第7話 決死の選択 ― 巨人の封印
巨人の心臓部
脈打つ青白い光が洞窟のすべてを塗り潰し、
鼓動はまるで“この大陸の寿命”そのもののようだった。
囚人たちは息を荒げ、立っているだけで生命力を削られている。
ルアーナは震える手で、青い日記帳を開いた。
ルアーナ
「……やっぱり……コアを止めるには、魔力を“逆流”させるしかない……」
アイゼンハワード
「つまり“誰かが”中心に飛び込んで、
自分の命を媒介にして魔力を叩き込む……ってか」
ルアーナは唇を噛みしめ、うなずく。
「戻ってこれる保証は、どこにもない……!」
リュカは蒼白になり、アイゼンハワードの腕を掴んだ。
リュカ
「先生……行かないで……!
ぼく……外の世界を……一緒に……」
アイゼンハワードは優しく頭に手を置く。
「見れるさ。外の世界も……太陽もな。じいさんの“運の悪さ”を舐めんなよ」
その瞬間、アイゼンハワードは静かに一歩、心臓部の縁へ歩き出す。
ルアーナ
「やめて!!」
彼女はアイゼンハワードの腕を掴み、
涙をこらえて叫んだ。
ルアーナ
「あなたが死んだら……リュカはどうなるの!?
誰が守るの!?
私が……こんな研究に関わったせいで……!!」
アイゼンハワードは驚いたように目を見開き、
そして穏やかに笑う。
アイゼンハワード
「お嬢ちゃん……そこまで言われたのは、50年ぶりだな」
ルアーナ
「お願い……行かないで……!」
彼女の声は研究者のそれではなかった。
罪悪感と決意が混ざった、ひとりの人間の声だった。
黒い霧が背後から伸び、
死神が“まるで友人のように”肩に立つ。
死神
「行くなら……俺も付き合うよ。たまには、命を拾う仕事も悪くないし……
イヒヒヒ……」
アイゼンハワードはめんどくさそうにため息をつく。
「お前が味方に回るとか……ほんと、末期の世界だよ」
死神はニヤリと笑う。
「死ぬのは“まだ先”のほうがドラマチックだからねぇ……
じいさんが死ぬとこは、もっといい場所で見たいのよ」
氷の洞窟が揺れ、
奥から足音が響く。
規則的で、重く、迷いのない歩み。
盲目の看守長・バルゴだった。
氷鉄の槍を手に、
その顔は悲しみとも怒りともつかない表情で、
心臓部へと歩み寄る。
バルゴ
「……心臓部を止める?
愚かな。
これは“この大陸の命”だ」
アイゼンハワードが振り返る。
「見えてんのかよ、この状況が。
囚人も、看守も、みんな吸われてんだぞ」
バルゴはゆっくりと首を振った。
「掟を破り……巨人を傷つける者がいれば……
私は“そいつ”を殺す」
ルアーナが息を呑む。
彼女は震える声で言った。
「まさか……バルゴあなた……
巨人の……側に……?」
バルゴは無言。
しかし、その沈黙こそが答えだった。
死神が影を広げ、バルゴの攻撃を牽制した瞬間。
アイゼンハワードは笑った。
怪盗が最後の金庫へ手を伸ばす時のような、
老いてなお獰猛な笑み。
アイゼンハワード
「じゃあな、諸君。じいさんの最後の“盗み技”だ――」
ルアーナ
「待って!!」
リュカ
「先生!!」
死神
「行くぜ、じいさん……背中、押してやるよ……」
アイゼンハワードは光源へ飛び込んだ。
青白い光が彼の身体を呑み込み、
洞窟全体が震えた。
世界の鼓動が、一瞬止まった。




