ゲオルグの別れ
ヴィッキーから呼び出されて、私は城の執務室へ行った。
彼女が自殺未遂を起こしてから一度も会うことができなかった。
私は、殿下の側にお仕えする事が何よりも大切だったから、家族の言われるまま身を固めるしかないと思い婚約を受け入れたが…まさか、ヴィッキーがあんなふうになってしまうなんて…。
「…久しぶりね。ゲオルグ。」
彼女は少し痩せたように見えるが、落ちつきを取り戻したようだ。
「ああ…体調は?」
「ええ、だいぶ落ちついた。ごめんなさいね、先日はあなたを困らせるような真似をして。」
「いや…。私こそ…。」
ヴィッキーは私の目を見ると、
「あたしね、婚約するの。」
とはっきり言った。
「…え?本当に?」
「ええ。再従兄弟のミハイルと。」
「…彼はリネア様と婚約されたのでは?」
「そうだったんだけどね、解消して、あたしとする事になったのよ。リネアはフリッツと婚約するの。」
「…殿下が?本当に?」
「…やっぱり、最初にフリッツの事に反応した。」
ヴィッキーが笑う。
「あ、悪い…。その…。嬉しくて、本当に?」
「ええ。」
「しかし…何故君がミハイル様と?」
「…まあ、それならあたしもなんとか耐えれそうだったから。」
「…よく分からないが…。複雑だ。」
「それでね、あたし、リネアとメルア大陸に行く事にしたの。今日はそれを伝えたくて…。」
「いつ?」
「明後日。」
「え?」
「だから、結婚式には出れないから。」
「…。」
ヴィッキーが気高く笑う。
「あたし、幸せになるから。だからあなたも幸せになってね。可愛い弟と、義理の妹をよろしく頼んだわよ?」
「…ああ。」
泣きそうだ…。
彼女が遠くへ行ってしまうなんて…。
「ゲオルグ」
「ああ」
「今度生まれかわったら、身分のないところに生まれてあなたと一緒になりたい。」
「…ヴィッキー…。私もだよ。」
「元気でね。」
「…ヴィッキーも…。」
「うん、楽しかった。今迄ありがとう。」
「私こそ、ありがとう…。」
ヴィッキーは微笑んで部屋を出ていった。
私の初恋の女性…。
大好きだった。
叶うなら一緒になりたかった…。
でも、これで私も諦められる。
前を向いて進んでいける気がする。
◇◇◇
殿下が執務室に戻ってきた。
「殿下…。先ほどヴィッキーが…、ヴィクトリア様がこちらにいらっしゃいました。」
「ああ、聞いたか?」
「はい。…殿下、おめでとうございます。」
「ありがとう。」
「…みんな幸せになれるといいな。」
「はい。」
「まぁ、俺は絶対幸せになるから安心しろ。」
「…はい、分かっています。国王様は?」
「ああ、先ほどリネアと報告しに行った。父上も母上も喜んでいた。」
「でしょうね。」
「ただ、リネアはこれからメルア大陸へ二年ほど行ってしまうから全く婚約した気分は味わえないんだ。その上、あちこちで気に入られるから心配がつきない。」
「…大変ですね。」
「そうなんだ。変な奴を好きになると色々大変だ。」
そう言って殿下は嬉しそうに笑った。
「…ミハイル様は?」
「あいつもカジノが起動に乗ったら帰国する事が決まった。あと少しだな、一緒にいられるのも。」
「…寂しいですね。ルイーズ様やルドルフ様もあと半年で帰国されるんでしたよね?」
「ああ。でもみんなそれぞれ役割があるから仕方ない。それに俺にはお前がいるしな。お前がちゃんとしてくれないと俺が困るんだ。」
「…はい。」
「だから、お前も幸せになれよ。」
「…殿下の側にいられるのが私の幸せですから。」
「まあ、それは知っているが、それ以外もな。」
「…努力します。」




