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滅鬼の刃  作者: 大橋むつお
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36:眼病始末記・1・これはマズイ!

滅鬼の刃 エッセーラノベ    


36:『眼病始末記・1・これはマズイ!』  





 昨年の秋のことです。パソコンで文章を書いていました。


『大』と打つと「ナ」に、『橋』と打つと「喬」になってしまいます。テレビのニュースを見ると、アナウンサーの口が消えてしまいます。ロングになると首ごと消えてしまいます。


 これはマズイ!


 すぐに駅前の眼科に駆け込むと、ドクターが、こう言いました。


「両眼ドライアイです」


 ああ、パソコンの画面などを長時間見ているとなるアレだ、要は目が乾いている。


「そして白内障です」


 あ、ああ、歳を食ったら水晶体が濁るアレだ。


「さらに、左の目が網膜レッコウです」


 え? これは直には意味が分かりません。


「この映像で説明します」


 診察の前に検査技師の女性が撮ってくださった映像がモニターに映ります。


 湾曲した網膜の断面図、その湾曲の真ん中が途切れています。


 こういうものには疎いわたしでも分かりました。網膜の真ん中が欠けているのです。


「この穴の開いたところが像を結びませんので、欠けて見えるわけです」


「はあ……」


 間の抜けた返事をしましたが、ことの重大さはよく分かっています。


「放っておくと穴が広がるというか亀裂が大きくなって……」


「はい、見えんようになってしまうんですね」


「はい、そのとおりです」


 ドクターは、すぐに紹介状を書いて下さり、家から二キロ余りのT病院の予約まで取り付けてくださいました。



 さあ、青天の霹靂、目の手術をすることになってしまいました!



「往きはともかく、帰りは一人ではきびしいので、どなたか付き添った方がいいですよ」


 そうアドバイスしてくださって…………困りました。


 その春から孫の栞は家を出て一人暮らしをしています。


 連絡は時どきラインでやっていましたが、そのほとんどが既読スルーです。


 今度ばかりは既読スルーでは済みません。


 やむなく、初めて電話しました。きっと『お掛けになった電話番号は圏外、あるいは電源を切っておられ……』の人工音声だと覚悟していましたが、予想に反して二回のコール音で繋がりました。


『はい、もしもし、栞です』


 めちゃくちゃしおらしい声なので――ああ、案じるより産むがやすし(;'∀')――と思いました。


「ああ、久しぶりだな栞ぃ、実はな、お祖父ちゃん……」


 そこまで言うと『ゲ、なんで電話してくんのよ! 店長と間違えたじゃん!』と、ニベもない返事。


 しかし、このつれなさに臆してしまうわけにはいきません。ことは緊急を要するのです。


「実は、網膜裂孔というのになっちまって、緊急に手術することになったんだ」


『もーろくれっこう?』


「耄碌じゃなくて、網膜。網膜に穴が開いて、放っておくと見えなくなっちまう病気なんで、手術なんだ。いや、日帰りできる手術なんだけどな、帰りは一人じゃ厳しいって先生もおっしゃるんでな。悪いけど、栞に付き添ってもらおうと思ってなぁ……」


『従弟のおじさんとかじゃダメなの?』


「え、Yか?」


『あ、うん、バイトのシフトとかきつくって、急には……』


「Yは坊主だぞ、病院に坊主はまずいだろ」


『いや、私服に着替えてもらって……』


「檀家周りの途中で着替えてくれなんて言えないぞ、いちいち寺に帰らなきゃならないんだから」


『…………』


「しおり?」


『ハア(ノД`) ……分かったわよぉ、時間と場所教えて』


「あ、すまんな……」


 と、かくして孫に付き添われて初めて病院に行くことになりました。




☆彡 主な登場人物


 わたし        大橋むつお

 栞          わたしの孫娘 

 武者走       腐れ縁の友人(35回より故人)

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