後日談――エコ活動の成果報告
それからしばらくして―
人間界では、「エコ」を掲げる活動が急速に広がった。
太陽光発電、風力発電、電気自動車、省エネ家電、蓄電池。
企業は競って環境性能を宣伝し、人々も積極的にエコ製品を購入するようになった。
テミス:「……成果が出ているようですね」
ヘルメス:「うまくいったよ!」
テスラ:「技術革新も進んでいます」
ところが。
テミスの元に、別の報告が届いた。
【報告:エコ製品製造に伴う環境負荷の増大】
テミス:「…………」
ヘルメス:「どうしたんだい?」
テミス:「エコ製品を大量に作るため、鉱山開発が活発化しています」
ヘルメス:「……ん? どうだったかなぁ」
ヘルメスが視線を逸らした。
テミス:「さらに、太陽光発電所の設置のために、森林を伐採する事例も」
アポロン:「待て」
テミス:「はい」
アポロン:「森を切って?」
テミス:「はい」
アポロン:「環境に優しい発電所を?」
テミス:「……はい」
アポロン:「これは、私の責任ではない、よな」
動揺するアポロンを置いて、テミスは説明を続けた。
テミス:「どうやら、人類は『エコ』という言葉を少々誤解しているようです」
テスラ:「製品の使用段階だけを見ているのでしょう」
テミス:「はい。製造、輸送、廃棄まで含めて考える必要があります」
ヘパイストス:「作るために使った資源も、無視できねぇな」
アテナ:「何が起きている?」
全員の視線が、ヘルメスへ向いた。
テミス:「まだ使える製品を捨てて、新しいエコ製品へ買い替えています」
アテナ:「…………」
テミス:「さらに翌年、もっと環境性能の良い製品が登場すると――」
ヘルメス:「また買う。新たな需要を創出し、経済はとても潤った」
テミス:「はい」
プロメテウス:「……エコを理由に、消費が増えてるが」
ヘルメス:「環境を変えるには人の力が必要。人を動かすには利が必要。人は利を優先する。人類は難しいものだね」
ヘルメスに、悪びれた様子はなかった。
そういう神だった。
会議場の皆が、思い出した。
コツ。
―木槌が小さく打ち鳴らされた―
テミス:「前回の決議は、そういう意味ではありません」
テミスはホワイトボードに書いた。
エコ製品を買うこと ≠ 必ず環境負荷が減ること
テミス:「エコという言葉だけで判断してはいけません」
テスラ:「製品の一生を通じて、何がどれだけ消費されるのかを考える必要があります」
アテナ:「つまり――」
テミス:「はい」
アテナ:「まず、本当に必要なのかを考える、ということだな」
テミス:「その通りです。巧みな口車に乗せられてはいけません」
テミスがヘルメスを見た。
ヘルメスは、明後日の方向を向いていた。
◇後日談――神々への普及状況
エコについての報告会の後、黙って報告を聞いていたゼウスが口を開いた。
ゼウス:「ところで、エコ製品って何か良いものがあるのか?」
ヘルメス:「最近、最新型の電動ソリが人気ですよ。とてもエコで、多機能らしい。さらに今なら、エコ割引が20%つくよ」
ゼウス:「おお! 買おうかの!」
テミス:「現在のソリは?」
ゼウス:「まだ使えるが?」
テミス:「…………」
ゼウス:「でもエコなんだろ?」
……コン。
―木槌が打ち鳴らされた―
テミス:「…………」
プロメテウス:「お前ら、今回の会議で何を学んだんだ?」
ゼウス:「雷は偉大である!」
ヘルメス:「エコは儲かる!」
テミス:「そこからですか!」
テミスは議事録の末尾に、静かに一文を書き加えた。
『なお、神々に対する意識改革についても、審議を要する。』




