姉上とミハイル
姉上の自殺未遂事件以降、俺の側近のゲオルグが全くつかいものにならない。
姉上が心配で全く仕事が手につかないらしい。
俺はなんとか状況を改善するべく父上に相談してみた。
「…姉上とゲオルグを結婚させる事はできないんですか?」
「…できない訳じゃない。だが王族、しかも我々がその前例を作るのはまずい。今のフレーデル王国では王族は基本的に王族と、最低でも公爵家としか婚姻を認めていない。」
「…姉上は姉上で精神不安定だ。ミハイルと交代で常に確認しなきゃいけないし、ゲオルグまでおかしくなりはじめている。このままでは非常に困ります。結婚式を迎えるころにはどうなっている事やら…。」
「ミハイルがヴィクトリアの世話をしてくれているのか?」
「ええ。食事から心のケアまですっかり世話になっている状態です。俺の雑務も引き受けてくれるし、現状なくてはならない存在になっています。」
「まさかミハイルがなぁ…。あれは父親よりずっとまともだな。」
「ええ。本当に…。リネアの婚約者であるのがネックですが。」
「…ミハイルならヴィクトリアと結婚できるんだがな…。ロマノ家は元々王族だし。いや、あれと親戚になるのは…。いや、しかし…。」
「父上?」
「…いや、やめておこう。ニコライじゃあるまいし。」
…父上が何を言おうとしたのかピンと来てしまった。
リネアとミハイルが婚約したことを父上は悔しく思っていた。元々リネアを気に入っていた上に彼女の交遊関係や仕事の能力を高く評価していた。多分父上はこう言いたかったのだ。
'ミハイルがヴィクトリアと結婚し、フリードリヒがリネアと結婚すればいいのに'と…。
確かにミハイルが跡を継ぐならロマノ家との婚姻も悪くないと考えるだろう。しかもそう遠くない将来、リスラ共和国は王政に変わる予定もある。
だが、やはり父上の期待する事の可能性はないだろう。
ミハイルはどんな条件より、国を捨ててでもリネアを選ぶだろうし、リネアもさすがに婚約解消を期待はしていないはずだ。
だが…
俺だってリネアを選びたかった。
俺が見つけた時は少年のようだったのに、いつの間にか誰もがふりかえるほど美しい女性になった。
最近はセルゲイに牽制されてなかなか二人で話せないが、彼女の元気そうな姿を見れるだけでやっぱりドキドキする。
もうほとんど可能性もないのに諦めが悪いのはきょうだい揃って同じだな…。
◇◇◇
俺がミハイルの家に戻ると姉上とミハイル二人がおかしな会話をしていた。
俺はなんとなく気まずくて部屋に入れずドアの前で立ち聞き状態になってしまっている。
「…ヴィクトリア…今、なんて言った?」
「だから、あたしと付き合った事にしてほしいの。」
「いや…無理があるよ。私がリネアと婚約していることは侯爵も知っているはずだし、いかにもその場しのぎの嘘を言っているようにしか聞こえないんじゃない?」
「なんとか演技でごまかせないかしら?あいつ、落ち込んでつかいものにならないってあちこちで言われてるみたいで。あいつのそんな姿…耐えられないの。今のところあなたくらいしかあたしの周りに婚約対象になれる人いないし。」
「…はー…。仕方ないな。今回だけだよ?こんな話がひろまったらお互い困るし、結婚するまでだからね?」
「恩に着るわ。あなたには今回本当に感謝してる。」
「…誤解しないでよ?私はフリッツの為にしてるだけだから。」
「分かってるわよ。大切な妹みたいなリネアの婚約者を奪ったりしないわ。あたしが好きなのはゲオルグだけだし…。ねえ、だけどさ、変な話、リネアにとっては悪い話じゃないのよね?」
「…やだよ?フリッツにリネアはあげないよ?」
「…あたし、リネアには好きな人と幸せになって欲しいの。」
「あのさ、失礼じゃないか?リネアは確かにフリッツが好きだよ?だけど私の事もちゃんと好きだって私は知ってる。」
「でも、あたしと結婚したらフリッツの兄弟になれるのよ?悪い話じゃなくない?」
「…君は私と結婚したい訳?」
「…ミハイルなら諦められるわ。」
「言い方…。」
「だって昔から知ってるから気を使わないし、あなたの良いところもフリッツからたくさん聞いているもの。リネアが選ぶくらいだから安心だし。」
「君の発言は色々おかしい。侯爵と別れて自暴自棄になっているのは分かるけど私は対象外のはずだよ。そもそも私はリネア以外100%ないから。」
「リネアに電話して、あたし直接聞いてみるわ。」
「ヴィクトリア…。冗談だよね?」
「いいえ?リネアが良いっていったら考えてみてくれない?真剣よ?馬鹿げているのは承知だけど。」
「…」
ミハイルが物凄く困っている。聞いている分には面白いがやはり気の毒だ。酒に酔った中年男性に絡まれているようなものだ。姉上も質が悪い…。
ただリネアがなんて答えるのか正直気になるところではある。
黙って様子をみるべきかとめるべきか…。
「電話はしない。」
「怖いの?」
「君は分かってない。私がどれだけ時間と労力をかけて彼女を婚約者にしたのか。私はくだらない冗談で彼女を失うつもりはないんだよ、彼女には付き合うふりをする事は話すし、彼女を試すような事はしたくない。リネアが本当に大切なんだ。分かって欲しい。」
「…ごめんなさい。悪ふざけしすぎたわ。」
「…侯爵の件はつきあうことにする。フリッツの仕事に支障がでてもいけないから。ただ、それ以外はないよ。私はリネア以外ない。」
「…本当にごめんなさい。発言に気を付けるわ。」
気まずくなりドアから離れようとした瞬間、ミハイルが部屋から出てきた。
「…立ち聞き?」
「悪い…。部屋に入ろうとしたら入りにくい状況になってた…。」
顔が赤い…?
「…ヴィクトリアにちゃんと言っておいて。これ以上変な冗談は言わないように。」
「ああ…。なんか…悪かったな。」
ミハイルはそのまま部屋へ行ってしまった。




