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推定有罪  作者:
5/5

不審者 02

 たくさんの丸い背中がゆっくり持ち上がり、通路で合流して外に吐き出されていく。

俺は、列の最後にいる女性がバスの中央まで進んだところで立ち上がり、後ろについた。

俺よりも背が高いその女性は、夏なのに黒い長袖のTシャツを着て、幅の広いジーンズをはいている。

肩まで伸びた強いパーマの髪が湿気を吸って、大きく膨らんで暑苦しい。


 女性が、運賃箱に小銭入れからざらりと硬貨を入れて、降りようとしたところで運転手が制止した。


「あと二十円足りません」

「え?」


 すっとんきょうな声が聞こえた。高い声が意外だった。


「あと、二十円です」

「ちょうどを入れたはずなんですけど」

「いえ、二十円足りません」

「あれ……どうしよう。お金、ないんですよね」

「困りますよ」


 女性は、苦笑いを浮かべ、小銭入れを覗いて、現金がないことをアピールしている。


「あの、よければ、立て替えますけど。二十円、ですよね?」

「いいんですか?」

「二十円ですから」


 俺は、財布から二十円を取り出し、女性に渡す。


「助かります」

「いえ」


 女性は、運転手に深く頭を下げ、運賃箱に二十円を入れた。

俺も女性に続いて運賃を運賃箱に入れてバスを降りると、女性がこちらを向いて立っていた。


「あの、ありがとうございました」

「気にしないでください。返さなくてもいいので」

「すみません ありがとうございます」


 女性は、深くお辞儀をしたまま、大きな声で礼を言う。


「いやいや、本当に、大丈夫ですから」


 女性が頭を上げたとき、初めて顔を見た。

色の薄い丸いサングラスをかけ、化粧はしてないけれども、整った顔をしていた。

首には、大きなビーズがたくさんついたネックレスがぶら下がっている。

互いに再度会釈すると、その場を離れた。


 雨は、いつの間にかあがっていた。

駅の近くにある喫茶店に入ろうとロータリーを歩いていると、警官二人がこちらに向かってくる。


「何してるの?」

「喫茶店に行こうとしてるんですけど」


 二人の警官は、行く手を遮るように俺の正面に立ち、厳しい表情で見定めている。


「名前は?」

「宮本蒼太です」

「免許証持ってる?」

「はい」


 財布を取り出そうとまごつく様子を警官がじっと見つめている。

免許証を手渡すと、左側の警官が無線で俺の名前と免許証の番号を伝えた。


「あの、何ですか?」

「職務質問や。ポケットの物、出して」


 手に持っていた財布とスマートフォンを手渡す。

遠巻きに中年の女性の二人組がこちらを見ている。

顔が見えないように、少し体の角度を変えた。


「これで全部です」

「ちょっと中を確認させてもらうよ」


 財布の中を確認している警官に、左側の警官が照会した内容を伝えた。

財布を確認する警官の手元をじっと見てしまう。

狼狽える自分を抑えるのに精いっぱいだ。


「はい、行っていいよ」


 財布とスマートフォンをまとめて手渡され、あっけなく解放される。

身構えていたこちらの思いを無視して、警官は俺に背を向けた。


「なんなんだ」


 思わず独り言を漏らす。ロータリーの植えられたばかりの街路樹で蝉が一人鳴き始めた。

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