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異世界刑事  作者: project pain


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消えた心臓<2>

──ミスタラ町南一番地


和司が空を見上げていたその時、話し貝が再び鳴った。


『立て続けで悪いんですけど』


「まだ何かあるのか?」


『はい。別の場所でも二件、同様のクエストが出ました』


「二件?場所は?」


『一件は西八番地、もう一件は北二番地です』


「場所がバラバラだな」


「本当に同様かどうか、行って見るしかないだろ」


「だな。ヒロはナスティアを連れて行ってくれ。俺は周辺の聞き込みをする。この人の身元も洗いたいしな」


「分かった。ご遺体は衛兵達に任せよう」


弘也とナスティアが西八番地へ向かった後、和司は一人で現場に残った。




遺体は衛兵達が運び出す準備をしている。周辺の住民達はまだ路地の入口からこちらを覗き込んでいた。恐怖だけではない。何が起きたのか知りたいという好奇心が、彼等の足をその場に縫い止めている。


和司は一番近くにいた中年の男に声を掛けた。


「この件でクエストを出した方をご存知ありませんでしょうか?」


「向かいの家の婆さんだ。最初に見付けて叫んだのもな。俺は騒ぎを聞いて出てきただけで・・・」


男はそう言って、路地の向こうに建つ古びた家を指差した。現場からそれほど離れていない場所にその家はポツンと残されていた。その周囲にあるのは取り壊し中の家と、これから建てられる家。だろうか。


「分かりました。ありがとうございます」


和司は家の扉を叩いた。少しして、中から小柄な老婆が顔を出した。顔色は悪く、手はまだ震えていた。


「自分は前川といいます。あそこで遺体を最初に見付けてクエストを出したのは、あなたとうかがったのですが」


老婆は小さくうなずいた。


「ええ・・・朝、井戸へ水を汲みに行こうとしたら、ダンさんが倒れていて・・・」


「ダンさん・・・?あの方とご面識がおありなんですか?」


「それほど親しいというわけではないけれど・・・。ダン・ロイカーと言って、南三番地の方に住んでいる人です。時々顔を合わせる事があって」


「見付けたのは何時頃ですか?」


「時計を持ってないから時間は分かりませんが・・・夜が明け始めた頃です。鐘が鳴る少し前だったと思います」



「その前後に何か声や物音等は聞こえませんでしたか?どんな些細な事でも構いません」


老婆は首を横に振った。


「ごめんなさい。家を出る時まで戸を閉めていたので・・・」


「そうですか。何か思い出した事やそういえば、と気付いた事等ございましたら遠慮なくおっしゃってください」


和司は深く頭を下げて次の家へと歩き始めた。


声も物音も聞こえなかった・・・か。別の場所に住んでいる住民なら何か聞こえていたかもしれない。




──弘也・ナスティア:西八番地、第二の遺体発見現場


弘也とナスティアが西八番地に着いた時には、既に衛兵達が路地の入口を塞いでいた。


「自分は春日といいます。クエストが出たと聞いて駆け付けました」


衛兵は一瞬戸惑ったが、ナスティアの顔を見るとハッとした表情を見せた。


「あなたは最高位魔法使いの・・・」


「ナスティア・バートニックです。遺体を拝見できますか?」


「こちらです」


「魔法ギルドに登録してるって便利だな。顔パスだよ」


「便利って言い方はどうかと思うけどね」


二人が案内された先には、石壁にもたれる様に倒れた遺体があった。胸部は大きく開かれ、血は石畳の上に広がっている。


ナスティアは周囲の石畳を見渡した。


「足痕(げそこん)はダメだね。こっちも人が集まったせいで荒らされてる」


「発見後に踏み荒らされたか」


「うん。ご遺体の近くに残ってる跡も、誰の物かまでは分からない」


現場周囲を二人で微物採取してみたが、ここでも肉片や骨片が目立つ。


二人は遺体の側にしゃがみ込んで手を合わせた。


「男性。身長165cm。背部を石壁に接した半仰向け。胸部中央に開放創。胸骨及び肋骨に損傷あり。肺と腹部臓器に目立った損傷はなし。両腕に防御創なし。首や手足に索条痕(さくじょうこん)なし。死後硬直は認められるも、下肢までは及ばず。死亡推定時刻は今朝3時から5時の間」


弘也は胸腔の奥を確認した。


「心臓がない」


ナスティアは息を呑んだ。


「また・・・」


「心臓だけが持ち去られている。一件目とほぼ同じだ」


「つまり、この人もこの場所で?」


弘也は立ち上がり、路地の奥を見た。


「同じ時間帯に、離れた場所で、同じ方法で心臓だけを持ち去られている。偶然じゃない。・・・身元が分かる物は?」


「銀行の個人口座登録証があったよ。名前はエリック・ハモンド」


その時、弘也の話し貝が鳴った。


「カズか?」


『そっちの状況は?』


「検視の結果は同じだ。ただ、今回のマル害の身元は分かってる。エリック・ハモンド。西八番地7-4」


『分かった。一通り回ったら、そっちに行く』


「頼む」


通話を終えた弘也はナスティアの方を振り向いた。


「次に行こう」


「うん。ここはお願いします」


衛兵に遺体の保全を頼んだナスティアは弘也と共に北二番地へ向かった。


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