第3話 森の呻き
日が沈み、浜辺を覆う焚き火の光が心許なく揺らめいたそのとき
悪魔の島の森の奥から、低いうなり声が響いた。
「……グゥゥゥ……ギ、ギィィィ……」
明け前の海風が、焦げた機体の残骸をなぶる。
火は消え、漂うのは金属と血の匂いだけだった。
生存者たちは焚き火を囲み、ほとんど眠れぬまま夜を明かした。
誰もが昨夜の“咆哮”を忘れられなかった。
あの低いうなり声。
まるで島そのものが呻いているようだった。
「水を探さなきゃ。このままじゃ全員脱水で終わる」
マルコが地図もない手元の砂に棒を突き刺し、方向を示す。
ジャーナリストのマリアと海洋学者オスカーが水の探索チームに選ばれた。
彼らは森の中へと足を踏み入れた。
◇◇◇
水を探しに行った森の奥に消えた探索チームが戻らない。
焚き火の前で、誰もが口を開けずにいた。
カズヤは時計を見た。出発からすでに十時間が過ぎている。
「遅すぎるな」
短く言っただけで、場の空気が一気に張り詰めた。
「探しに行ったほうがいい」
エヴァ(医師)が立ち上がる。
「彼らには水も食料も持たせてない。もう夜になる」
「行くなら俺が行く」
マイケル(元軍人)が銃を手に取る。
「ただし全員じゃない。残りの者が拠点を守れ」
森の入り口まで来た時、彼らはそれを見つけた。
マリアのカメラ。
泥に半分埋もれ、レンズには血のような赤黒い液体がこびりついていた。
ファリード(医療支援員)が拾い上げる。
「これ、彼女のカメラだ。間違いない」
そしてもうひとつ。
近くの地面には、深くえぐられた爪痕と、引きずられたような長い跡。
それは森の奥へと、まるで“何か”が獲物を運んだかのように続いていた。
「……戻ろう」
カズヤの声は冷静だった。
だがその冷静さこそが、全員をいっそう不安にした。
焚き火の前に戻った彼らを、他の生存者たちが囲んだ。
「どうだった?」
「マリアは? オスカーは?」
口々に問い詰める。
マイケルは沈黙し、カメラを火のそばに置いた。
「……見つからなかった」
「嘘でしょ……? そんな……」
ソフィア(カメラマン)が震える声で呟く。
「映像が残ってた。見たほうがいい」
カズヤが言い、再生ボタンを押した。
――ザザ……ザ……。
ノイズ交じりの画面。
木々の影、走る足音。誰かの息遣い。
「なにかいる……足音が……」
その直後、赤い光が二つ画面の端に現れた。
「ギィ……グルルルル……ッ!!!」
次の瞬間、画面が大きく揺れ、何かがカメラを掴むような音。
「マリア!!!」という絶叫。
そして、映像は途切れた。
沈黙。
火の爆ぜる音だけが、夜の空気を裂いた。
「……獣にやられたのか?」
マルコ(生物学者)が顔をこわばらせて言う。
「狼か虎か、そういうやつだ」
「違う」
カズヤが静かに言った。
「これは“何かに作られた存在”だ。普通の生き物じゃない」
レイチェル(海洋学者)が地図のように描いた島の地形を見つめる。
「この島の生態系……バランスが崩れすぎてる。
夜行性の捕食者が一種類だけ存在するなんて、自然界ではありえないわ」
ハンナ(登山家)が顔を覆う。
「ねえ……もしかして、この島、誰かが私たちを閉じ込めてるの?」
誰も答えなかった。
波の音も、虫の声も、すべてが止まっていた。
その沈黙を破るように、遠くから再び
「グゥゥゥ……ギギギ……」
低く湿ったうなり声が森の方から響き渡った。
焚き火の炎が、一瞬だけ大きく揺れた。
「……あの森には、もう誰も入るな」
アイゼンハワードはそう言い、静かにカメラを閉じた。
そして、その夜。
誰も眠れなかった。
第3話終了時点 登場人物一覧
カズヤ・アイゼン(日本):探偵。冷静沈着で状況分析を担当。リーダー格。
アイゼン・ハワード(イギリス/魔族):魔族の記録者。人間観察と分析担当。冷徹な理性。
マルコ・フェルナンデス(スペイン):生物学者。島の環境と生態系を調査中。
マリア・ゴンザレス(アルゼンチン):ジャーナリスト。記録・取材担当。強気だが正義感が強い。
オスカー・チャン(香港):海洋学者。島の周囲の潮流・生物を研究。冷静だが臆病。
ハンナ・キム(韓国):登山家。地形確認と安全ルート確保担当。体力と判断力に優れる。
エヴァ・シュミット(ドイツ):医師。応急処置と衛生管理を担当。現実主義者。
ソフィア・モレノ(メキシコ):心理学兼カメラ担当。撮影・記録係。感情に敏感。
ルーカス・ベントレー(イギリス):投資家。冷徹で自己中心的。物資管理を買って出るが不信感が強い。
ダニエル・オーウェン(オーストラリア):エンジニア。装備修理・防衛線設置を担当。実務派。
カタリナ・ヴォルコワ(ロシア):起業家。資金提供者の一人。冷静だが計算高い。
リディア・フォスター(アメリカ):心理学者。生存者たちの精神状態を観察。幻覚の兆候を最初に指摘。
アントニオ・サントス(ブラジル):シェフ。食料調理・配給を担当。陽気だがプレッシャーに弱い。
ナディア・カーン(パキスタン):ITエンジニア。通信機器・データ解析を担当。理知的だが内向的。
レイチェル・スミス(イギリス):生物学者。海洋・陸上生態系を観察。冷静で洞察力に優れる。
死亡者:マリア・ゴンザレス(ジャーナリスト)、オスカー・チャン(ビジネスマン)
生存者数:13名




