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いけ好かない男

誤字報告ありがとうございます!

「最近は、作物の種や苗なんかも入荷するようになった。うちの国には芋くらいしかないが、荒れた土地でも安定して栽培できる植物をもう少し増やしたいんだよな」


 異世界では「品種改良」と言って、様々な植物を掛け合わせてより強い農作物を作るという技術があった。あれができればいいのだが。

 そんなことを思案していると、レティシアに無言でじっと見られていることに気づき、俺は瞬きをした。


「どうした?」

「……いいえ」


 何でもない、というようにかぶりを振った彼女を不思議に思ったが、話はそこで打ち切られた。


「お嬢様、ご来客がございます」

「まあ、今日はライゼル様がいらっしゃるのに、そんな予定あったかしら?」

「気にするな。俺はそろそろ帰るつもりだったしな」

「そんな……ごめんなさい。それじゃあ、カークランド伯様をお見送りしてから向かうわ。応接室にお通しして」

「いえ、それが――」

「それには及ばないよ」


 この声は。……どうやら、お出ましである。


「……アルラント子爵様」

「だめだよ、レティ。クラト、だろう?……どうも、カークランド伯」

「こんにちは、アルラント子爵。昨日ぶりですね」


 レティシアは俺を気にしていた。形だけとはいえ婚約者の前で、あからさまに関係を匂わせてくる恋人にやきもきしているのだろう。常識的な反応であるが、クラトの機嫌が急降下していくのが傍目から見ていると手に取るように分かる。


「アル――クラト、様。本日はどうなさったの」


 今レティシアが「アルラント子爵」って言いかけたら、体感温度が下がった気がする。


「もちろん、君に会うためだよ、愛しい人」


 流れるような仕草でレティシアの手を取り、口付ける。のみならず、彼女の頤を捉えて、顔を傾け――。


「ま、待って、ライゼル様が――」

「待たない」


 うげ……やりやがった。

 抵抗するレティシアの手を抑え付け、もう片方の手でこれ見よがしに彼女の髪をかき混ぜながら唇を塞ぐ。そして、レティシアに口づけの合間に伏せていた眼差しを持ち上げ、俺を挑発するように見た。


「まだいたの?」


 俺はすっと目を眇めた。


「……悪趣味だな」


 そのときの俺はさぞ冷めた目をしていたことだろう。無言で立ち上がり、二人に背を向けると、一部始終を目撃してしまったメイドと目が合って大げさにびくつかれた。


「悪いが帰る。ディラム伯によろしく伝えてくれ」


 メイドはこくこく頷く。目つきが悪いからって、別に恐喝しているつもりはないのだが。


 後ろから、早く去れとばかりに口づけを深くする気配があった。レティシアの弱弱しい抵抗もやがて飲み込まれる。

 あの夜会のときのように、水を差してやることもできた。だが、俺は名ばかりの婚約者であり、二人は想いを通わせた恋人同士。レティシアも、本当に嫌ならなりふり構わず俺に助けを求めることができる。だが、彼女はそうしなかった。

 やはり、俺は今この場において邪魔者に違いない。


 それに、下手に二人の仲に踏み込んでクラトを逆上させるのも良くない。今の彼は何をしでかすかわからない危うさがある。

 その昏い嫉妬、憤怒、焦燥。クラトの瞳に浮かぶそれらの感情は、彼自身を深く蝕み始めているように見えた。


 俺が二人に干渉できるのは、レティシアから手を伸ばしてきた時だけ。

 そしてたぶん、俺はその手を待っているのだ。



そのうち、補完のためにレティシアかクラト目線を乗せるべきか悩みどころです……。

その場合、やっぱりムーンさん?

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 主人公がレティシア嬢と守るべき領民たちを天秤にかけて彼女の選択次第ではレティシア嬢を取ろうとしてる点 より良き領主になるという目標持ってる割にその選択は… [一言] 公爵家を敵に回すと…
[一言] この頭のおかしいアルラント子爵の親は何やってるのかね? レティシアの親も馬鹿なだけだけど。
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