親子の絆(2)
キュウリのカクテル。
何と不思議な響きだろうと、ナナはおかしくて笑ってしまった。
「キュウリのカクテルって、キュウリのお酒ってことですか?」
「うむ。国によってはかなり有名なお酒なんだぞ」
「へぇー、美味しいんですか?」
変わったお酒だが、そこまで有名ならきっと美味しいのだろう。しかし、その質問をぶつけた途端、アロイスは目を逸らした。
「それはー、後で飲ませた時のー、お楽しみってことでー、とりあえずキュウリやら食材の買い物に行こー……」
アロイスは棒読みのように言って、耳を押さえ、あっという間に外に出て行った。
「えっ。ま、待ってくださいー!?」
先に出て行ったアロイスを追って、ナナは慌てて外に飛び出す。そしてそのまま、カントリータウンの商店通りに向かってしまうのだった。
(な、何で教えてくれないんだろ……)
その道中、二人は雑談を交わしたが、アロイスは決してキューカンバーについて触れず。結局、商店通りに到着しても、その味に関して一言も喋ることはなかった。
(キュウリのカクテルって、どういうことなのか気になるのにー……)
あんな言い方されたら、どうしても気になる。
だけど彼は何か考えがあって隠しているようだし、尋ねても答えてくれないだろう。
(気になるけど……まぁ、いっか)
後で飲ませてくれると言っていたし。飲むことを楽しみにしていよう。
(……て、あれっ?)
と、ナナがそう思った時。
向こう側に見えたゴブリン工務店から、何か怒鳴り声が聴こえてきた。
「また何か騒いでいないか、アレ」
アロイスも気づいて、指差しながら言った。
「はい。何か騒がしいですね……」
あの、カパリのゴブリン工務店が何やら、またまた騒がしいようだ。
最初は「また他所者に怒鳴ってるのか」と思ったが、店に近づいた時、店の扉が開いて転がり出てきたのは、冒険者ではなく、カパリと同じゴブリン族の若い青年であった。
「ゴ、ゴブリン族か?」
アロイスが驚く間もなく、そのゴブリンの青年は店内に向かって何か大声で叫ぶと、あっという間にどこかへと走り去って行ってしまった。
「なんだぁ……?」
「な、何でしょうか……」
二人が呆気に取られていると、ゴブリン工務店内からのそりと誰かが現れた。それは工務長のカパリで、飛び出したゴブリンの青年の方を見たあと、こちらに気づき、彼はゆっくりと二人に近づいた。
「……なんじゃ、アロイスとナナか」
「あ、はい。おはようございます」
「おはようございます」
アロイスとナナは頭を下げ、挨拶した。
するとカパリは「はぁぁ」と深く溜息を吐いて返事した。
「おはよう。しかしなんじゃい、最悪なタイミングで来おって。格好悪いところ見せてしまったのう」
彼はそう言うが、アロイスはその意味が分からない。と、そこでナナが口を開いた。
「カパリさん。最初、気のせいだと思ったんですけど、今の飛び出した方ってもしかして……」
ナナは何か知っている様子で言う。それについて、カパリは静かに頷いて言った。
「ああ。息子のラダじゃよ」
「やっぱり……!」
アロイスは知らなかったが、工務長カパリには息子『ラダ』がいた。
彼はゴブリン工務店の跡継ぎ候補で、父親と同じく息子も腕利きと評判高く、部下たちの信頼も厚い男だった。カパリも息子ラダの腕を買って重要な役割を任せるほど互いに信頼し合い、仲睦まじいと有名であったはず…………なの、だが。
「カパリさん、ラダさんと何かあったんですか。飛び出していきましたけど……」
どうみても喧嘩をしているように見えて、ナナが尋ねた。
その途端カパリは「かぁーっ!」と言って、怒りを露わにした。
「どうもこうも無いわい。あの馬鹿息子がのう、、今朝方に突然、俺は冒険者になるって言い始めやがったんじゃ!」
それを聞いたナナは驚きの声を上げた。
「えぇっ、あのラダさんがですか!?」
「ああ。本当にふざけおって。じゃから、あんなヤツ、破門だと言って追い出したんじゃ!」
心底苛立ち、額に血管を浮き立たせて言うカパリ。
確かに、跡継ぎまで任せようと思っていた息子が突然「家を出て冒険者になる」なんて言われたら怒鳴り声の一つも上げてしまうかもしれない。
「まぁ、そういうことだ。もうワシは、あんなヤツは知らん。今日は店じまいして寝るわい!」
そう言ってカパリは店の中に消えようとする。
ところが、ナナはそれを「待って下さい」と、止めた。
「なんじゃいッ!」
カパリの怒鳴り声にナナは体を震わせる。が、負けずに口を開いた。
「あの、もしかしてのお話なんですけど……」
「何じゃ!」
「冒険者についてのお話で、ラダさん、何か仰ってませんでしたか」
「何かって、何じゃい!」
「あの、えっと……。例えば、冒険者になるのはお店の為だ……とか」
訊いてみたが、カパリは、その場では聞く耳を持たず。
一言「知らんッ!」と言うと、さっさと店に戻り、扉を閉めてしまったのだった。
「……っ!」
バンッ!と閉められた扉に、再び身体を震わす。
あまりの勢いと迫力で二人は暫く沈黙するが、少し後、アロイスはようやく口を開いた。
「ナナ、一体どうしたっていうんだ」
「アロイスさん……」
カパリに息子がいたことも知らなかったが、ナナが彼に質問した意味も良く分からない。ただ一つ、アロイスが言えることといえば……。
「カパリさんに噛み付くなんて、止めた方がいいぞ。断片的にしか話は分からないが、今回の件についてはカパリさんが怒る理由も分かる気がするからな」
先ほどの話を聞く限り、信頼しあっていた親子関係が崩れかねる発言をしたのは息子のラダだろう。
アロイスは、今回の件に関しては彼らの問題であって部外者が突っ込むべき話じゃないと伝えたが、ナナは「違うんです」と首を横に振った。
「私、もしかしたらラダさんが冒険者になるって言った理由を知ってるんです」
「……理由?」




