魔法学校の怪<1>
四人は散歩がてら通りを歩いていた。表通りを歩くと色々な店が客で賑わい、ケンタウロスの荷馬車がせわしなく通り過ぎる。
「んー。のびのびできるのもいいねー」
ナスティアは背伸びをしながら歩いている。
「ギルマスからの呼び出しもないし、たまにはのんびりするのもいいだろう」
和司と弘也もそれぞれ肩を揉んだりしながら歩く。
「あれ?ハルカちゃんは?」
ついさっきまで和司の隣にいたはずのハルカがいない。
「あいつまた!」
慌てて周囲を見回すとハルカは誰かと話をしていた。
「どした?」
「西門はどちらでしょうか?」
「西?あっち」
ハルカは指をさす。
「適当な事を言うんじゃない。そっちは海だ。えっと君・・・」
和司と弘也は少女の方を向いた。そこで二人は少女の服装を見て少々困惑した。
深緑のリボン、白いシャツ、紺色のベスト、チェック柄のスカート、短めのマントを羽織ってはいるがどう見ても女子高生だ。
「私はローレンス。ローレンス・ギリスと言います」
ローレンスは三人に向かって頭を下げる。
「西門が分からないってこの街の住民じゃないのか?」
「はい。行きは街を迂回したのですが、帰りはこの街を突っ切った方が早いと思ったのですが」
ローレンスは辺りを見渡す。三人は顔を見合わせた。
「行きは迂回したというのは?」
「私は魔法学校の卒業試験でダンジョンの攻略を一人で行っていました。その帰りだったんで・・・」
言葉を途中で切らしながらローレンスはフラッと倒れた。それを和司が両手でキャッチする。
「大丈夫か?」
「すみません・・・5日も何も食べてなくて・・・」
──フォンストリート
注文した食事が来るなり、ローレンスはがっついて食べ始めた。
「おい、5日も食べてないんだろ?消化に優しい物食べた方がいいんじゃ・・・」
「いえ、平気です。少しでも魔力を回復させないと」
その横でハルカも同じ様に肉を頬張っている。
「こらハルカ、野菜も食え野菜も」
「嫌い、野菜、好き、肉」
メニューを広げた和司は次のオーダーを選び始めた。
「次はこれとこれを注文するからな」
「ちょっと待ってよ!私が嫌いな物が入ってるじゃない!貸して!私が注文するから!」
「こういうのはお父さんが決める事だ」
「誰がお父さんよ?!財布握ってるの私よ!」
その横で笑いながらメグが次の料理を運んできた。
「いやぁ〜日中だってのに、賑やかだねぇ〜」
食事を一通り終えた後、和司達はローレンスの事情を聞いてみる事にした。
「私はメイヴァレンという遠い街からルネリス魔法学校に入学しました。それ以来、学校の外に出る事がほとんどなくて」
「それでこの辺の土地勘がなかったのか」
「先程お話した通り、私には単独でダンジョンを攻略するという卒業試験がありました。その為にここより東の方へと向かったのですが、帰りはこの街を突っ切った方が早いと思って・・・。逆に皆さんにご迷惑をお掛けする事になりましたが・・・」
「いいさ。どうせ暇だったんだし」
「それより卒業試験というのは、どこかの学校のだよな?確か魔法学校って言ってたけど」
「はい。ルネリス魔法学校と言いまして、アカッシス外縁部に位置してます」
「また変な所にあるんだな」
ローレンスは"長い話になりますが"と断ってから話を続けた。
「50年前の戦争の事はご存知ですよね」
「まぁ、あった事自体は知ってるけど」
「その際、魔族がこの街を狙って大軍を引き連れてきました。そのせいで外縁部は壊滅状態にありましたが、その中で唯一持ち堪えられたのがルネリス魔法学校です。教師、生徒総出で防衛戦をやってましたから。それで学校自体は今も外縁部に残ったままなんです」
「話を戻すけど、卒業試験のダンジョン攻略ってどうやるんだ?」
「言葉通りの意味ですよ。冒険者達と同じでダンジョンのモンスターを単独で駆逐する事。様子は学校から先生が監視しています」
ローレンスはティーカップを戻すと椅子から立ち上がった。
「これ以上皆さんにご迷惑をお掛けするわけにもいきませんし、私はそろそろお邪魔しようかと思います。食事のお礼はまた後日」
ローレンスに続いて弘也も立ち上がった。
「なぁカズ。俺達も行ってみないか?」
「何だ?入学でもするのか?」
「そうじゃない。俺達はこの世界の魔法の事を知らないだろ。魔法都市だってのに今まで魔法が絡んだ事件がなかったのが不思議な位だ。この先の事を考えておくとな」
「なるほど・・・。って勝手に行っていいのか?」
「見学という形なら認めてくれると思います」
「決まりだな」
「では皆さん集まってください。学校まで瞬間移動します」
「え?もう魔力回復したの?」
「えぇ、おかげさまで」
「ご飯だけで回復するって便利な身体だね」
四人がローレンスの周りに集まると、足元に魔法陣が展開され、その場から一瞬で消えた。
──ルネリス魔法学校
瞬間移動した先は学校の裏にある射撃場の様な場所だった。教師らしき人物が子供達に何やら授業の説明をしている。
「では私は卒業試験の報告と見学許可を取ってきますので、こちらでお待ちください」
ローレンスが校舎の方に行くのを見送って、和司達は邪魔にならない様に教師の横に移動した。子供達は懸命に火の玉を作り出しては的へと投げていく。
「火の魔法の習得ですか。随分と生徒の数が多いですね」
「50年前の戦争のせいでしょうね。あの当時、この魔法学校はアカッシスの拠点の一つでした。それ以来、皆攻撃系の魔法を習得したがる様になったんです」
「だからゴブリンの巣窟でも火の魔法だったのか」
「まだあの時の事引きずってるのか?」
和司は何も答えずに拳を強く握った。
「当たらないー!」
「まだ消えないでー!」
子供達が次々と放つ火はとても小さく、中には的に当たる前に消えていく物、威力を失って落ちていく物もあった。それをじーっと眺めていたハルカは溜め息をついた。
「しょぼっ」
地面を一蹴りすると、赤い魔法陣が展開された。
[ワァエ・ビオウ・エージン 我、精霊に命ず 火の精霊サラマンデスよ 灼熱の獅子を呼び覚まし 蹂躙せよ バタラ・フルク・ダスメルト・ムルク]
「げっ!やめろハルカ!」
「爆炎回廊魔法」
ハルカが放った炎は一直線に伸び、的を次々と燃やしていった。火の手はさらに広がり、周囲の木々へと向かっていく。
「マズい!ナスティア!消火!」
「うん!」
[水の精霊ウンディーネよ 我が敵に対し水の弾を発せよ ダーギ・ドルファ・メル・ハルガ]
「水塊魔法!」
ナスティアは手に出現させた水の塊を身体の向きを変えながら連射していく。たちまち火は消えたのだが、辺り一面に嫌な煙の臭いを漂わせた。それを見たハルカは"ほぉ"と感心の声を上げた。
「水魔法、する、反撃・・・・・・ふぎゃっ!」
和司はハルカの後頭部にチョップを入れた。
「これ以上騒ぎを大きくするな」
「うわっ。最強の赤竜にチョップ入れたよ」
「流石カズ。物怖じしないな」
「こういうのはな、小さい頃から躾けないといけないんだよ」
「私、600歳・・・、違う・・・子供・・・」
頭を抱えるハルカとナスティアに向かって子供達の拍手が響く。
「凄え!本物の魔法だ!」
「私達もいつかはああいう事できるの?!」
「何か・・・子供達から拍手喝采を浴びてるんだが・・・」
ハルカは自慢げに両腕を大きく掲げた。
「褒めて、もっと、褒めて」
「調子に乗るな」
そこへ何やら不思議そうな顔をしたローレンスが戻ってきた。
「いやに早かったな。卒業試験の報告は終わったのか?」
「いえ・・・先生がいなかったんです」
「別の場所に行ってるとかじゃないのか?」
「いえ、いつもならいるはずの教室にいなかったんです」
そこへ先程火の魔法の実習教師がやって来た。
「ローレンスはベアトリス・カラベッタ先生を探してるのですか?」
「はい。どちらにいらっしゃるかご存知ですか?」
「先生なら先程まで寮の方にいましたよ」
「そうですか。ありがとうございます」
"あっ"と教師は和司達の方を向いた。
「自己紹介がまだでしたね。私はイヴ・スコットと言います」
「これは失礼。自分は前川和司といいます」
「春日弘也です」
「ナスティア・バートニックです」
「・・・・・・」
三人が挨拶をする中、ハルカだけボケっと突っ立っている。
「ほらハルカ。自己紹介」
和司はハルカの頭を押さえて無理矢理会釈させた。
「・・・ハルカ」
「先程の魔法は見事でした。生徒達にもいい刺激になったでしょう」
「刺激が強すぎたのでは?」
「私はこれから寮へ行きますが、皆さんはどうされますか?」
「案内役がいないんじゃ学校見学もできないし、付き合うよ」
「ご迷惑お掛けします」
ローレンスの案内で和司達は教師寮へと向かった。
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