間にか家に帰りついていた。


騒がしい病院の待合室に比べると、

我が家は本当に静かに感じる。


静かな家のなか、

私は今までまわった場所を

ひとり思い出していた。



石橋。

唐揚げ屋。

結衣せんせいのいる病院。

彼女と安心院さんがいた病院。


そして、

彼女と夜に会い続けたけど公園。



考えて、

考えて考えて、


そして、

気がついた。


いや、

最初から気づいていたのかもしれない。



回ったところで、

何になるのかということに。



私には彼女の生きた証とやらを

見付けることはできなかった。


そして、

どうせ、

彼女は戻ってこない。


ツバメのように、

私のいる世界に戻ってくることは

2度とないのだ。


私はこの世界でたった一人なのだ。

彼女のいない地獄の暗闇から、

抜け出す手段はなに一つないのだ。

私を照らしてくれる月などないのだ。



そこまで書いて、

私はペンとノートを

机から弾き飛ばした。

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