パーティーの前 1-1
「結局帰ってきませんでしたね。」
「…」
兄上が昨日の夜からもの凄く機嫌が悪い。
それもそのはず、帰宅すると私はドアに手紙が一通挟まれているのを見つけた。
差出人はフレーデル王国の皇太子から、手紙の内容はただ一行、「俺のだ」と一言だけ書いてあった。
私はただのいたずらではないかと言ったけど兄上は筆跡から間違いないと確信したようだ。
リネアが変なことに巻きこまれていなくなった訳ではないのはよかったが、連れ去った相手がリネアの恋人だ。ヴィルフリートが婚約者になったとはいえ2人は望んで別れたのではない、会えばどういう事になるか、想像はつく。
そしてリネアは戻ってこなかった。
私も嫌だとは思ったけど兄上はそれ以上に苛立ち落ち込んでいた。普段感情を滅多に表に出さない彼が酒を飲んで一晩中私に八つ当たりをしてきた。いい迷惑だ。
父上がこちらに来て、話ができてからというもの兄上は穏やかだった。リネアを心から好きで大切にしているのが分かった。リネアが兄上を変えた、そう思っていた…。
「まさかここまで来るなんて…。侮っていたよ。」
「兄上…」
「面白い。ライバルはそうじゃなきゃね。」
兄上がものすごく悪い顔をしている。久しぶりにみた悪巧みをする顔だ。結局人間はそう簡単に変わる訳じゃないらしい。
「リネアが私のものになるのは時間の問題だからね。今回のことは非常に不愉快だが無かったことにしよう。今日は彼女の誕生日だろう?面白い誕生日になりそうじゃないか。」
「まさか…皇太子も参加するんですか?」
「そうなるだろうね、リネアの事だ。イーチェンやシャーロット様を紹介する事もできるしね。」
スクールに行くとリネアは来ていなかった。今日の誕生日のイベントは行われるのだろうか?
そんな事を心配していると彼女がランチタイムに皇太子とスクールに来て私に話かけた。
皇太子の横にはフレーデル王国でクラスメートだったランク王国の王族もいる。確か奴の母親は顧客の一人だったはずだ。
ルイーズ・ド・リオンヌ…何故彼がここに…?
「リネア…。私は昨夜大変だったんだよ?」
「ごめん…。」
「兄上が物凄く苛立ってた。」
「うん…。」
「こっちは、ランク王国の人だよね?」
「うん、今回フリッツと一緒にこっちに来たんだって。」
「ちゃんと話をするのは初めてかな?ミーシャが君に世話になったみたいで。」
「ルイ…。」
「そんな人いたっけ?」
「セル…。」
「いきなりいろいろ連れてきて仲良くしろって言うのに無理があるよ。私は基本知らない人が苦手だし、今日はリネアの誕生日で本当に楽しみにしていたのに、ひどくない?」
僕はリネアを後ろから抱き締めて皇太子を睨んだ。
「ごめんね、私も昨日まで知らなかったんだよ。」
「リネアが横にいてくれないとよく寝れないのもしってるよね?」
まぁ、寝れなかったのは兄上のせいだけど。
「ごめんね?待ってた?」
「うん、ずっと待ってた。」
「…リネア、なんかおかしくない?君、彼と一緒に寝てるの?」
「うん。」
「えっ!?なんで?」
「だってセルが私がいないと寝れないっていうから。あ、ベッドは別々だよ?」
「そういう問題?僕の横にいる人が凄く不満そうだよ?」
「リネア…お前…。」
「セルは私の弟みたいなものだもん。問題ないよ。」
「こいつは大人しそうで可愛い顔をしているがいきなり手を出してくるタイプだ。」
「フリッツ…人をそうやって疑うのはよくないよ。」
「リネア、この人ひどいよ、私の事何も知らないのにそんなふうに言うなんて…。」
「そうだよフリッツ。」
「お前なぁ…。」
「…まわりにいるたくさんの生徒が君たちを見てるよ。君たちは目立ちすぎる。」
「ミハイル…。」
「久しぶりだね、フリッツ…。初めてだよ、君に会いたくなかったのは。」
「俺はいつもの事だがな。」
「…リネア。」
兄上が恒例の合図をする。このタイミングでそれをさせるとか、本当に兄上の性格を疑うがリネアは普通に兄上にハグをした。毎日の事で特に気にしていないらしい。
「えっ?今度は何?なんで君は彼にハグしてる訳?」
ランク王国の人が反応した。そりゃそうだよね。
「何でだっけ?…っていうかユーラ、もういい?スクールでこんなの恥ずかしいよ。」
場所の問題じゃないよね?恋人の前でなんの躊躇もなく他の男にハグとか普通しないから。
「まだ駄目。リネア、シャーロット様が君を探していた。一緒に来て。」
「うん。」
「シャーロット…?」
「皇女様だよ、今日うちにくるんだ。ルイにも紹介するね!…じゃあ、ちょっと私行ってくるから一時間後ここで待ち合わせしよう!」
「おい、リネア…。」
「カフェテリアでフィッシュアンドチップス食べてきて、お勧めだよ!」
兄上に連れられてリネアはシャーロット様の所にいってしまった。
「おい、ミハイル弟。」
…もの凄く不満そうな男と困った顔の男が二人…。関わりたくない。
「何…?」
「今のはどういう事だ?何故俺のリネアがミハイルに抱きついたんだ?」
「さぁ?毎日の事ですから…。」
「…あの馬鹿、弱みでも握られたか?もしくは金でも借りたか?」
鋭い…。
「おい、そのフィッシュアンドチップスはどこだ?連れていけ。」
「なんで私が…。」
「誰のお陰でリネアと会えたと思ってるんだ。」
「知らないし」
「いいから早く連れていけっ!」
なんなんだこの人…。
「ごめんね、彼、寝不足な上にお腹が減ってるからさ。」
…なんでこの人が謝っているんだ?
なんで私は昨日から不機嫌な男たちの相手をしなきゃいけないんだ…?




