74:『自衛隊・2』
滅鬼の刃 エッセーラノベ
74:『自衛隊・2』
一次試験は通りました。
あ、教員採用試験。
ま、予想通り。
あとは、8月に筆答テスト、面接、模擬授業。
これも、まあ、受かりそうな気がしています。
お祖父ちゃんはなにも聞きません。こっちからも言わないし。
でも、知っているというかバレてる感じ。わたしの目の前で新聞広げて、広げたところが教員採用試験のとこで「へーー」とか「ホーー」とかわざとらしい。
それで、就職課に自衛隊のパンフがあったので、担当さんに応募用(茶封筒に一式入ってる)のをもらって持って帰って見せつけたわけですよ。
ちょっとビックリした感じはある。
ご飯食べてると、食器棚のガラスにお祖父ちゃん映ってて、困ったような顔でわたしを見てる。三度目には目が合って、お祖父ちゃん、食器棚から古いコーヒーミル取り出して豆を挽き始めるし。
バツが悪いからなんだけど、「どうだ、栞も」とわざとらしい。
「豆無いでしょ」
「え、あ……いや、ネットでやってたんだよ。粉でもミルで引き直したら香りが立つってさ」
苦しい言い訳が可哀そうで「あ……うん、食後にカフェオレでもらうわ」と返しておく。
シュルシュルシュルと、頼りなくコーヒーミルが鳴く。
豆だと、ガリガリガリって怪獣みたいな音がするんだけど、なんとも頼りない。
「ああ……」
「な、な、ちゃんと香りが立ってくるだろ」
「コーヒーってのは、香りが一番だからな」
三回も『香り』っていうもんだから、家庭教師で教えてた『かおり』って子を思い出してしまう。友だちの妹で、来年高校受験。レベルの高い高校を受けるんで「三年になったら先生替えなさい」と言って、わたしより2ランクはエライ『円』に代わってもらった。
シュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュル…………
「ちょっと多くない?」
「ああ…………」
ゆうに四杯分はある。お祖父ちゃんも——しまった——という顔をしてる。
「ねえ、今日って、武者のおじさんの命日じゃない?」
「え、武者は8月だぞ」
「月命日」
「まあな」
「一杯は、おじさんにお供えしようよ」
「あ、うん……」
亡くなる前に、うちの朝顔と一緒に撮った写真、スマホに保存していたのをプリントアウト。
コーヒーカップの後ろ、コーヒーミルに立てかけて、久々に三人でコーヒーブレイク。
差し込むお日様は北向き窓だけど元気でたくましい。
そろそろ梅雨明けかなぁ……と思ったら、もう三日も前に大阪の梅雨は明けておりました。
滅鬼の刃 完
☆彡 主な登場人物
・わたし 大橋むつお
・栞 わたしの孫娘
・武者走 腐れ縁の友人(35回より故人)




