ヴィルフリートの葛藤
「ヴィル…。お前、やっと帰ってきたと思ったらさ、何なのあの美少女…。」
「カール、手が止まってる。」
「あ、悪い…。だってさ、リネアがいなくて何で違う令嬢がお前の彼女な訳?しかもリスラ共和国の大統領の娘とか…。」
僕たちは久しぶりにカニエルブッラを作っている。
アリーナはまだこのキッチンに来たことはない。
ここは僕とオスカルの為に用意した場所だ。他の女性を入れるつもりはない。
「僕にも分からない…。本当はリネアと今頃ここにこうして一緒にいるはずだったんだ。」
「…なんか悪かったな、一緒にいるのが俺で。」
「いや、むしろ一人でいるより君がいてくれてよかったよ…。」
「そ、そうか。」
僕たちは膨らんだ生地を型に入れていく。
シナモンの香りがする。
「ヴィル…俺さ」
「うん?」
「お前がいない間に彼女ができたんだ。」
「へぇ?おめでとう。どんな令嬢なんだ?」
「同じクラスでカミラっていうんだ…。今度紹介する。」
カールが嬉しそうだ。よかった…。リリアナもこれでお役目ごめんだな。
「うん、楽しみにしてるよ。」
「リネアは?」
「…エンゲル王国にいる。」
「何で?」
「アリーナの兄に連れていかれた。」
「えっ?拐われたのか?」
「…本人はそうは思っていないだろうけどね。政治的な取引の犠牲になったというか…。」
アリーナが年明けこちらに留学してきた。彼女は僕の彼女としてスクールでは大抵僕の側にいる。
仕事があるといえば理解してくれるからこうして少し離れることもできるけど、彼女は僕の父や母にも時々会いに行くし両親も彼女を悪く思っていない。
リスラ共和国との資源の売買が始まり今まで足りなかった金属が調達されるようになり閉鎖していた工場が再開する動きもでている。
はっきりいって非常にまずい。
このままでは本当にリネアと婚約破棄をすることになりそうだ。
なんとかしなくては…。
「リスラ共和国の話なんだけどさ。」
「うん」
「最近…貿易が始まった事もあるかもしれないけど、なんか動きがおかしい。」
「おかしいって、どう?」
「…やたら頻繁にうちの父がリスラ共和国の人間とやりとりしている。」
「何を…。」
「詳細は分からない。だけど何かあると俺は思うんだ。何か分かったら俺もすぐ知らせるから。」
「ありがとう、カール…。」
僕は父の執務室に行ってカールの話をした。
「クラウス大公の動きを調べてもらえますか?」
「…前から彼の事は調べてはいるのだが、一つ気がかりな事がおこってる。」
「なんですか?」
「彼が支持する政党へ最近たくさんの政治家が移籍しているということだ。」
「左派の政党ですね。」
「そうだ。環境保護から開発推進へ変えたい者が多く所属し、リスラ共和国やシアナ共和国との関係を支持する政党だ。
王室としては政党に対し中立的立場をとっているが、私個人が左派をさけてきたからな…。」
「…。」
「クラウスが政治的立場を強めている。彼の目的がもし…」
「もし?」
「あ、いや、何か分かったらお前にも知らせる。お前、リネアとは連絡をとっているのか?」
「…まったく連絡がありません。」
「…お前、まったく相手にされていないのではないか?」
「そんなことありません。もう約束したんです。彼女は僕との約束は守る人だ。」
「アリーナ様も着実にそなたの母からよく思われるよう努力しておられるぞ…。国としては、心配もあるが彼女がそなたの伴侶になるのは悪い話ではないからな。」
「…失礼します。」
オスカル、君は一体何をしているんだ。向こうへいって一月もたつのに一度も連絡をしてこない。
ちゃんと連絡すると言ったのに。
オスカルに会いたい。
早く僕のものにしたい…。
カールとカニエルブッラを作った次の日、アリーナが授業後僕を部屋に呼んだ。
「どうしたの?」
「ヴィルフリート…私ね、昨日フェルセン侯爵という人に声をかけられたの。」
「え…。」
「私、どこかで会ったことがある気がしてずっと考えてたんだけどね…、思い出したのよ。フレーデル王国であの人お兄様と一緒にいた事があるの。オークションに一緒に参加していたわ。」
「…」
「あの人、私にも近づこうとしているのかしら。お茶に誘われたのよ。息子さんが同じ歳にいるから紹介したいって…。私行くべきかしら?行ったらあなたの何か力になれるかしら?」
「アリーナ…」
「私は本当に恥ずかしいけど何も自分の国の事を知らないの。お兄様やセルゲイはいろいろお父様に仕事をさせられてきたけど…。リネアは同じ女の子なのに自分から動いていろいろしているわ。私も私の大切な人の為に動いてみたいの。」
「アリーナ…」
彼女は本当にいい子だ。やっぱり彼女をいつまでも騙しているのはよくない。ただ、側において何か得られる情報があるかもしれないし下手に嫌われて国にとって不利益になるような事になっても困るし…。
僕はどんどん沼にはまっていく気がする。
「あなたが好きなの…。ヴィルフリート、あなたになら私は利用されてもいい。」
アリーナが僕の首に腕をまわす。彼女が僕を求める時の合図だ…。
彼女を利用する?
アリーナを利用すれば利用するほどミハイルの思うつぼなのに?
オスカルと離れている間にすっかり慣れてしまった彼女とのキス。
彼女はどうすると僕が喜ぶか知っている。もちろん僕も…。
これは浮気になるんだろうな。婚約者がいるのに他の人と関係をもってしまうなんて…。
だけどオスカルは多分悲しまないだろう。腹が立つけど彼は僕に対して少しもこんな感情を抱いていないのだから。
早くオスカルとこうしたいのに。
オスカル、君も彼女のように僕を求めて欲しい…。




