僕とフリッツ 1 ヴィル視点
「…で?」
「…リネアが来れなくなったので僕が変わりにこの手紙を持ってきました。」
年の暮れ、僕はフレーデル王国へ向かった。
フリッツにリネアの話をするため。
「わざわざ?そなたとの婚約が決まった事を恋人の私に伝える為に?」
フリッツが腹の底から怒っているのが分かる。
「ええ。あと、留学のお礼と部屋の片付けを。」
「こんな形で礼を返されるとはな…。非常識だ。不愉快極まりない。」
「元々決まっていたことですから。」
「…それで、何故今リネアがエンゲル王国にいるんだ?俺に何も言わず、しかもミハイルとセルゲイと。」
「それはこっちが聞きたいですよ。」
「そなたがミハイルの妹になんか手を出すからだろう!!?この馬鹿!不用意にもほどがある!」
「この前面白そうに祝ってくれたのは誰ですか?」
「知らん!だいたいなんだ?このセンチメンタルな手紙は!俺がこんな物を読んで、はい、分かりました、と納得するとでも思っているのかあの馬鹿は!」
「知りませんよ。僕だって何がなんだか…。父にはアリーナと付き合っていた事がばれるし、アリーナは恋人として留学してくることになったし、最悪だ…。せっかくあなたからオスカルを取り返したのに。」
「自業自得だ。そなた、リネアを諦めさせるために今度はどんな汚い手を使ったんだ?手紙によるとそなたがおかしな行動をとったことが読み取れる。
リネアにとって最も効果的な落とし方…。…そうだな、そなたなら自殺する振りでもしそうだな。」
するどい…。
しかし、'今度は'ってどういう意味だ…?まるで僕がいつも汚い事をしているみたいじゃないか。気に入らない。
「反論しないか。…やはり卑怯な奴だな。そなたはミハイルとそっくりだ。ミハイルの方が上手だがな。そなたは肝心な所で抜けているからな。」
言いたい放題だ。この人がキレるとこうなるのか。
「何とでも言えばいい。元々僕のオスカルを、僕が不在時を狙って奪ったのはフリッツの方だ。野放しにせず、あなたがちゃんとオスカルを縛っていたらこんなことにはならなかったはずだ。彼氏がいるのに平気であちこち遊ばせておくなんて、僕なら絶対許さなかった。」
「あれが俺の言うことなんか聞くと思うか?!
何度も注意したぞ!だけど全く意味がない。あれがめちゃくちゃ自分勝手で思いつきで行動するのは俺のせいじゃない!」
フリッツが荒れている。
いきなり別れを切り出された挙げ句、別の男に国外に連れさられたんだ。そうもなるよな。しかも簡単には行く事のできない場所へ…。
「そなたも他人事のように言っている場合じゃないぞ。婚約破棄も時間の問題だ。」
「え…?」
「分からないのか?これはそなたと私への宣戦布告だろう?ミハイルは本気でリネアを奪うつもりだ。あの男なら妹や親を使ってどのようにでもできる。」
「そんな…。」
「せいぜい国でアリーナに嫌われるようあがいてみるんだな。」
「あなたは…どうする気ですか?」
「俺だって本当なら今すぐエンゲル王国に向かいたいところだ。ただ今俺が行ったところで何になる?俺は自分のやるべき事もここにたくさんある。しばらく様子をみるしかないじゃないか。」
「フリッツ…、あなたは…。」
やっぱりすごい人だ。ああ、この人がライバルじゃなかったらな…。
「とにかく、リスラ共和国の動きにはこれからも気をつけろ。そなたの国にこれから介入してくるかもしれんぞ。」
「はい…。」
「あの馬鹿、エンゲル王国でミハイル達と何をやらかすつもりだ…。」
フリッツが深いため息をついた。
「フリッツ、オスカルの事は…。」
「そなた、俺を誰だと思ってる?」
フリッツ…?
「俺はフレーデル王国の皇太子だ。リネアは俺が皇太子妃に望む唯一の女だ。俺はこんな事でリネアを諦めたりしない。あいつに次会ったらそう伝えろ。」
「嫌ですよ、なんで僕がそんな事を伝えなきゃいけないんですか。僕は自分の事でいっぱいいっぱいなのに。」
「友人だろ?おかしな手紙を持って来ておいて、俺の伝言は伝えないとかふざけた奴だ。」
「お断りします。…オスカルの部屋はどうしますか?一応本人にはすべて引き取ってくるよう頼まれましたが。」
「あの忌々しい絵だけ持って帰れ。二度と見たくもない。」
「…お言葉ですがあれは壁画なので持ち帰り不可能です。あれだけは置いていきますよ。」
「じゃあ、すべてそのままにしておけ!…俺はあいつが帰ってくると信じてる。」
それは無理だと思う…けど、そうは言えなかった。
フリッツが今、物凄く辛いのが分かるから。
「フリッツ、帰国前に飲みに連れて行ってくれませんか?ルイもルドも一緒に…。これからについて話したいんです。」
「…そうだな。我々にはやるべきことがたくさんある。落ち込んでる暇はないのが救いだな…。」
「はい…。」




