魔法学校の怪<3>
──弘也・ナスティア班:現場
ベアトリスの遺体を他の教師に任せて、二人は今後の方針について話し合っていた。
「仮にも魔法学校の教師なんだよ。大人しく攻撃魔法を二回も受けると思う?」
「共犯者がいるってのか?」
「でも今一つ腑に落ちないんだよね。二人掛かりならもっと攻撃の痕がバラけてるはずなのに、それがなかった」
「そこに事件を紐解くトリックがある?」
「多分ね。私だって魔法使いだし、魔法関連なら多少は何とかなると思う」
「自称魔道師だしな」
「失礼な。魔法都市の魔法ギルドでさえ公認せざるを得なかった魔道師よ。そこんとこ間違えないでよ」
「分かった分かった。で、どうするんだ?」
「精霊達を呼んで調べてもらうよ」
ナスティアは指先に魔力を集めて精霊を呼び寄せようとした。
「お待ちなさい」
廊下の奥から声が飛んできた。振り返ると、一人の教師が早足でこちらに向かってきた。
「確か訓練場でお会いした・・・イヴ・スコット先生・・・でしたっけ?」
何やら鬼気迫る表情を弘也とナスティアに向けている。おおよそ訓練場で見た穏やかな表情ではない。
「校舎内での魔法の使用は禁止です」
「え?でもベアトリス先生は魔法で殺害されたんですよね?」
「その犯人については見付け次第処罰します」
「ですからその犯人を逮捕しようと私達も・・・」
「とにかく、この学校の規則には従っていただかないと、生徒への示しが付きません」
イヴの声は丁寧だったが、有無を言わせない硬さがあった。弘也はナスティアに目で合図を送った。ナスティアは小さく息を吐いて、指先の魔力を散らした。それを確認したイヴは踵を返して廊下の向こうへと歩き出そうとしたところを弘也は止めた。
「一つだけいいですか?この学校ではこういった魔法殺人が頻繁にあるんですか?」
イヴは立ち止まった。振り返った顔には、怒りやら呆れやらが混ざり合ったような色があった。小さく、しかし重い溜め息をついた。
「人殺しは稀ですが、暴力沙汰なんかそりゃもうしょっちゅうですよ。生徒同士の実力争い、教師や教授の研究対立。いくらでも出てきますよ」
「でも戦争の時は一丸となって戦ったんですよね」
「それは利害が一致したからです。皆死にたくないですから」
イヴは一礼して踵を返した。その背中が廊下の角に消えるまで二人はしばらく黙ったまま、その場に立っていた。
「何か・・・物騒じゃない?この学校」
「普通は教師が抑止力になるはずなんだけど、教師も教師で争うとはね・・・」
「・・・どうする?」
「できるところから始めるしかないだろ。ナスティアは採取した砂利がどこの物か探してくれ。俺はマル害の部屋を調べる」
「分かった」
弘也とナスティアは現場から二手に別れた。その様子を誰かがどこからか、しかしはっきりした目で見ていた。
──和司・ハルカ班:会議室
廊下を歩いていた和司は開いたままの扉から声が漏れているのに気付いた。覗き込むと十数人の教師が向かい合わせに座ってざわめいている。和司はそのまま中に入った。
「誰だね君は?」
和司は警察手帳を見せた。
「自分は前川と言います。少しお話、よろしいでしょうか?」
「マエカワ・・・?」
返事を待たずに和司は空いている席に腰を下ろした。上座に座っていた白髪交じりの教師が眉を上げたが、特に追い出そうとはしなかった。
「話というのは何かね?」
「この中に今朝ベアトリス先生を目撃された方はいらっしゃいますか?」
「朝食の時に見ました。食堂で一人でいたんです。7時半頃でした」
「私は食事が終わった後にアデル先生と廊下で立ち話をしているのを見ました」
その名前が出た瞬間、室内の空気が僅かに揺れた。何人かが視線を交わす。
「アデル先生というのは?」
「アデル・アシュレイ。精霊魔法の研究をされている先生です。この学校でも指折りの実力者で」
「立ち話程度なら珍しくもないだろう」
「しかし二人の間柄を考えると・・・」
「二人の間柄というのは?」
教師達がまた顔を見合わせた。上座の教師が口を開いた。
「半年前の学会でアデル先生がベアトリス先生の研究を公然と批判した。それ以来だ」
「ベアトリス先生も売り言葉に買い言葉で言い返しましたけどね。どちらにも非はあると思いますよ」
「立ち話というのは、具体的にどんな様子でしたか?」
「遠目だったので詳しくは。ただ声を荒げている様子はなかったです。どちらかというとアデル先生が一方的に話していて、ベアトリス先生は黙って聞いていた感じで」
「どちらが先に立ち去りましたか?」
「アデル先生の方が先に。ベアトリス先生はしばらくその場に立っていました。それが私が見た最後です」
「アデル先生は今どちらに?」
教師達が顔を見合わせた。壮年の教師が口を開こうとした時、キキィーと不快な音が会議室に響き渡った。
「ハルカ、やめろって言ってるだろ」
「鏡、カズ、鏡」
「だから珍しくないだろって何度も言ってるだろ」
その鏡を見た教師達は顔を見合わせた。
「はて・・・この会議室に鏡なんかあったか?」
「なかったんですか?」
「多分・・・」
立ち上がった和司は鏡を覗き込んだ。
「特に不自然な点は見られないがな・・・。ハンサムに映ってるし」
「それ、不自然、バカズ」
「誰がバカズだ」
和司は軽くハルカの額を小突いてから、あらためて教師達の方へ向き直った。
「それで、アデル先生は今どちらに?」
室内にいた教師達は再び顔を見合わせた。
「誰か見たか?」
「いえ、7時半以降は・・・」
「部屋の方は?」
「確認しに行きましたが返事がなくて」
室内が静まり返った。和司は立ち上がった。
「ありがとうございました。アデル先生を探してみます」
「あぁ君」
壮年の教師が和司を引き止めた。
「アデル先生が犯人だと、そういう事になるのかね?」
「まだ何とも。ただ話を聞かないわけにはいきません」
壮年の教師は複雑な顔で頷いた。和司はハルカを一瞥した。
「行くぞ」
「うん」
ハルカは席を立ちながら、もう一度だけ会議室の鏡に目をやった。
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