天然サイダー。
タクミ「ナツミさん気をつけて下さいね。このあたりマムシもいますから・・・」
ナツミ「え~~~ちょっとぉ~!」
僕は店から50メートル程、下ったあたりから延びている夏草が生い茂る小道を歩ける程度に鎌で切り開きながら進む。
安心して暮らしていたオンブバッタが慌ててジャンプして僕の顔にぶつかる。踏みつけられたアリ達も一斉に緊急事態だと言わんばかりに慌てふためいた。
このまえ来てからまだ2週間しか経って無いのにあっという間に草に覆われちゃった。
僕と神さんしか知らない秘密の場所がぽっかり口を開けている。
ナツミ「何これー!!洞窟!?」
タクミ「これ鍾乳洞なんです。実は僕が3年前に発見した令和鍾乳洞って言う鍾乳洞なんです。」
ナツミ「令和鍾乳洞?なんか、だっさい名前・・・」
タクミ「令和に入ってから発見されたから神さんと僕がそう呼んでいるだけですけど・・・」
ナツミ「誰にも言ってないの?大発見じゃない!!」
タクミ「中に凄い秘密があるから誰にも言いたくないんです。」
高さ120センチ、幅90センチ、ほどの入口もだいぶ雑草に埋もれている。
入れるように鎌で草を刈り暗闇に突入する。
ナツミ「お化けとか居ないよね…?」
タクミ「今、電気つけますね!」
僕は外に設置してある簡易式ソーラーパネルから線を引き、自作したLEDライトのスイッチを入れた。
鍾乳洞の天井に配列させているLEDライトが一斉に点灯!!
ナツミ「うわっ中は広い!!凄い涼しいー!!」
タクミ「ここは夏でも気温10度位なんです。」
狭い入口からは想像できないけど3mも進めば幅2メートル高さ3メートル奥行30メートルの空間が広がっている。
天井から垂れ下がる鍾乳石。
したたり落ちる滴。
僕の夏の隠れ家だ。
時折、細くなる部分だけ身体をよじって進むと突き当りに直径150cmほどの泉がある。
澄み切った水を蓄えた泉はどこまでも地中深くに達している。
ナツミ「うわ~~!!なんか初めは怖かったけど・・・神秘的だね!」
ナツミ「凄い!!この泉、青く光ってるね!!」
僕は泉の脇にある天然に出来た棚のような窪みから並べてあるワンカップの空瓶を掴み青く透き通った水をすくった。
さらに棚からブリキの茶筒の中に入っているスティックシュガーを1包開けて、アイスキャンディーの棒でくるくるかき混ぜた。
タクミ「はい!ナツさん!特製天然水サイダーです。」
ナツミ「えっ!何これ砂糖水でしょ!!」
タクミ「飲んでみれば分かります。」
恐る恐るナツミさんは口に含んだ。
ナツミ「シュワシュワー!!なんでー!これ本当にサイダーじゃん!?」
タクミ「これ炭酸泉なんです。日本各地に少数存在するらしいんですけど・・・・凄く珍しいんです。」
僕は自分のサイダーも作って誇らしげな顔をしながらゴクゴク飲んだ・・・・。
渇いた口をシュワシュワの冷却水が通過する。
バイクで言うなら水冷だ。
暑い暑い解体小屋での作業の疲れも一気に吹き飛ぶ美味しさだ。
火照った身体の外からは、鍾乳洞の冷気が空冷する。
身体の外側からも、内側からも、一気にクールダウンする。
タクミ「身体がオーバーヒート寸前だったから生き返った~~!!」
ナツミ「素敵ー!!サイダーが飲み放題だよぉー!!」
ナツミ「今度は自分で作ってみるぅ~~~!!」
僕たちは2杯目のサイダーを飲み干して余りにも涼しくて気持ちがいいその場所からもう動きたくなかった。
2人とも何も話さず、炭酸泉の泡が静かにはじける音だけが鍾乳洞に響いていた。
・・・・・・。
ナツミ「タクちゃんてさ・・・逞しいよね。何でも利用してこんなに山奥で頑張って・・・ナツね都会で頑張ってたんだけど逃げて来た。今の忙しい生活がね嫌になっちゃったんだ~~。」
・・・・。
僕は中学を卒業してからずっとここにいる。
もう4年間も。
そう言えば今の生活がどうこうとか・・・・将来がどうこう・・・とか考える余裕すら無かった。
生まれた時から田舎町で育ちさらに4年間はこの生活だ。
都会に行ったことも無いから・・・・。
ナツさんが行ってる意味も良く解らないんだけど。
なんて言ってあげようか・・・。
タクミ「ナツさん頑張ろっ!!」
我ながら気の利かない事しか言えなかった。
何に対してどう頑張るのか僕だってわからないからずっとここにいるのに・・・無責任なこと言っちゃった。
ナツさんが僕の一言になぜか目がうるうるしている。
ナツミ「ナツは・・・・・・ナツは本当のナツは都会で頑張って来たナツじゃなくて・・・・ぐすっ」
ナツミ「まだお母さんが生きていた頃・・・いつもスーパー行くにも後ろをくっついて歩いてた泣き虫のナツで・・・ぐすっ・・。」
ナツミ「お父さんは生まれた時から居なくて・・・・お母さんと二人で暮らしてて・・・グスっお母さんが作ってくれたオムライスが大好きでね…」
ナツミ「お母さんがね・・・小学6年生の時に・・・突然交通事故で亡くなって・・・」
ナツミ「ナツは身寄りが居なかったから施設に入ってね・・・・。中学になったらみんなより身長が高くて痩せてたからヒョロヒョロガイコツって言われて・・・・」
どうしよ・・・。涙・涙の身の上話が始まっちゃった。
タクミ「ヒョロヒョロガイコツって言われたけど今はこんなに美しく育ったって事はえっと・・・あの・・・」
バシっ!!
痛てっ!
叩かれた。
ナツミ「まだ・・・ぐすぅ~話聞いてよ~~!!」
ハイ・・・スミマセン。
ナツミ「中学校卒業と同時に喫茶店でバイトしながら一人暮らししてて・・・そこのお店のオムライスがお母さんのオムライスにそっくりだったから・・・・ナツもお母さんみたいなオムライスが作りたくて頑張ってたら・・・・常連客だった今の会社の社長にうちに来ないかって言われて」
ナツミ「やった事が無い仕事だったけどね・・・順調に仕事は進んでいっぱいお金もらえた。笑顔で仕事してれば周りの皆がちやほやしてくれて・・・寝る暇も無いぐらい」
ナツミ「でもね・・・。街を颯爽と走り抜けるバイクを見てふとバイクの免許を取ろうって思ったの」
ナツミ「仕事の空いた時に少しずつ頑張ってさ・・・。やっと免許が取れたの」
ナツミ「ふと我に帰ったの。たまたま乗ったバイクで風を切って走った瞬間に!!初めてオムライス以外でナツが夢中になれるものを見つけたって!!今こそ本当のナツに戻る時だって!!本当のナツはどこに行っちゃったんだろうって!!」
・・・・。
タクミ「それでナツさんここまで走って来たらガス欠で止まっちゃったんですね・・・」
ナツミ「…。うん…。そういう事だよーーーー!!楽しく生きる!!」
泣き虫な事は薄っすら分かってたけどもう笑ってる。
復活が早い・・・。
ナツミ「いっぱい喋ったらスッキリした!!タクちゃんだとなんか話やすい!!」
ナツミ「むしろ寒くなってきたねえ~~」
ナツさんが猫のように背伸びした。
ただでさピチピチなシャツが身体に張り付いて綺麗な形の胸が強調される。
ナツミ「いま、エッチな目で胸見たでしょ!!」
タクミ「見てないです!!」
ナツミ「今すぐ白状しなさい!!」
タクミ「見ました・・・。」
ナツミ「それでよろしい!!」
ナツミ「戻るわよ!!作業の続きよ!!」




