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滅鬼の刃  作者: 大橋むつお
37/47

37:眼病始末記・2・朝からすまんなあ

滅鬼の刃 エッセーラノベ    


37:『眼病始末記・2・朝からすまんなあ』  





 少し怒ったような顔で、それでも約束の5分前に着いたT病院玄関前、栞はちゃんと待っていてくれました。


 え?


 家にいたころから、めったに目を見て話さない栞ですが、「朝からすまんなあ」の言葉に反応もせずに、じっと私の顔を見ています。


「どこに穴が開いてんの?」


「え?」


「目に穴が開いたんでしょ?」


「開いてんのは網膜だから外からは見えないよ」


「え、あ、そうなんだ」


「でも、白内障だから瞳が濁ってるだろ?」


「え、いや、お祖父ちゃん、昔からそんな目だったし」


 何年かぶりで孫娘と目が合って、ちょっと嬉しかったのですが、それもほんの十数秒。


 再び目どころか顔を逸らせて私の斜め前を歩きます。


 その斜め後姿は、久々に会ったからだけではない緊張感がありました。


 

 思い出しました。



 四歳の時、髄膜炎を患ってひどい目に遭っていたんです。


 夜間に高熱を発して隣接するH市の病院に救急搬送されました。救急当直医は「多分風邪ですね、熱が続くようなら電話していただくか、かかりつけのお医者さんに行ってください」と、なにも処置されること無く帰されました。


 帰宅しても、熱は下がることなく40度近くになります。意識も朦朧としてきた様子で、呼びかけにも応えません。


 すぐに、さっきの救急ではなく、掛かりつけの小児科に運びました。


 何人か先客がいましたが、看護婦さんが先生に言ってくださって、すぐに診ていただけました。


「髄膜炎よ。こっちから電話するから、すぐ市民病院に行って!」


 先生はタクシーの手配までしてくださって、そのまま市民病院に直行。運転手さんも心得ていて、救急搬送口に着けてくださって、すぐに診察の上処置していただきました。


 その時、右手の甲と脊髄にぶっとい注射。おそらく手の甲は点滴、脊髄のが髄膜炎治療のための注射です。


「おねがいぃ! やめてくらしゃいー(><)!」


 それまで熱で朦朧としていた栞が、そこだけははっきり叫んで泣いて頼んでいました。


 あの時の恐怖が身に染みているんでしょう。


 

「治るんでしょ?」



 待合で座っていると、横顔のままポツンと言います。


「ああ、治るさ」


 答えながら、実はビビっておりました。


 わたしも、自分のことで病院の世話になるのは15年ぶり。手術と名のつくものは42年ぶりです。


 実は、栞と同じく4歳の頃に、目に鉄粉が入ってめちゃくちゃ痛く、一晩おふくろになだめられて眼医者に連れていかれました。


 たぶん、そうとう怖かったんでしょう、眼医者でどんな治療を受けたのか記憶がありません。


 どころか、眼医者がどんな人だったか、医院がどんな建物で、どこにあったのかまるで憶えていません。


「目を洗浄してもらった」


 お袋がそう言って、子どものわたしは――くり抜かれた目玉がホーローの洗面器の中で洗われてるの図――を想像してしまいました。


『大橋さん、一番の診察室へ』


 呼び出しがかかって、栞に茶封筒を渡します。


「手術したらろくに見えないだろうから、支払いとかはこれで頼む。余ったら、栞の生活費にしたらいいからな」


「う、うん」


 さすがに緊張した顔で茶封筒を受け取りました。


 

 そして、簡単な手術が始まる……のかと覚悟したのですが、その日は改めての診察だけ。一週間後の手術を決めるだけでした。


 一週間後も付き添ってくれることを打ち合わせ、予定よりも早く終わったので「飯でも食いに行くか」と水を向けましたが「バイト、間に合うから……」と、そのままY駅目指して足早に去っていきました。


 ちょっとつまらなく、ちょっと安心して駅二つ分歩いて帰りました。


 


☆彡 主な登場人物


 わたし        大橋むつお

 栞          わたしの孫娘 

 武者走       腐れ縁の友人(35回より故人)

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