消えた心臓<4>
──フォンストリート
一通り聞き込みを終えた和司と弘也、ナスティアはフォンストリートで合流した。ただし、手掛かりと呼ぶには乏しい収穫しか得られなかった。
「この三件に共通しているのは、鋭利な刃物で胸部を切り裂かれ、心臓を持ち去られた事だ」
「被害者の間に接点はなし。恨みを買われる様な人物でもなかった」
「死亡推定時刻はほぼ同じ。だけど移動に時間が掛かる様な離れた場所だし、タイミングよく住民が来るかどうかも分からない。待ち伏せとしても非効率だ」
「場所が離れてるとしたら複数の人物が同時に動いたって線が考えられるが、そもそも特別な何かを持ってるわけでもない住民を狙うか?」
和司はメモ帳に走らせていたペンを雑にテーブルに置いた。
「ところでヒロ、お前達が聞き込みした住民の中で、声はおろか物音すら聞こえなかったって住民、いなかったか?」
「いなかったか、というよりほとんど全員そうだ」
「それがどうも引っ掛かるんだよな。どの現場、どの家でも同じだ」
「そういえば、青の三つ星に魔法使いいたろ。彼女がご遺体を見て、何かに気付いたみたいなんだ」
「魔法使い?魔法・・・魔法・・・」
「魔法が絡んでるとしたら・・・。何かの儀式か?」
一瞬、間が空いた。
「内容までは分からないけど、そう考えるとしっくりくるね」
「魔法の儀式を調べるとしたら・・・」
「あそこしかないだろう。ナスティア、ルネリス魔法学校に行って調べてこい」
「分かった」
「もう一つ気になる事がある」
「何だよ?」
「ギルマスだよ。聞き込みの最中に冒険者の集団に出くわしたんだが、二組共俺達が聞いた現場と同じ場所のクエストを受けてたんだ」
「それ、俺が行った北二番地でも同じだった。青の三つ星と鉢合わせになったのがそこだ。何だろうな?」
「同じ場所で複数の人物がクエストを出したとか?」
「同じ地域で別の変死体が発見された可能性も考えて一回りしてみたんだが、そういうのはなかった」
「じゃあギルマスが何か企んでる?」
「問いただしたいのは山々だが、そんな事やってる状況でもないしな」
「俺とヒロとで聞き込みをもう一周してくる。ナスティア、何でもいい。気になった事があったらすぐに知らせてくれ」
「じゃあ行ってくるね」
ナスティアの身体が周囲の粉塵を巻き上げながら少しずつ浮かんでいく。
[風の精霊シルフよ かの者を高みへ飛び立たせ給え ヘア・メルキド・ソルア・クー]
「飛行魔法」
詠唱すると一気に上空へ飛び上がり、そのままルネリス魔法学校へと飛び去っていった。
「俺達も行くぞ」
「じゃあ一件目のミスタラ町南一番地から順に回ろう」
──和司・弘也班:ミスタラ町南一番地
一件目の現場に戻り、和司と弘也は改めて周辺の住民に話を聞いて回った。
「昨晩から今朝にかけて、何か気になる事はありませんでしたか。どんな些細な事でもかまいません」
一軒目。応対に出た老人はしばらく考え込んだが、やがて首を横に振った。
「いや、特には・・・。いつも通り静かなもんだったよ」
「悲鳴や、物音とか聞こえませんでしたか?気付いた事やどんな些細な事でも構いません」
「聞いてないなぁ。夜中は完全に寝てたし」
「その際に何か物音とか聞こえませんでしたか?」
「あんた等もしつこいな。何も聞こえてないって」
「そうですか。ありがとうございます」
二人は礼をして次の家へ向かった。
──二軒目
こちらでは中年の女性が戸口から顔だけを覗かせた。
「うちは早くに寝ちまうからねぇ。何も聞いてないし、見てもないよ」
「夜中に犬が吠えたり、誰かが走っていく様な音もありませんでしたか?」
「犬?この辺じゃ飼ってる家も少ないよ。それに、そんな音がしたら多分起きてる」
「そうですか。・・・ご協力、ありがとうございます」
──三軒目
「最近、見慣れない人物をこの辺で見掛けたりはしませんでしたか?」
「見慣れない奴なんて毎日いるさ。ここは人の出入りも多いからな」
「昨夜に限って気になった人物は?」
「さぁね。俺は暗くなったら家から出ないし」
また空振りだった。家を離れたところで、和司が小さく溜め息をついた。
「何にも出ないな」
「出ないって事自体が気になるけどな」
「だろ。誰も声も物音も聞いてない。逆に不自然に感じるぞ」
「時間が時間だしな」
何軒か回ったところで、一人の住民が思い出した様に口を開いた。
「そうそう」
住民の一人は井戸を指さした。
「あそこに粉みたいなのが落ちてたんだよ」
「粉?どんな粉でしたか?」
和司の問いに住民はしばらく考え込んだ。
「白い粉・・・としか言い様がないな」
「普段はなかったんですか?」
「なかったね。不自然に盛られてたから気になってたんだよ」
「その粉はまだ残ってますか?」
「多分な。風で飛んでるかもしれないけど」
礼を言って住民と別れると、二人は井戸へと向かった。井戸の縁を回ってみると、石の隙間にわずかに白い粉が残っていた。風にさらされて、ほとんどが飛ばされてしまった後の様だった。
「これだけじゃ、何の粉なのか見当も付かないな」
「ヤク・・・じゃないよな?」
「舐めてみるか?」
「俺をどうする気だ?」
「これが事件に関係してるかどうかは他の二件も調べる価値はあるだろう。もう一周してみよう」
和司がその場の写真を撮影した後、弘也は慎重に粉を採取してポリ袋に入れた。
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