序章 開通セレモニーの招待状
夕暮れのオフィスに、重厚な封筒が届けられた。分厚いクリーム色の紙質に、金の箔押しで「三神建設株式会社」と印字されている。差出人は三神浩太郎社長本人。その名を見た瞬間、アイゼンハワードの眉がわずかに動いた。
前回の「沖の原島殺人事件」で依頼を受け、複雑なリゾードホテル利権と血塗られた陰謀に触れた記憶がまだ生々しく残っていたからだ。
封を切ると、中には優美な文面が現れた。
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【招待状】
拝啓 秋涼の候、益々ご健勝のこととお慶び申し上げます。
この度、弊社 三神建設は、国の威信をかけた国家的大事業 ――
リニア新幹線 開通セレモニー におきまして、主要な建設部門を担当いたしました。
つきましては、完成を記念し、202X年10月吉日、東京中央駅にて執り行われます開通式典に、貴殿をご招待申し上げます。
貴殿の鋭い洞察とご助言は、我々が過去に遭遇した難局を乗り越える大きな力となりました。今回の歴史的瞬間を、ともにお祝い頂ければ幸甚に存じます。
なお、セレモニーには政財界の重鎮や海外からの賓客も多数列席予定です。貴殿におかれましては、ご高名なる探偵カズヤ氏と共にご出席賜りたく、謹んでお願い申し上げます。
敬具
三神建設株式会社
代表取締役社長 三神浩太郎
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アイゼンハワードは手紙を読み終えると、低く笑った。
「再び三神建設の名か……。どうやら、表向きは祝賀の場だが、裏にはまた波乱の匂いが漂っているな。」
その言葉に、隣で待っていたカズヤが肩をすくめる。
「前回も“ただの依頼”のはずが、血なまぐさい結末になりましたからね。今回も無傷で済むとは思えません。」
「だが、行かねばなるまい。大富豪の福田恒夫も出席するらしい。彼のような人物が絡めば、政治も経済も動く。」
カズヤはしばし沈黙し、封筒を見下ろした。
「三神がわざわざ僕らを呼んだ理由……気になりますね。事件が起こる前提で招待したのかもしれません。」
「その推測は的を射ている。祝典の裏に、必ず人の欲望が潜んでいる。」
アイゼンハワードはゆっくりと窓の外に沈む東京の夜景を見つめた。
「さあ、カズヤ。我々の出番だ。リニア新幹線の開通セレモニーが、“始まりの合図”になるかもしれん。」
二人の視線が交わる。
その瞬間すでに、この祝典が「開通セレモニー」ではなく、「事件の舞台」と化す運命を、互いに感じ取っていた。




