私とフリードリヒ
「お前さ、リネアの事好きなのか?」
私は行きたくもないフリードリヒの部屋に呼ばれて話をする事になった。ビールが2本テーブルに置かれた。
「…なんであんたとこんな話しなきゃいけない訳?」
「一応聞いておこうと思って。お前こっちにいた時は怪しい奴だったからな。」
「あんたも十分怪しいよ。」
「いや、俺はまともだ。お前達兄弟に比べたらな。」
「…帰る。」
やっぱり来るんじゃなかった。感じ悪い奴だ。
「まあ待て。どうなんだ?お前あの頃に比べたら随分まともな感じになったし、リネアがあれだけ可愛がってるんだから…。」
「…そう思う?」
「可愛いって言っていたぞ。」
「…」
リネア…こいつにまでそんな事言ってくれたんだ。
「リネアだけが私に向きあってくれたから。私の為にあの父親と話をしてくれた。リネアがいなかったら私は今もあの頃とおなじだったはずだ。もう…昔には戻りたくない。」
なんで私はこんな事をこいつに言ってるんだろう。
「…良かったな。」
「…あんたには関係ない話だけどね。」
「そうでもない。俺は自分が始めた事は必ず成功さするつもりだし、お前に避けられ隠し事ばかりされていたら、うまくいくものもいかなくなるだろう?」
「私は仕事は仕事と割りきるつもりだよ。そこまでバカじゃない。」
「ならいいんだ。…お前はいいなぁ。」
「なんで?」
「リネアとずっと一緒にいれて。」
何言ってるんだ、こいつは。
「いるだけだよ…。私の事なんか、なんとも思ってないし。」
「いれるだけでいい。楽しいしワクワクするだろ?初めて会った時から変な奴だったからな。」
「…そうだね。一緒にいるとびっくりする事もあるけど楽しいよ。」
「…セルゲイ、イーチェンをどう思う?」
「…父上と同じ質問をするんだね。」
「少し気になって…。」
「…リネアにも兄上にも言っていないけど、イーチェンはエンゲル王国の名の知れたドラッグのブローカーと繋がってる。」
「…。」
「どうして父上が彼を婚約者の候補に入れたのかよく分からない。私が言うのもなんだけど彼は色々隠している事があるはずだ。」
「何故二人に言わない?」
「一緒に店を始めたばかりだし、ギクシャクしたくなくて…。」
「ヤバイと思ったらミハイルに言えよ。ミハイルも警戒はしているから。」
「…分かった。」
「セルゲイ、なんでお前は俺の事を嫌ってるんだ?」
「リネアと仲が良いからだよ。あと明るいしいつも楽しそうだし…。」
「そうでもないけどなぁ。そういう印象かもしれないが結構孤独だし、あまり人を信用できないから一人でいる事が多い。リネアを好きになる奴ってそういう奴ばっかりじゃないか?」
「…言えてる。」
「まあお前も無理に俺と仲良くしようなんて思わなくてもいいが、名前くらいは呼んで欲しいな。」
「…なんて?」
「フリッツと。」
「…。」
兄上やリネアと同じ呼び方…。
「ねえ。」
「何だ。」
「何でリネアを好きになったの?」
「…可愛いだろ?全く思い通りにならない所も俺を優先してくれない所も。」
「…変わってる。」
「そうか?簡単に手に入らない方がありがたみがあると思わないか?」
「…。それはそうだね。」
「セルゲイ…」
「何?」
「お前は思っていたより良さそうな奴だ。俺はリネアの近くにいれないからお前が何かあったら守ってくれよ?」
「…分かった。」
何か…こいつって…
リネアと似てる気がする…。
どうして兄上が彼を気にしていたか、何故リネアがこいつを選んだのか…、何となく分かった…。
「だけどリネアは渡さないからね。」
「それはお互い様だ。」
「…そうだね。…フリッツ。」
「何だ?」
「カジノ…絶対成功させよう。」
「ああ。よろしくな!」
◇◇◇
帰宅した僕がフリッツの部屋を訪ねるとセルはすでにいなかった。フリッツは仕事をしていたみたいだ。
「セルは?」
「さっき部屋に戻った。」
「そっか…。話はできたの?」
「ああ、一応カジノも乗り気になってくれたみたいだ。」
フリッツは僕にコーヒーを入れてくれて、僕たちはソファーに座った。
「…よかった。あの子、誰からもちゃんとした愛情を感じる事なく育ったからさ、なかなか他人を受け入れられないんだ。」
「お前は母親代わりか?」
「兄だったり姉だったりだね。」
「…なんとなく理解した。ミハイルもセルゲイもお前といて本当に変わったからなぁ。」
「そうかな…。でも、確かに二人とも大夫穏やかになったよね。胡散臭さもなくなったし。」
「だなぁ。俺のリネアはすごいな。」
フリッツが僕の膝に頭を乗せる。
「そうかな?」
「あぁ。違法取引はあってはいけない事だったが、それがなかったらお前と会えてなかったと思うとなんて言っていいか…。皮肉なものだな。」
「私も同じ事を思ってた。」
「リネア…。」
「ん?」
「明日でまた離れてしまうがこれからは定期的に連絡をとりたい。仕事の話も含めてな。一緒に何かやっていけるのが本当に嬉しいんだ。エンゲル王国でお前達を見た時お前達が楽しそうで正直妬ましかった。俺は久しぶりにワクワクしてる。」
「私もだよ。違法取引がこのような形で違うプロジェクトになっていくなんて、本当に嬉しい。」
「…ヴィルがいないけどな。」
「そうだね。でもヴィルとはまた違うプロジェクトで会えることに…あ!そうだ!それで思い出した!ルイがさ、そのうち合流するかもしれない。」
「なんだそれは?」
「私がメルア大陸に行くかもしれないって話をしたら一緒に行こうかなって…。」
「お前、さらに遠くへ行くつもりか!?しかもルイまで?!」
フリッツが不満そうな顔をしている。
「ルイとそのうちランク王国に視察に行くんだよ。」
「リネア…。お前そんなに色々出来るのか?」
「まあ何とかなるんじゃない?別に全部自分でやる訳じゃないしね。」
「それはそうだが…。」
「ニコちゃんも乗り気で視察についてくるらしいから多分実現する可能性は高いよ。」
「ロマノ大統領、お前を養女にして本当に得をしてるなぁ。スモーランドにとっては凄い損失だ。」
「そんな大したもんじゃないよ。だいたいニコちゃんがいたから実現できるだけで…。」
「'ニコちゃん'ばっかりだ…。」
「あれはパパだからね?」
僕は不満そうなフリッツの頭を撫でる。
またしばらく会えなくなるんだなぁ。
「次は…いつ会えるのかな?」
「なるべく早く、カジノの件を進めるから夏休みのどこかで会えるといいな。お前リスラ共和国に夏に行くんだっけ?」
「うん、一緒に旅行に行きたかったけど難しそうだね。」
「…仕方ない。今回会えたし、カジノの法案も通して準備に時間がかかるだろうから我慢する。」
「頑張ろうね。」
「ああ。」
フリッツが僕を引き寄せてキスをする。
「ん…。」
「リネア…。」
「何?」
「今日は寝かせないから…。」
えっ!?
「ちょっと…?」
「数ヶ月分するから。」
「えっ…それは無理っ。寝たいよ…。」
「飛行機で寝ればいい。」
滅茶苦茶だ…。
次の日候補地の視察を終えて、僕たちはエンゲル王国へ戻った。
ニコちゃんは僕たちを下ろしてすぐ帰国するらしい。
「セルゲイ、またね。バレエ頑張るんだよ。」
ニコちゃんがセルの頭を撫でた。セルは少し恥ずかしそうだったけど嬉しそうにしてる。
「はい…。」
「リネア、夏休み、楽しみにしているから。セルゲイもできれば連れてきて。飛行機は用意するから。」
「うん。あの…、ニコちゃん、色々ありがとう。」
「こちらこそ、君が馬車馬のように働いてくれるのを楽しみにしているからね。」
「…はい。」
「じゃあ僕は行くから、ミハイルによろしくね!」
そう言ってニコちゃんは帰国した。
ようやく日常に戻るんだ…。




