動揺
私はフリッツの話をリネアに伝えたくて電話した。
父上はすでに帰国したこと、セルゲイはバレエでいないこと、他の二人もソフィアのところにいることを確認してから話を始めた。
「…だから?」
「だから…って。君は平気なの?」
「…平気も何も私たちは婚約したんだよ?フリッツが別の人のところに行くのは仕方ないよ。」
リネアは私が想像したよりずっと冷静だった。
普段下らないことには慌てたりするのに、
深刻な話の時は落ち着いているのが不思議だ。
「だってずっと三人で一緒だったのに…。」
「ユーラ…。私たちが婚約した時点で遅かれ早かれ同じ事になるのは分かっていたよね?」
「リネア…。君は平気なの?一番好きなフリッツが他の女性と結婚するんだよ?」
「…ユーラはショックなんだね?フリッツが他の女性と結婚するのが…。」
「…頭が混乱してる。君にこんな話を言うのは滅茶苦茶だって分かっているんだけど、君としかこんなこと話せないし…。フリッツを失いたくないのは君以上に私なのかもしれない。」
「私だって嫌だよ。だけどユーラは私を選んだし、私もユーラを選んだ。ユーラはフリッツが私をいつまでも諦めないとでも思っていた?」
「思ってた。だから結婚するまでずっと三人でいられると思っていた。」
「ユーラ…。フリッツは恋愛より国の事が一番大切だからそれなりに楽しく生きていけると思うよ。」
「だから何故君はそんな冷静でいられる?君はフリッツと離れてもいい訳…?」
「…ユーラはどうしたいの?ユーラがフリッツと結婚できる訳じゃないんだよ?」
「…君と離れたくない、それくらいフリッツとも離れたくない。彼の近くにいたいんだ。物理的じゃなくてもいいから。ただの友人には戻りたくない。私の言っている事、我が儘だし滅茶苦茶だよね…。」
「…だね。セルが聞いたら怒るよ。」
「君は…本当に私でいいの?」
「ユーラ…。私はフリッツが好きだけど、ユーラも好きなんだよ。分かってるよね?ユーラはすでに家族みたいなものだし、ユーラの家族も家族同然なんだ。だから結婚に不満はないよ。」
「…ヴィクトリアがさ…。」
「ヴィッキーが?」
「私と結婚しないか?って半分冗談で言ったんだ。…そしたら君はフリッツと結婚できるし、私はフリッツと兄弟になれるって…。そう言えば結果的に君も私の義理の妹になれるんだよね。」
「滅茶苦茶だなぁ…。それで?兄弟案にぐらっときたの?」
「だからなんで君はそんなに冷静な訳?」
「いや、普段落ち着いてるユーラが動揺しまくっていて面白いから…。」
「リネア…。」
「ユーラとヴィッキーがねぇ…。それも複雑だなぁ…。ユーラをあげるの?私のなのに?」
'私の'という言葉が嬉しい。
「…三人で結婚できたらベストだけど。」
「ヤバい。ユーラ…。おかしくなってるよ。お酒でも飲んでる?」
「少し…。」
「はー…。」
「リネアにため息つかれるなんて…。」
「ユーラが一番幸せになれる選択をしなよ。やっと自分の人生を好きに決めれるようになったんだから。」
「私の…?」
「うん。ユーラにとってフリッツと離れない事が一番大切ならヴィッキーを選んでもいい。私との未来を選びたかったらそれでいい。」
「私が…選ぶの?」
「うん、ユーラが幸せになって欲しいから…。」
「…私も同じなんだ。リネアとフリッツ、どちらも幸せになって欲しい。」
「…こんな話、電話でする話じゃないんじゃない?」
「…困ったな…。こっちにこれる?絶対に父上に知られないように。」
「…飛行機が使えないとかなり時間がかかるよね。」
「私がお金を払って飛行機をチャーターする。」
「高いよー?」
「それでも良い。確かにこんな話電話で話す事じゃないな。」
「…じゃあ飛行機がとれ次第、そちらに向かうから。」
「…ごめんね、君の予定は大丈夫?」
「なんとかするよ。メルア大陸に行く前でよかった。セルにはなんて言う?」
「…カジノの最終確認と伝えて。」
「…無理があるなー。」
リネアが笑う。
昔からフリッツの気を引きたくて嫌がらせをしてた。
いつの間にかそう言う気持ちはなくなって、ただ側にいるだけでよかった。
彼の役に立てること、何かを一緒にできること、同じ価値を共有していく事、それが嬉しくて、幸せだと思った。フリッツは私の未来に絶対になくてはならない人なんだ…。
ただの友人になんてなりたくない。
彼の特別でいたい。
永遠のライバルでいたい…。
フリッツがリネアを諦めるなんて思わなかった。
フリッツがリネア以外を望むなんて、
そんなの見たくない。
リネアと強引に婚約を決めたのは私なのに、
そんな私を二人とも受け入れてくれた。
私との未来を、私を信用してくれた。
リネアとフリッツ、どちらも失いたくない。
ずっと側にいたい。
私は…。
私の幸せは…。




