遠い南の島からの便り(閑話)
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「……ところでアロイスさん」
「どうした? 」
話を聞き終えたナナは、とある事を気にして、それに関して尋ねた。
「副隊長さんっていうのは……リンメイさんでしたっけ」
「そうそう。リンメイだな」
「はい、リンメイさんですね。今は、その……彼女とは、それからどうなったんですか? 」
話に出てきた彼女は、誰よりも美しく、誰からの憧れでもあったようだった。
別に、アロイスさんが彼女とどんな繋がりがあろうが関係ないけど、と思いながらも、ナナは気になって尋ねてしまった。
すると、アロイスは苦笑いしながら答えた。
「いやぁ、それから2年後かな、告白したんだ」
「こ、告白……」
何かが、ガンッとナナの頭を鳴らす。
「結果は……」
と、恐る恐る訊く。アロイスは、恥ずかしそうに言った。
「いやはや、玉砕しちまったんだよなー。今思い出しても、色々と酷かったぞ」
「フラれたって事ですか? 」
「うん。ていうか、告白したのには、ある理由というか、事件があってね」
「ある事件……? 」
ナナの、アロイスに対する尽きない興味。アロイスは、事件に関して答えることに一瞬躊躇ったが、それを説明した。
「……実は2年後に、当時の部隊長が冒険中に事故で亡くなったんだ」
「な、亡くなったって! 」
「それで副隊長だったリンメイが、段的に部隊長を継いでね……」
その時だ。アロイスが、今なお考えても卑怯だったかなと思う事を言ってしまったのは。
「部隊長が亡くなって、消沈してたリンメイを見ていられなくてなぁ。もともと好きだったし、そこで声をかけたんだ。俺がリンメイを支え、絶対に守るから、俺と一緒になってくれって」
そして、その結果が。
「それで玉砕。ハハ、リンメイの奴、俺を振った時の台詞、何て言ったと思う」
アロイスは笑いながら言う。
ナナは「何て言ったんですか? 」と、尋ねる。
「うん。アイツさ、こう言ったんだ。……私より弱い奴に守られる馬鹿がどこにいる。弟に愛されて嬉しいが、私は姉弟で恋愛する気もないと。まさに、粉砕玉砕、最悪の一蹴だよ」
もちろん二人は実姉弟の関係ではない。長い付き合いで、リンメイにとっては、アロイスをそんな関係としか見なかったというわけだ。
「うわぁ、リンメイさん淡白な感じですね。でも、ちょっと格好良いかも……」
「お、分かるか。そうなんだよ。ふられた悲しみより、アイツってば格好良くてさぁ……」
「ふふっ、アロイスさんのお姉さんだけありますね」
「そうかもしれん。で、それから更に2年後かな。リンメイがな、急に冒険団を辞めるとか言い始めてさ」
「こ、今度はどうしたんですか ?」
冒険団クロイツは、目まぐるしい世代交代が続くらしい。
「なんか、他にやりたいことを見つけたから、だとさ。それだけ言い残して、すぐ姿消しちゃってさ」
「あはは……。でも、リンメイさんがやりたいことって何なんでしょうかね」
「アイツの考えてることは、よーわからん。だけど、それで俺が部隊長になって、世界一になって、少しは強い先代たちに恩返し出来たのかなって思ってるよ」
色々と思い出して、はぁーっと溜息を吐く。
アロイスの長い思い出話は、ナナにとって、どこかワクワクして、どこか悲しくて、だけどどこか楽しげで、ずっとずっと聞いていたいなと思えた。
そしてまだ、ナナにとって、気になることがあった。
「色々お話有難うございました。因みに、リンメイさんとは連絡は取られているんですか? 」
「いやいや、取ってないよ。どこにいるかすら分からないからな」
「そうでしたか。では、もう一つ質問なんですが……」
「何だ? 」
ナナは、感情的な質問をアロイスにぶつけた。
「もし、今リンメイさんがこの場に現れて、アロイスさんに一緒に来てくれって言ったり、付き合ってくれとか言われたら……どうしますか」
出来ることなら、本心では肯定していても、私の前では否定して欲しいと願った。
すると、アロイスは、その質問に間髪入れず答えた。
「そりゃ勿論、一緒に行きたいねぇ」
「……っ! 」
行きたいんだ。
トクン……と、ナナの心が鳴る。
だが、アロイスの回答は以下に続いていた。
「そりゃ勿論、一緒に行きたいねぇ。昔、だったなら」
「む、昔……! じゃあ、今は……! 」
「今は有り得ないな。絶対に無い」
「そうなんですか! 」
「ナナと一緒に酒場やってるほうがずっと楽しいし、もうリンメイは姉としか見てないよ」
「アロイスさん……! 」
どうしようもなく嬉しくなる言葉だった。ナナは思いがけず、溢れる笑みを隠せなかった。
「そ、そんなに楽しい話だったか? 」
「はい、とっても。えへへ、何か……有難うございます」
「なんか分からないけど、こ……こちらこそ」
アロイスは彼女に合わせ、後頭部を押さえながら、小さく頭を下げた。ナナは嬉しそうに笑ったまま、ガッツポーズを見せる。
「えへへ、そっかぁ。アロイスさん、是非一緒に、これからも酒場を盛り上げましょう! 」
「お、おう……? 」
妙に浮かれたナナに、クエスチョンマークを浮かべるアロイス。
だけどまぁ、彼女が幸せそうならそれで良いか。
今、この瞬間にナナが笑顔になってくれているのなら、それで良い。
(ナナ、急に笑顔になったな。なんだ、もう赤い羽根は幸せを持ってきてくれたのかねぇ? )
彼女が幸せそうなら、俺も幸せな気持ちになれると、つい微笑んでしまった。
…………
…
【 遠い南の島からの便り 終 】




