オークション会場にて
オークションが進行役の挨拶とともに始まる。
フレーデル語を始めランク語、ロマーナ語の通訳も入る。
聞きなれた声。僕はこの通訳の声を良く知っている。
鼓動が早くなる。
進行役の後ろ、あまり照明のあたらない位置にユーラが、そしてその隣にカールの父親が座っていた。彼らは取引に忙しく僕には気づいていない。
次々に商品が出品される。フリッツの話で聞いていた通り、アフラル大陸の商品が出てくる。
象の牙でつくられた飾りやキリンの剥製、シマウマの革で作った敷物…。吐き気のするような物が金持ちによって次々に高値をつけられ売れていく。
それら商品はすべてスモーランド王室のブランドであると伝えられた。僕は自分の国がこんなふうに利用されるなんて許せなかった。環境や動物保護に力を入れてきた国がこんなことをするはずがないのに。
カールの父親は、商品の希少性や品質の良さを得意気に説明した。ユーラがそれを淡々と通訳した。
「いよいよ、今日の目玉商品です」
司会者が興奮した声をだす。
着飾った小さなこどもがふたり、大人に連れられやってきた。
手には縄がついている。
「皆様お待ちかねの可愛らしいこどもたちです。孤児の二人を今回も保護させていただきました。
一人は2歳の少女。恥ずかしがりやのブロンド、碧眼の子。もう、一人は1歳半の少年。人懐っこく明るい栗色の髪の毛、緑色の瞳の子です。
恵まれないこの可愛そうな二人を、ぜひ、皆様の手で幸せにしてあげてください。興味のある方はぜひお近くにお越しください。」
大歓声が客席からあがった。
「なんだって…?!」
僕が席を立とうとした瞬間セルゲイが僕の口をキスでふさいで僕を座らせた。
「黙って…。決して表情を見せないで。今気づかれたらまずい。私に合わせて。」
客席から待っていましたとばかり大歓声があがる。ステージにいるふたりの子どもたちが怯えている。
僕の表情を見られないようセルが僕を隠すようにキスを続けた。抵抗する気力もわかない。ただ、吊り上げられていく値段の声を聞きながら何もしてあげられない無力な自分に腹が立った。
落札が決まったこどもたちに大人たちが拍手をしていた。
ここにいる人達は一体なんなんだろう。
ユーラが退出の際一瞬こちらを見た気がしたけどそのまま無表情でステージからいなくなった。
脱け殻みたいになった僕をセルはホテルに連れていった。声がでない。頭がくしゃくしゃだ。
セルが僕の隣に座って僕を抱き締めた。
「嫌な思いさせたね…」
「…連れてこない方がよかった?」
僕は首を振る。涙が止まらない。
「これが私たちが父親からやらされている事の一つ。特に兄上は語学も得意で頭もいいから使い勝手が良くて父親に一番期待されてる。」
「セルは…」
「私は薬とかの横流しがメインかな。」
セルが僕の頬に手をあてる。
「ひいた?」
「ひいた…。だけど、ありがとう。連れてってくれて…。君にとってどれだけ危険なことだったか…。」
「リネア…。今まで私はこれでずっといいと思っていたんだ。それなりに自分のしている事を楽しんでいたつもりだったし、父親に認められたい一心だった。
…だけど、君にあってから私の中で寂しいとか嬉しいとか、今迄なかった感情が生まれてきて、そしたら、自分が今していることに疑問を感じ始めたんだ…。」
「セル…」
「でも私も兄上も、やめることはできない。従わなかったら…」
セルの目からも涙がこぼれる。従わなかったら殺されるかもしれない…?。
たった13歳でこの子は今迄どれだけ辛い思いをしてきたんだろう?僕は、君に何がしてあげられるんだろう?
「もう誰かを失うのはたくさんだよ。私はすでに一人きょうだいを失った。君は私のきょうだいになったんだよね?だったら約束して。絶対に死なないって。」
「リネア…」
「私を裏切ってもいい。だから、生きて。」
「リネア…」
セルが大泣きした。僕もつられて一緒に泣いた。
明日になったらこれからのことを考えよう。
今日はいろいろな事があって凄く疲れた。
セルをなだめながら僕はそのまま眠りについた。
朝起きるとセルが僕の横で寝ていた。手を握ったまま寝てしまったらしい。僕が起きようとするとしがみついて甘えてきた。
「行かないで。」
「遅刻するよ。学校に行く時間だ。」
「…こんなに寝れたの初めて。これから毎晩部屋に呼んでいい?」
「いい訳ない。」
「お願い。」
僕はセルの頬をつねった。
「だーめ。」
「けち。」
「ねぇリネア。」
「何?」
「兄上と結婚したら?」
「…なんで?」
「そしたら本当にきょうだいになれるじゃないか。」
「兄上となら私、シェアしてもいいし。」
何を?!
「…学校行くよ。」




